ピーター・トレメインのレビュー一覧
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「祝祭日の死体」Corpse on a Holy Day
聖デクランの祝祭日。彼を祀る礼拝堂に詣でたフィデルマは、二百年間眠る聖人の亡骸の上に、刺殺されて間もない若い女性の遺体を発見する。その女性はフィデルマが訪問しようとしていた修道院の見習い修道女だった。
リアル現代と通じるような猛暑の中、聖地巡礼をするフィデルマ。「なんでこんな暑い中を…」と言いつつも、良い事なんだから!と自分に言い聞かせる優等生気質がほほえましい。それでも事件でごたんに元気になってしまうフィデルマ。
「狗(いぬ)のかへり来(きた)りて……」Like a Dog Returning...
聖パトリックの直筆を納めた絢爛豪華な聖遺物箱の前に据えられた、若い娘の彫像に興味をひかれたフィデルマ。なぜか来歴を言い渋る修道院長を問い詰めると、二十年ほど前にこの場所で殺された修道女がモデルだという。しかしその犯人は、法廷で裁かれる前に修道士たちのリンチにより死んでしまった。納得がいかないフィデルマは過去の事件を探り始める。犯人とされた男性の娘が出てきたり、いかにも冤罪の空気がぷんぷん。クリスティ某作品を思わせる“過去の事件を解決”パターン。
「夜の黄金」Gold at Night
モアン王国と対立関係にあるアイルランド第二の大国ラーハンでは、三年ぶりの大祭が開かれていた。賓客として呼ばれていたフィデルマは、後見人ラズローンと親交を温めるのもつかの間、酒の飲み比べ競争で突然死した男の捜査を頼まれる。どうやら毒殺事件だと判明したため、ただちに調査を開始する。
飲んだ酒の量で氏族の優劣が決まるというくだらない勝負にうんざりするのがいかにもフィデルマ。酒飲み比べで死ぬなんでバカバカしい!何やってんのと思いつつも、事件となるとやはり張り切ってしまうお姫様。
「撒かれた棘」Scattered Thorns
小村で起きた殺人および窃盗事件の容疑者は16歳の少年だった。当地のブレホンから弁護を頼まれたフィデルマがその少年と話してみると、彼は自分の身の潔白を証明することを諦めていた。その理由は、彼と父親が市民権すらない最下級の階級に属する人間だからだという。
弱者に優しく権威主義者に厳しいフィデルマがかっこいい。
「尊者の死 」Death of an Icon
かつては勇猛果敢な修道士としてアイルランド全土にその名が知れ渡った尊者ゲラシウスが、90歳を間近に小小動員内で殺された。小修道院の長である神父によれば、金品を目当てに盗みに入った危険な放浪者が、出くわしたゲラシウスを殺害し、貴重な品々をもって逃走したのだという。殺害された状況と神父の説明に納得がいかないフィデルマ。おまけに現場は事件当時に完全な密室状態だったという。フィデルマは調べを始めるが。
フィデルマ、密室殺人に挑む!皆尊者が大好き故にいろいろ動いてしまう困ったちゃん関係者。 -
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2025年の30冊目は、ピーター・トレメインの「修道女フィデルマの慧眼」です。日本独自の短編集となります。前作「風に散る煙」が、かなり良かっただけに、この短編集も期待が持てる所です。
このシリーズの最大の魅力は、7世紀の古代アイルランドを舞台としているという唯一無二の世界感と主人公フィデルマのモアン王国国王の妹君にして、法廷弁護人という属性、聡明でいて、機知に富んだ性格という、これまた無二のキャラクターに有ります。
素晴らしかった前作と比べてしまうと、もの足りなさを感じもしますが、密室の死の謎を解く「尊者の死」や「撒かれた棘」がおすすめです。いつものように含蓄有る言葉も随所に盛り込まれています。
☆4.4次作の長編に期待です。 -
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ネタバレ(上巻より)
前作に続き、女性が殺人犯とはちょっと芸がない気もするが、
女性の地位が高かったから当然のことなのか?
