ミック・ジャクソンのレビュー一覧
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罪を被る熊、下水道の掃除をする熊、潜水夫の熊など、イギリスの社会で熊がどうしていなくなったのかをユーモラスに描く短編集。
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イギリスにはクマはいない。はるか昔に狩り尽くしたから。という事実を知っていて、それをどう表現するものなのか、という好奇心で読んだのだけど、本当に面白かった。熊を労働階級の人々に重ねて、その過酷な環境を描く社会風刺もすごく効いている。これらがユーモアを交えて描かれていて、とても面白く読めた。
特に作者が熊(社会的地位の低い人々)に対してシンパシーを持っていることがよく分かって、共感できるお話だった。訳者解説にはイギリスのクマの絶滅事情も書かれていて、社会定期背景と重ねながら読むととても味わい深い。他の著書も読んでみたくなった。 -
Posted by ブクログ
どの短編も奇妙で、ちょっとまぬけで
ちょっと残酷で、ちょっとワクワクして、
とにかくおもしろかった。
中でも蝶の修理屋さんの小道具を手に入れた少年の話しは、ワクワク感がすごかった。
蝶のコレクションを見ると、美しいのだけれど、
これほどの蝶を殺してミイラにしているかと、
思うと、なにか違うんじゃないかと思う気持ちは
よくわかるし、そう思ってもきた。
少年の努力と思いが報われた瞬間は、もうたまらなくスッキリとして、ほっこりとして、嬉しくなった。
それに火星人がきたと大騒ぎになる子供たちの話し。
これは楽しかった。常になにかに飢えて、冒険をしたくなるお年頃。つまらない日常が一瞬にして
ワクワクだらけの非日常になる。
それに対する大人たちの対応もすごかった。
ことに校長先生のアイデアは脱帽。
子供たちのワクワクをつぶさずに、本当に上手に収束させている。
こんな大人ばかりだったら、子供たちは、のびのびと素敵な成長を遂げることでしょう。
よい読書時間となりました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ真夜中の精霊であり、罪を食い、犬と闘い、サーカスで働き、下水処理をする熊たちの奇妙な味の8つの寓話。
イギリスでは乱獲により熊は絶滅し、さらに「熊いじめ」というブラッド・スポーツが19世紀まで行われていた、そのイギリスの作家による仄暗くユーモアたっぷりの不思議な物語たち。
ミック・ジャクソンは容赦ない。描かれるクマは悲しみを誘うけれどちっとも可愛くないし人間も泥臭くずるがしこく浅ましい。そんな熊と人間がまるで心を通わせたかと思ったときにちゃんと現実を教えてくれる。特に74頁。
こういう話を読むと「この本に出合えて良かったなぁ」と強く思います。
イギリスと言えばプーさんやパディントンの国と思っていたので熊いじめに驚きましたが、「クマのプーさん」は1926年、「パディントン」は1958年と比較的新しいキャラクターなんですね。
ミック・ジャクソンは自分にも容赦ない。
「まず第一に、ただでさえ薄い本だというのに長めの章をひとつ飛ばしてしまうとなると、この本がパンフレットに毛が生えた程度のしみったれたものになってしまうこと。」(P45)
物語にこういう語りを入れてくるの、好きです。 -
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これは――おとぎ話なのか?痛烈な風刺なのか。どうとも捉えられそうな、イギリスと熊の物語8編。
言葉なき熊と取引めいたことをして、人間は心の安寧を得る。しかし、しょせんそれは異なる種族との取引。常識も前提も違う熊との間で、お互いに利がある取引なんてのはまやかしなのだと明らかになる。熊は知らず課された役割を、やはりそうとは知らぬまま放棄して、少しずつ人間社会から遠ざかっていく。そのさまが、人への皮肉や糾弾にみえる。
読み進めているうちに、熊が人にも思えてくるのがこの本の怖いところ。虐げられている人、支配されている人、社会の中で見えない存在とされている人たちを熊に仮託しているのではないか?ときに団結する、しかしたいがいは物も言わずうなだれて、その場を去ってゆくしかない人々を。
『下水熊』。"少年は、母親に手を引かれ、明るい陽だまりのほうに連れ戻されながら言った。「ねえ、さっき熊がたくさんいたの見た?」"
分断された、光と影。
そして影たる熊たちは、舟に乗り込んで外海へ出ていく。さながらユートピアを探し求める人々のように。
