会計検査院という名前は、年に一度はニュースで耳にします。ただ、何をしている組織かと聞かれると、私も答えられませんでした。
本書で腑に落ちた説明はこうです。国のお金が使われた場所なら、例外なくどこへでも見に行く役所。しかも内閣にも国会にも裁判所にも属さない、独立した憲法上の機関です。「会計を教える学校のことですか」と聞かれたこともある、と本書にあります。
驚いたのは、その「どこへでも」の具体性でした。職員は作業着を着て、道具でコンクリートの強度を測ります。国定公園の手すりの安全性や、山道の舗装状況も見る。山奥の山林まで出かけて、鹿よけの柵の手入れ具合まで確認するそうです。園遊会でその話をしたところ「そのようなところまで行かれるのですか」と言われた、という一節があります。私も同じ感想でした。
つまり検査の対象は、遠い世界の話ではありません。電気代の割引も、ガソリン価格の抑制も、給付金も、放課後児童クラブの人員配置も、国税庁の徴税の過不足も、日銀の財務も含まれます。この幅を知れただけでも収穫でした。
アベノマスクでは17社すべての契約書を検査し、布製マスク1枚あたりの費用が約179円だったと積み上げています。倉庫代まで調べていて、布はカビるので湿度を保てる倉庫が要り、月1900万円かかっていた、と。
ここが勘所だと思います。会計検査院は「無駄遣い」という言葉を使いません。無駄かどうかは人によって割れるからです。だから必ず法律や規則という共通のものさしを持ってきて、事実だけを置く。
その積み重ねが制度を動かします。教育訓練費を5万円増やしただけで法人税が1000万円減る仕組みがありました。検査院は、これを要望した経済産業省が根拠に挙げた論文をそのまま使って効果を試算し、控除が過大だと示します。報告の11ヵ月後、廃止が決まりました。
読み終えて、ニュースの見え方が少し変わりました。「会計検査院が指摘」という短い見出しの裏に、現場を歩いて数字を積んだ人たちがいる。そう思って眺めると、税金の話が生活の話に変わります。
増税と減税のどちらが正しいか、その答えを求める方には向きません。著者はそこに踏み込まず、判断する材料が国民に渡っていない、と述べるにとどめます。その抑制の効いた姿勢が、本書の信頼を支えていると感じました。