日暮吉延のレビュー一覧
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[法廷という政治]丁寧に第一次資料を積み重ねながら、今日においても論争が絶えない東京裁判を、「国際政治」の場だったと捉え直した作品。戦中・戦後の混乱の中で、各国・各人の異なる思惑がいかにして東京裁判という場に結実したかが解き明かされています。著者は、2008年にサントリー学芸賞(思想・歴史部門)を本作で獲得した日暮吉延。
東京裁判やその評価に関する書籍は数あれど、ここまで総合的に透徹した情報や見解を盛り込んだ作品は珍しいのではないでしょうか。国際政治という強弱の軸を東京裁判にとおすことにより、本書は長年続いた正邪に関する論争に今までにない回答をもたらすだけでなく、何故にこの「歴史」が外交課 -
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表題の「東京裁判」とは、いうまでもなく、戦後日本の占領期において、聯合国側によって戦争犯罪者を裁いた「極東国際軍事裁判」のことで、そこで東條英機元首相らが「A級戦犯」として裁かれたことなどは一般常識の範疇であろう。しかし、わたしたちはほんとうに、この裁判について知っているといえるであろうか。この本を読むと、われわれがいかにこの裁判のことについて表面的な智識しか持ち合わせていないかに気づかされ、驚かされる。たとえば、B・C級裁判にかんしては、教科書でもほんのすこししか触れられていないので、本書に登場する関聯する記述のいっさいがいちいち新鮮な驚きであった。あるいは、戦犯の釈放について。戦犯と聞けば
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本書は、東京裁判が「『文明の裁き』と『勝者の裁き』の両面をあわせもつ」ものとした上で、国際政治の舞台及び手段であったと提唱している。さらに本書は、国際政治としての東京裁判の目的が、「連合国と日本の双方にとって『国際政治における安全保障政策』」にあったことを指摘している。
本書は、「歴史」の確定自体が政治的行為であるとしたうえで、東京裁判を「国際政治の結果」と割り切ることが重要であるとの見解を示している。今後東京裁判を考えていく上で、「文明の裁き」「勝者の裁き」といった従来の対立構図にこだわるのではなく、「国際政治の結果」として成功したのかどうかを考えることが、研究の一方法であることをも語って -
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極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判を様々な角度から克明かつ実証的に論じた一冊。
著者の立場は、「東京裁判史観」といわれる肯定論に立つものでもなければ、単純な否定論に与するものでもありません。
「あとがき」から引用すれば、
東京裁判の「意図」よりも、政策としてどうだったかという「結果」を評価し、そのさい「連合国側から見た場合」、「日本側から見た場合」と目線を変えることが有用であると考えている。
と、明快に宣言されています。
章立ては以下の通りです。
第一章 東京裁判をどう見るか
第二章 東京裁判の枠組みはいかにして成立したのか
第三章 連合国は何を告発したのか
第四章 日本はどのように対 -
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安倍首相の靖国参拝を受けて再読。思えば本書を最初に読んだのも、小泉首相(当時)の参拝問題がきっかけだった。
例えば「A級戦犯」という言葉。今日では「敗けた責任を負う者」として使われることが多いが、東京裁判で裁かれたのはそうではなく、それまでの国際法では規定されていなかった「戦争を起こした罪」が“事後法”として適用された。本書は膨大な史実をもとに、一切のイデオロギーを排した地点において、東京裁判を総括している。
本書を読むと、東京裁判が当時の国際状況を反映した、いってしまえば「ゲーム」であったこと、そしてそのゲームは今も続いていることを感じる。一方で靖国へのA級戦犯合祀が東京裁判否定論者によ -
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[ 内容 ]
「東京裁判から60年。ようやく〈事実〉に基づく、冷静かつ実証的な研究がなされる時代がきたとの感に打たれた。〈歴史〉が待ち望んでいた書だ。」――保坂正康(ノンフィクション作家)
東京裁判は「国際政治」の産物以上のものではない。
イデオロギーを排し、徹底的な実証と醒めた認識で「文明の裁き」と「勝者の報復」をめぐっての不毛な論争にいまこそ終止符を打つ。
[ 目次 ]
第1章 東京裁判をどう見るか
第2章 東京裁判の枠組みはいかにして成立したのか
第3章 連合国は何を告発したのか
第4章 日本はどのように対応したのか
第5章 判決はいかにして書かれたのか
第6章 なぜ第二次東京裁判は実 -
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本書は是非をあえて論ぜず、東京裁判を「国際政治」の枠内で論じようとするところに非常な新鮮さを感じました。
本書を読むと、「東京裁判」を利用し国際政治への緩やかな復帰を目指していた吉田茂を中心としたグループの考え方がはっきり読み取れます。
東京裁判を利用したのは、アメリカでもイギリスでもない、ほかでもなく日本そのものだったのだワケです。
もうひとつ、東京裁判というと始めに結論ありきの裁判と見られがちですが、検事団、判事団ともに多くの意見の齟齬が生じており、判決までほうほうの態で漕ぎ着けたということが本書でよく分かりました。
そこには冷戦の始まりという国際政治の影響が、すでにこの裁判を覆っ