山本昭宏のレビュー一覧
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平和主義の変質を議論する著作だが、あとがきで次のような要約がある.「戦争のない状態」としての「平和」に関する認識としては、九条の理想を掲げる戦後的な反戦・平和主義があるが、これは年長世代を中心に残存しているものの、その弱体化は疑えない.弱体化や影響力の低下をながらく指摘されながらも、確かに残っているという事実を軽視すべきではないけれども、それが弱体化することで、日本社会のより根底部にある生活保守主義に基づいたしたたかとも呼べる平和主義が目立ち始めた.230頁の内容をこのようにまとめる力に驚嘆した.その直後の解説に「したたか」が出てくるが、その通りだと思う.第二、三、四章で語られる歴史的事項はほ
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ちょうどこの瞬間、バイデン大統領と菅首相と日米首脳会談が行われています。なぜアメリカ新大統領の最初の会談相手が日本なのか?それは中国の専制政治に対する民主主義の国家の連携強化というアメリカの戦略により実現したとの解説を聞きました。今や世界の中で民主主義が根付いている国の代表として日本が選ばれている、ということでしょう。その我が国の民主主義が1945年の敗戦以降に「戦後民主主義」としてどのように育まれどのように論ぜられどのように疎まれていったかを一望する意欲的な新書です。なにしろ最終章のひとつ手前の章が「限界から忘却へ 一九九二〜二〇二◯」と来て最後が「戦後民主主義は潰えたか」ですから。ではアメ
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何となく題名に惹かれたという程度で済まないような、濃密な読書時間を本書と共に過ごすことになったような気がする。非常に読み応えが在る労作であるように思う。
漠然と思うのは「戦後」というように言う場合、「1945年8月」の以前と少し「切り離されている?」ということと、「既に数十年経つ中、漠然と一括りのように?」というようなことだ。今や「戦後」と呼ばれる「1945年8月」の後だけでも75年も経った。これは「明治元年から昭和20年」という期間の年月と既に大差が無い。だから所謂「戦後」にも既に様々な経過、変遷というモノが在るということになる。
本書は、「“戦後民主主義”という、時々聞く用語は一体何なのか -
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原爆投下と終戦後、日本人が核と言うものにどう関わって来たのか、社会運動、報道、大衆文化を徹して詳細に説明されいる。
著者は原爆あるいは原発に偏ることなく『核』に対して、国民の意識がどうだったかを歴史をおって説明してゆく。それは読者としての私には『かなり悲しい』内容だった。
国民は原爆の後、こぞって『核』に反対していたが、次第に『核の平和利用の安全神話』即ち原発に毒されていったのだと思っていたが、そうではなくて、『平和利用』には当初から漠然とした安心感があったということを知らされた。もちろん、原発の危険性が大きく取り上げられて、世間の潮流となった事もあったが、一種の流行でしかなかった。
また、核 -
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終章に「罰則をともなう規制ではなく、自粛要請を採ったのは、強い規制が基本的人権や自由を制限しかねないからだろう。そこに、ドイツと同様、戦後民主主義の残滓を読み取ることも不可能ではない。国や自治体の意図は措くとして、自粛要請という出来事は「自由で民主的な主体」とは何かを問いかけていたのだと理解できる。他者への配慮による自粛と、同調圧力とが混ざり合いながら、基本的には憲法の精神を大きく損なうことなく、多くの人びとが緊急事態宣言下を過ごした。」、とある。確かに事の善し悪しは別としても、(2回目の)緊急事態宣言下の現状が日本の戦後民主主義の1つの到達点だと思う。
ロックダウンするでもなく、かといって -
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20210126-20210214
アジア・太平洋戦争の悲惨な体験から、多くの支持を集めた「戦後民主主義」日本国憲法に基づく民主主義・平和主義の徹底を求める思想だが、冷戦下のにおいて9条(と憲法前文)に基づく戦争放棄の主張は理想主義と、経済大国となってからは「一国平和主義」と批判され、近年は、コロナ禍にやや下火になっているとはいえ改憲論の前では守勢にある。本書は戦後の制度改革、社会運動から政治家、知識人、映画などに着目し、戦後民主主義の実態を描いている。
著者は1984年生まれとまだ若い研究者。彼にとっては久米宏も小林よしのりもかなり上の世代という認識なのだろうな、と思った。もう少し個々の -
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神戸市外国語大学専任講師の山本昭宏(1984-)による、映像・漫画を中心とした原子力をめぐるイメージ像の戦後史。
【構成】
第1章被爆から「平和利用」へ 占領下~1950年代
第2章核の現実とディストピア世界 1960年代
第3章原発の推進・定着と会議 1970年代
第4章消費される核と反核 1980年代
第5章安定した対立構造へ 1990年代から3.11後
「3.11」後、戦後日本の原爆・原発をめぐる受容・反発の過程を論じた出版は多い。その中で、本書の特色は、主として映画、漫画を中心とした大衆文化への投射のされ方を基軸にしてそれを論じているところにあるだろう。
視角、内容を見ると山本も執 -
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1989年~2023年までの日本社会における「戦争と平和」論を追跡する。情報は手際よく整理されていて、いろいろなことを教えてくれるが、どうにも記述に深みがない(4000字ぐらいで一つのトピックが片付けられ、すぐに次に進んでしまう)。印象が残らない。たぶん、ここで展開されている議論に文化的・思想的な深みが感じられないからだろう。宮崎駿の諸作品や岡崎京子『リバース・エッジ』、岡田利規『三月の5日間』などのフィクションも取り上げられているが、基本的には従前の議論の紹介と再解釈にとどまる。よく言えばジャーナリズム的な、皮肉に言えば気の利いた学生のレポート、というところか。
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憲法の価値に加え(一国)平和主義と直接民主主義と平等主義を重んじた戦後の思想の総称。厭戦気分から生じた「公」への不信感が「私」の盲目的尊重に繋がったという印象を受けた。戦後世代が主流の今、厭戦という動機が消えてただの個人主義に収束したとみると、戦後民主主義の変質が理解できるような気もした。なので著者の言う戦後民主主義の衰退には賛同できない。昨今ジェンダー系の運動が盛んなことを踏まえれば、個人の主体性を尊重しようというリベラル側の勢いは未だに衰えているわけではなく、対象が非武装中立などの国策の話題から個人の権利を求める個人主義的運動の話題に変化したと見るのが自然だと思う。平和主義は厭戦の動機を離
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神戸市外大准教授(社会学)の山本昭宏(1984-)による戦後の「平和論」紹介。
『核エネルギー言説の戦後史1945-1960』『核と日本人』など、原子力をめぐる戦後の言説・メディア分析を専門としており、話題性のある著作を発表している若手と言える。
ただし、本書については、率直に言って、期待外れ。
「教養としての」と書いてあるのだから、およそ基本事項は抑えてあってしかるべきだが、そんなことはない。
評者は1955年体制構築そして60年安保に至るまでの期間は平和論を語る上で、非常に重要な時期だと考えるが、本書の政治史の纏め方はかなり雑。本当に理解をして書いているのか疑問を呈さざるを得ない。