それと、フィデルマがうかつにも見せた証拠で、
知らなかったとはいえ実の息子を娘の殺人犯として、
死に追いやってしまったことに気が付いた男が自殺してしまったのは、酷い話だ。
そして、フィデルマとエイダルフは二人で旅を始めたのに、
今回の事件でギクシャクするし、
最後にはおみくじのように焼き菓子の中に隠されていた、
指輪と殻付きのヘーゼルナッツを
それぞれひいてしまったという嫌な終わり方だった。
結婚が近いと言う意味の指輪と、生涯独身の意味のヘーゼルナッツを。 -
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ネタバレ修道女フィデルマ・シリーズ。
せっかく二人で旅立だったというのに、
時化にあって頭を打ち船を下ろされてしまったエイダルフ。
フィデルマも一緒に降り立ったその土地はブリトン人の王国で、
ザクソン人であるエイダルフにとっては敵国。
すぐにでも、本来の目的地であるカンタベリーに向かいたいエイダルフだったが、
フィデルマの方は、
修道院の修道士が全ていなくなった謎を解くよう国王に頼まれて、
引き受けてしまう。
調べに向かったフィデルマたちは、
修道士失踪を目撃した若者が、裁判も受けずに私刑されそうなところを助ける。
若者は村の娘を襲って殺したと思われていたが、
フィデルマは疑問を感じる。
そして、事件現場である修道院に向かったフィデルマたちは、
死体を見つけたが、追剥たちの集団に囚われてしまう…。
(下巻へ続く) -
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イギリスの作家ピーター・トレメインの連作ミステリ短篇集『修道女フィデルマの采配 修道女フィデルマ短編集(原題:The Heir Apparent and The Other Stories From Whispers of the Dead)』を読みました。
ここのところ、イギリスの作家の作品が続いています。
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王女にして法廷弁護士、美貌の修道女が
旅先で出会った難事件を一刀両断!
世界中の読書家を虜にする推理の妙〈フィデルマ・ワールド〉
日本オリジナル短編集第5弾
法廷弁護士にして裁判官の資格を持つ美貌の修道女フィデルマが、アイルランドの各地を巡り難事件を解決する。
占星術でみずから占ったとおりに殺された修道士をめぐる事件を描いた「みずからの殺害を予言した占星術師」、小王国の族長の跡継ぎを選定するための会合で、有力な候補者を毒殺した犯人を推理する「法定推定相続人」など全5編を収録。
待望の日本オリジナル短編集第5弾。
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2004年(平成16年)に刊行された作品……修道女フィデルマシリーズの日本オリジナル短篇集の第5作で以下の5篇が収録されています。
■みずからの殺害を予言した占星術師(原題:The Astrologer Who Predicted His Own Murder)
■魚泥棒は誰だ(原題:Who Stole The Fish?)
■養い親(原題:The Fosterer)
■「狼だ!」(原題:Cry Wolf!)
