室井尚のレビュー一覧
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文科省による国立大学への文系学部(特に人文学系)再編要請に対して、国立大学改革の実情や歴史、そして大学の役割等の観点から、その要請がいかに不合理なものであるかが、横浜国立大学教授の著者によって喝破されている。
社会で「役に立つ」学問の教育に力を注ぐべきと政府は煽るが、国が定めた「あるべき」像に隷従した果てに社会の進歩が見えてこないのは私だけではないはず。
本文でも言及されている通り、進歩とは前に進むことであり、「前」がどちらなのかが分かっていなければ逆走だってあり得る。人・コミュニティ・組織・地域・社会によって「前」は多様であるはずだから、一人ひとりが考え、対話し、うっすら見えた「前」に向け -
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「第二次安倍内閣における教育再生実行会議の構成員は、
安倍晋三、菅義偉、加藤勝信、世耕弘成、杉田和博、下村博文、丹羽秀樹、義家弘介」(44頁)
これでもかと言うほどに碌でも無い面子である。
大学潰しは安倍内閣から始まったわけでもない、というのは本文中でも説明はされているが、しかし碌でも無い面子である。
この本はしかし、大学生の学力低下を扱ったものと併読すると興味深さが増すと思う。
たとえば河本敏浩『名ばかり大学生』(光文社新書)の、次の文章など、考えさせられるものがある。
「日本の教育制度の歩みを概観したとき、そもそも小学校であれ、中学校であれ、高校であれ、勉強のできない子供に対して、 -
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横浜国大の先生が近年の国立大学への文科省の方針を容赦なく斬る。痛快であるものの、実際にこの方向へ国が進んでいるということは憂慮すべき状態なんだ!「国家や企業に奉仕する人材を育てるのではなく、人間を育てる」とは全くその通りで、分かり易い文科省批判の言葉だろう。「人類が長い時間をかけて蓄えてきた文化や藝術、思想や哲学、自国や他国の歴史に愛着も興味ももたず、ひたすら株式会社化した大学や社会に自分を最適化させ、ただ自分の人生をグローバル資本主義におけるさまざまな課題解決だけに捧げる学生しか育てない」とはその通りである。大学における理系重視はその方向を助長させているに違いない。国立大学の学長に理系が増え
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Posted by ブクログ
地方国立大学の内部にいる筆者による陳情・意見の本なので、極端な例やかなり怒りに満ちた言も見受けられる(評価アンケートや手続き合理性など)。
が、それをさしひいても、国の政権・行政方針が変わるたびに振り回されてしまう国公立大学の不憫さ(人手不足なのに学部新設させられたと思いきや早々に廃止だの、形式的事務作業圧迫だの、民間の経営手法に倣えだの・・)がうかがえる。
人文系学問は短期的に役に立たないからと軽視すべきでないし、知の多様性をいかに守るべきかは大きな問題だ。
まさに、哲学や文学に潜む文脈や歴史から、現世の常識を疑い、新しい問いを立てるための知なのだ。