2000年以上にわたる技術史について文庫本1冊に説明されており,技術史の書籍としてはこの簡潔性だけでも価値を感じる.各話題に深入りせずにコンパクトにまとめることにより,(歴史を含まない)本科に忙しい理工系学生にとっても手に取りやすい本になっていると思う.
幕末・明治日本の産業化についての第12章で,「機敏かつ的確」と評しながら産業化にむけた幕府の対応を紹介している.人材育成や産業設備の建設などの取り組みを,維新直前の江戸幕府が迅速に行っていたことは自分には初耳で,興味深かった.
最終章で(技術史とは異なるものとしての)工学史の意義を強調しているが,個人的にあまり共感できなかった.工学は「技術の科学」として捉えるよりもむしろ「科学的な技術体系」と捉える方がしっくりくる.その意味で工学の歴史を技術史から独立させる理由を感じなかった.
一方で,成熟した学問なら歴史を重視すべき,という主張には共感した.というより,そもそも自分の中でのこのような意識が本書を読む動機だった.技術の歴史に触れたいという当初の目的をある程度実現してくれたので,満足した.
以下,読書中に感じた不満点について,細かいので箇条書きで並べる:
・内容の配置について,(おおまかには編年体ではあるものの)時系列に対して200年程度の単位での行きつ戻りつが多々あり,読みづらく感じた.第6章では,§6.4までで19世紀中ごろまでのイギリスでの産業革命について記述した後,直後の§6.5では17,18世紀における王政フランスの土木技術に話題が変わる.つながりが見えない上に時代も遡り,読んでいて混乱した.(章立て内の「18,19世紀」も混乱を招く.)この二つの話題が一つの章にまとめられている理由がわからない.
・時系列のまとまりによって内容を配置する方針と,トピック・テーマごとのまとまりによって内容を配置する方針の,どちらかに振り切っていた方が読みやすかったのではないか.科学革命以降(第5章~)についての記述は後者の傾向が強く感じたが,その方針を取るなら方針自体を明確に提示して,以降の各章題や章の前書きに場所・時代・トピックを示すべきだと思う.イギリス産業革命については第6章(の前半)で一般的な説明が記述され,第8章で工学形成の要因という切り口から再度取り上げられ,説明される.(編年体的に)歴史の流れを掴もうとする読者にとっては,2世紀を跨ぐ産業革命の内容をさかのぼって最初から追う形になり,混乱を招く.話題を特定して再度同時代を説明することを提示すれば混乱は低減できただろう.
・第9章の終わりでは,細分化していく(機械)工学分野の状況とそれに対する筆者の嘆きが記されているが,歴史に関する記述なのか現代の状況に対する批評なのか区別がつかない.この二つを明確に区別できるように記述していないのは,歴史に関する書物として個人的に危うさを感じる.