■法定推定相続人(原題: The Heir Apparent)
■訳註
■解説 石井千湖
法廷弁護士にして裁判官の資格を持つ美貌の修道女フィデルマがアイルランドの各地を巡り難事件を解決する……占星術で自らの死を予言して死んだ修道士、犯人と名指しされたのは修道院長だった――『みずからの殺害を予言した占星術師』、、、
小王国の族長の跡継ぎを選定するための会合で、有力な候補者が死亡、どうやら毒を盛られたらしい……果たして犯人の思惑は?『法定推定相続人』等全5篇を収録した待望の日本オリジナル短篇集第5弾。
7世紀のアイルランドを舞台に、アイルランド5王国のうち最大の勢力を誇るモアン王国の王女にしてドーリィー(法廷弁護士)であり、頭脳明晰で美貌の修道女でもあるフィデルマが探偵役を務め、旅先で出会った難事件を一刀両断! アイルランドの各地を巡り難事件を解決する……『水戸黄門』的な結末がスカッとする展開の物語ばかりで読みやすかったですね、、、
途中から結末が予測できたけど……ユニークな真相が印象的な『みずからの殺害を予言した占星術師』、
料理長が殺害されたというメインの事件の真相よりも、魚がどうなったのか……が忘れられない『魚泥棒は誰だ』、
現代でも同じですが……未成年を裁く法律の限界を感じさせられ、親野立場として色々な思いが交錯して考えさせられる『養い親』、
3度目の訴えは通じるのか? ユニークなプロットと皮肉な結末がが印象的『「狼だ!」』、
意外な真相とフィデルマの無知で傍若無人な若者への毅然とした対応に魅了される『法定推定相続人』、
面白かったー 本シリーズ、機会があればもっともっと読んでみたいですね。 -
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ネタバレ(上巻から)
フィデルマに負けずに居丈高な女性修道院長は怪しいとは思っていたが、
いくら修道士や修道女の結婚が禁止されていないとはいえ、
二股でしかも不倫だっとは、衝撃的だった。
それと、エイダルフが逃げている途中で出会った目の見えない男が、
印象的だったが、あまり活躍しなくて残念だった。
謎解きとしては、
船で人身売買という程度しか予測できなかったが、
フィデルマは最初から犯人のことを怪しいと思っていたとか。
そんな風には全然見えなかったけど。
とはいえ、最も衝撃的だったのはラスト。
フィデルマの誘いを断ってサクソン諸王国へ戻るエイダルフに、
フィデルマがついていく決断をするとは。
二人の旅はどうなるのだろう。 -
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修道女フィデルマのシリーズ、8作目。
7世紀アイルランドの、尼僧にして弁護士であるフィデルマが探偵役の歴史ミステリです。
アイルランドは五王国の時代。
そのうちの一つの国の王の妹であるフィデルマは、美貌で活発、頭が切れて勇敢。高位の弁護士の資格を持っていて、「黄門さまの印籠」をいくつも持っているような女性です。
これは必ずしも絵空事ではなく、当時のアイルランドは法が整備されていて、女性が重要な役職に就くことも可能でした。
修道院は勉学の場でもあり、尼僧が弁護士になっても、おかしくない。
それでも、女性への軽視や偏見がないわけではなく、事件に遭遇したフィデルマは大抵、「若い女に何が出来るか」「尼さんは引っ込んでろ」みたいなことを荒くれ男どもに言われてます。
資格を堂々と告げると相手はびっくり(笑)
無法地帯では「ははーっ」とはなりませんが。そういう場合でも道を開いていきますよ~。
しかも、当時のキリスト教は聖職者でも結婚できたので、恋愛の要素も普通に入ってきます。
この作品では、フィデルマは自分の生き方を見直そうと巡礼の旅に出るために船に乗ったところ。
同じ方面へ行く修道女たちにも知っている人はおらず、しがらみを離れて静かに過ごすつもりだった。
ところが思いがけないことに、若い頃の恋人キアンが船に乗っていた。かって手ひどく自分をふった男で騎士だったのですが、今は離婚して修道士になっていたのだ。
同行する修道女の一人が行方不明になり、当初は海に落ちたと思われた。
後に発見されたが、それが殺されたばかりという様子だった。
どこかに隠れていたのか?
フィデルマがしだいに船員の信頼を得て、のびのびと船旅を楽しむ反面、キアンにはイライラさせられたり。
果たして、この旅の行方は? -
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こちらも大好きなシリーズの1つです。定期的に翻訳が続いているのを見ると、私同様に根強いファンが存在しているようです。舞台は、7世紀半ばのアイルランド。日本は、飛鳥時代、大化の改新の頃でしょうか。このシリーズの最大の魅力は、何と言っても、主人公フィデルマのキャラクターです。修道女にして、ドーリィー(法廷弁護士)の資格を持ち、モアン王国の国王コルグーの妹君でも有ります。美人で聡明で有り、ドーリィーの資格を活かして、数々の難事件を解決してしまう推察力を備えています。
ストーリーは、フィデルマの思い人で有るエイダルフが、隣国ラーハンで少女を強姦し、殺害した罪で死刑を言い渡されてしまいます。何かの間違いで有ると信じ、フィデルマは、弁護の為、ラーハン王国へ急ぎ向かいます。ラーハン王国に到着すると、他にも立て続けに事件が起きており、何やら陰謀めいた動きも感じられます。エイダルフの死刑を阻止して、事件の真相を突き止める事は出来るのでしょうか?