"何頭かが後ろを振り返り、冷たく残酷なイギリスに最後の一瞥をくれた。"
ラストのここに至って、イギリスが"見捨てられた場所"に感じられ、いつのまにか視点が熊に寄っていることにはたと気づく。
哀しさ、さびしさ、あきらめの思いが、読後の心を揺らしている。 -
Posted by ブクログ
二子玉川の蔦屋書店で出会い購入。
熊にまつわる短編寓話。今読みたい雰囲気に合っていてすごく良かった。
イギリスでは熊が絶滅していたとは知らなかった。
(サーカスなどの見世物の対象や、毛皮としての利用など。)
人間に支配されながらも、決して腹の底では屈しない姿。弱肉強食のこの世界で人間が頂点に君臨しているのもほんと偶然なのだな、と。
秋田では熊が人間社会に降りてきて襲われた事件が年に数回起こるなどがあるから、熊を割と恐ろしい存在として認知しているから、(イントネーションもく"ま"と後ろにアクセントを置いて可愛らしさを排除)すんなりと熊の恐ろしさを分かった上で読み進められたけど、都会の人にとってはひとつのファンタジーなのかな。
113/140 -
Posted by ブクログ
人類からこんなにも愛されながら、こんなにも迫害された動物も珍しい。そんな奇妙な人間と熊の関係を豊かな想像力で語る。イギリスらしい皮肉たっぷりなファンタジー。
最近話題の「熊」。去年の「今年の漢字」が「熊」だった。来年もっと熊が増えたらどうするんだと思った。
ちょっと前に『熊 -人類との「共存」の歴史』という本も読んだが熊と人間の関係は奇妙で面白い。何となく熊が気になっていたところ面白いタイトルの本書を見つけた。このタイトルからしてふざけている。パラパラめくると挿絵もとても素敵で、ちゃんとふざけてそうだったので購入した。
熊への愛と哀惜に満ちた8つの物語。なんともイギリスらしい本だと思った。歴史が凝縮しているように感じる。こんな本が日本で作れないか。近いのは『平成たぬき合戦ぽんぽこ』か。
好みは分かれるかもしれないが、個人的にとても好きだ。こんな本を待っていた。児童文学に興味のある方は現在進行形の児童文学として楽しめるはず。
ミック・ジャクソンの作品ははじめて読んだが、児童文学や伝承の勘所をよく掴んでいて、短編ながらよく魔法がかかっている。なかなかここまで魅力的には書けない。何よりユーモアとペーソスのバランスが良い。可愛いだけではなくちゃんと恐ろしい。読みやすさに配慮して善悪の判断をきっちり決めてしまうと味わいが無くなってしまうと思う。熊にとっては善も悪もないのだ。シャケかそれ以外か。
熊が何を考えているかは曖昧にしていて、読者がどこに想像力を使うのか、書くところとあえて書かないところが凄くうまい。読者があまり考えたくないような、残酷なシーンが容赦なく残酷であるのも、もっとやれ!と読者の本音が良く聴こえているからだ。そういう意味で、ミック・ジャクソンは優れた作家である以上に、優れた読者なのだろう。
あとがきにもイギリスと動物虐待の歴史が解説されているが、確かにこの本を書いた一つのインスピレーションとしてイギリスの熊たちがいることは確かだけれど、これをイギリスの話と留めてしまうのはとても勿体ない。
道徳の教科書的な毒抜きされた童話に対抗する野心的作品でもあると思うし、人間の精神の深いところにある、自然に対する信仰を現代に何とか甦らせようとする試みのようにも感じる。読者の心の隅で、熊達は今も舟の上でその時を待っているのだ。
挿絵は言わずもがなに素晴らしいが、あまりに文章と合っていたので著者が描いているのかと思っていた。あとがきを読んで別人である事に気づかされた。優れた物語は運命を引き寄せる力もあるのかもしれない。
この手の本はもっと読みたい。もっと熊について考えたい。今年の漢字も「熊」でも良いかもなぁと思える。いや、「油」かなぁ。そんな小説でした。 -
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ミック・ジャクソンとは「こうしてイギリスから熊がいなくなりました」で出会った。現代作家だが、作品の設定に時代感があり、1960年生まれということに意外さを感じた。
私の最近のもう1人のお気に入り、ジョン・コナリー同様、ものすごい才能なのに日本での知名度は低く、翻訳本も少ない。
”熊“がまさしくそうだが、この短編集でも、かなりの奇想天外な話が淡々と語られ、しかもほとんどが静かに終わる。
彼の代表的な作品の世界は、乾いていて寂しげだ。「ピアーズ姉妹」しかり「地下をゆく舟」しかり「蝶の修理屋」しかり。
しかし登場人物たちはそれを悲観するでもなく、頑なに静かで揺るぎない。
