著者(女優・浅野温子)が、日本各地の神社で「「古事記」を題材にした一人語り舞台」をやられている、ということを初めて知ったのは8年ほど前だったでしょうか。
直感的に「観劇してみたい!」と思いながらも、今日にいたってもまだ、その機会を得ることができずにいます。
観劇できなくても、せめてその想いの一端
...続きを読むを知ってみるには良い機会、と思い、本書を手にさせて頂きました。
本書の冒頭で著者は次のように語っています。
二度と同じものなどない世界。これが生の舞台の最大の魅力です。
【本書抜粋 著者】
37歳のとき、初めて舞台を踏みました。
(中略)
実際に取り組んでみると、それま映像で培ってきた芝居の経験はまるで通用しませんでした。
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この生の舞台で、「古事記」を題材にした「一人語り舞台」をやる。
観劇する側としては、これほど心揺さぶられるものはそうない、と思います。
この舞台は、
・「古事記」の知識がなければ理解できない原文を読む形をやめた
・誰でもわかりやすい言葉で書いてくれる作家を必要とした
・「古事記」のエピソードから何を読み取ったかを、一つひとつ徹底的に話し合った
とされています。
つまり、「古事記」の原本そのものではなく、それをもとに著者が独自の解釈を加えている部分もあります。
それゆえに、「「古事記」をどう解釈し、何をメッセージとして受け取るのか」という問いを、観劇者または本書読者に自然に投げかけるものとなっています。
本書は、一つの章を以下の構成で綴っており、全5章から成っています。
つまり「古事記」から抽出した5つの物語に関する脚本ということになります。
・物語(脚本)のあらすじ
・脚本から抜粋された、実際のセリフ
・著者の解釈や想いに関する記載
元となっている脚本の完成度の高さが、本書から溢れている、そういう印象を持ちました。
著者の解釈もとても興味深く、あっという間に読み進めてしまいました。
私は古事記が好きで、たまに拾い読みをするのですが、著者が語った以下の想いに賛同します。
【本書抜粋 著者】
(古事記について)神様の話ではあっても、今の私たちにもリアリティを持って受け止められる様々な生き方が描かれていたのです。
そこに登場する神様たちは喜怒哀楽に溢れ、愛情表現も大胆すぎるぐらいに大らかでした。
そして、失敗もし、過ちも犯しました。
また、目の前で起きている事柄に対して、徹底して向き合っていました。
男と女は愛し尽くし、とことん執着し、時には嫌悪感をむきだしにしたり、激しく罵り合っていました。
(中略)
私たち日本人は千三百年も前から、こんなダイナミックで魅力的な物語を伝え続けてきたのかと、誇らしく思う一方で、それが私たちの日常から消えつつある現状を危ぶむ気持ちが湧きました。
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手にとった時の想定を大きく超えて惹きこまれた一冊。
一度観劇させて頂きたい。
そんな想いを一層強くさせてくれる一冊でした。