時折、心の中を隙間風が通るようではあるが、すぐに日常の習慣に立ち戻っていく。
彼らの暮らしぶりには無駄がなく、時計の針のように正確に日常を刻む。夢や理想を追うことのない生き方は、寂しさや哀しみから彼らを守ってくれている。
だが、彼らに非日常(溺れていた男、ボートと洪水、標本の蝶と修理道具)が襲いかかると、さすがの彼らにも夢や興奮が生まれ、突如として大胆になり、もの凄い行動力を発揮する。何とも恐ろしい小市民だ。
そして彼らはそれぞれに自分流のやり方で非日常を飲み込んでしまい、よってほとんどの話の結末は”静かに閉じる“のである。
もっともっと読みたくさせる作家である。 -
Posted by ブクログ
1 精霊熊
2 罪食い熊
3 鎖につながれた熊
4 サーカスの熊
5 下水熊
6 市民熊
7 夜の熊
8 偉大なる熊
「先に読むことをお勧めする」というあとがきにある通り、8つの短編(真珠)が糸で繋がって首飾りになってるような。訳者は「中編小説」と評していたがまさにそんな感じ。それぞれに異なる手触りの幻想性、ユーモラスさ、底冷えする恐怖、人間のいつもの身勝手さ、登場人物全ての生き物としての物悲しさがある。並べるとグラデーションをより楽しめるし、最も気に入った章が他の印象も引き上げる。
1000年前に国内の熊を絶滅させたイギリス人だからこそ書くテーマ、読み込める空気なんだろか。
身なりのいい下卑っていうか、こういうのは海外小説の味っていうんですかね。
8編どれもいいけれど、潜水夫の熊を書いた「市民熊」がいいなぁ。
デイヴィッドロバーツの陰鬱キュートなイラストも、熊の目には猜疑心や諦めが、人間には愚かさが見事に描かれていて文章とマッチしてる。 -
Posted by ブクログ
短編集だけど順番に繋がってはいる。熊たちの漫画のような行動はさておき、一部ノンフィクションのような気もする。タイトルから連想されるようなおとぎ話というよりかは、どちらかと言えば神話めいている。「イギリスの熊神話」的な。ひょっとしたら世界中の神話も、こうやってフィクションとノンフィクションをミックスして出来ているのかな…
とりあえず今掴めているのはこれくらい。あとは読んできた内容・情景が蜃気楼のように今も脳内でゆらめいている。自分の頭において、ここまでレビューに困る作品は久々かもしれない。
現にイギリスには野生の熊が生息しておらず、本書では彼らがいなくなるまでの経緯を時代ごとに辿っている。語りのスタイルが(恐らく)著者の想像に史実を加えたものであるため、神話めいて見えるのはそのせいかもしれない。
灯りが発達していなかった時代に夜の悪魔として恐れられていた「精霊熊」、人間の格好で危険なパフォーマンスを強いられていた「サーカス熊」、ロンドンの下水で雨水などを川に流す労役につかされていた「下水熊」など、本書では8種のイギリス熊が登場する。
全体的な印象としてはみんな賢くて、獰猛で、静か。
知恵が回り、時には非情に手を下す。ラスト2章の「夜の熊」「偉大なる熊」においては、どこからともなく現れ人間にすら気配を感じさせない静けさをたたえていた。こうやって振り返ると、彼らはグレートブリテン島にしばし降り立っていた神の化身とすら思えてくる。
化身でいうと、人間のフリをして生きていた「市民熊」が自分にとっては強烈だった。
そのシチュエーションはさることながら、何でそうなったのかが読んでも分からず…。思わず訳者あとがきと解説に助けを求めてしまった。(ある程度助けになったので、他のお話でも混乱した際はここに駆け込むことをお勧めしたい)
「市民熊」は終始潜水服に身を包み、素顔を見せなかったという潜水士(あるいは潜水熊?)ヘンリー・ハクスリーと、人間の相棒ジム・ストゥーリーの物語。潜水士をしながら、いったい彼は何を見てどう感じていたのか…。挿絵を参考にしても、潜水ヘルメットをされていては何も伝わってこない。
人間のフリをしていたというのはあくまで推測みたいだが、熊が熊で在れなくなった原因から考えていく必要がありそうだ。
昨年日本国内でも、熊が住宅街で発見されたり住民を襲撃するといった事件が多発していた。熊と人間との共生を巡って、人間同士の意見が対立する様子もメディアでよく報じられていた。
動物園くらいでしか熊に会ったことがない自分には何も意見が出せず、読後の今もどうすれば良いのか分からずにいる。
ただ一つ。
本書を通して伝わってきたのは、天下の大英帝国でも共生に四苦八苦していたこと。
国中から熊がいなくなるとはどういうことなのか…。そう思いを巡らす読者の心に影を落としていくことだろう。