伏線もきっちり回収されており、フィデルマの推理の披露シーンもバッチリ決まっていますが、本作は、ラストのフィデルマとエイダルフのやり取り、2人の関係性に変化が有るのか、読者がヤキモキする所が、最大の読み所ではないでしょうか。☆4.6 -
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ネタバレ修道女フィデルマ・シリーズの短編集第5弾。
密室トリックに穴があろうと、
殺害方法が偶然すぎても、
凶器がご都合主義でも文句は言わない、
というか気がつかないぽんこつミステリーファンだが、
これだけは言いたい。
尊者にお出しするにふさわしい大物の鮭、
それを盗んだ魚泥棒の犯人が猫?
殺された料理長が自ら釣り竿を釣り糸を持って川へ向かって釣り上げた、
とあったので、
新巻鮭サイズの鮭だとは思っていなかったが、
熊がくわえていそうな体長50センチぐらいの鮭だと
勝手に思っていた。
とくれば、まさかサザエさんよろしく猫がくわえていけるわけがなく、
(著者の思惑通り)鮭が殺人の動機かなにかとにらんでいた。
日本人でこの落とし穴に落ちた人は多いはず。
それとも、修道院の猫が熊サイズなのか。
そっちの方が楽しいけど。
それにしても〈歓待の法〉まであるとは。
ブレホン法は奥が深い。 -
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ネタバレ(上巻より)
最初の解説がとてもわかりやすくて良かった。
このシリーズを読み始めるにあたって、
必要な予備知識だと思う。
その中に、
作者の描いている科学技術が
当時のアイルランドの力を鑑みれば到底あり得ないものであると
批判されているという記載があった。
確かに、国力は科学技術の土台となる。
大輪の花を咲かせるには豊かな土壌が必要だ。
しかし、同時に人が作り出すものでもあるはずだ。
遠く未来から見れば、
大陸から孤立している島国、
山がちな国土に、乏しい資源、
地震に台風に火山噴火といった自然災害の国で、
例えば、世界で最も早く安全な列車を走せていたというのは
信じられないということなのだろうか。 -
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ネタバレ修道女フィデルマ・シリーズの8作目(原作順で)。
巡礼の旅に出、船旅をするフィデルマ。
船に同乗していた巡礼団の修道女が海に落ちたと思われたが、
刺殺死体で発見される。
そして、船に乗り遅れたかと思われた修道女も、
実は殺されていたことがわかり…。
巡礼団の中に若い頃にフィデルマを手酷く捨てた恋人がいたとあっては、
事件どころではない。
フィデルマは、大人げない態度をとっていて相変わらず。
相手も成長していないようなので、お互い様だが。
それでも武人だったのに、片腕が使えなくなり、
妻にも見捨てられたとあっては、
もうちょっと気づかいしても良いのではと思っていたら、
王の命令とはいえ、戦いで女子供を殺したとあっては、
同情の余地がないぐらいひどい男だった。
それにしても、ここのところ、
短編集でフィデルマが成長を見せていた気もしていたに、
どうしたのかと思っていたら、
どうもこの作品は短編集より前に書かれたものらしい。
なるほど。
(下巻へ) -
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ネタバレ666年アイルランド、モアン王国。王都キャシェルにてフィデルマの兄王コルグーと、敵対していたオー・フィジェンティの族長との和平交渉が行われることになった。だが、王が族長を伴ってキャシェルに足を踏み入れた途端、二人を暗殺者の矢が襲う。一命はとりとめたものの、犯人の身元をめぐって再び両者は緊張関係に。暗殺未遂に使われた弓矢の出所を探すことになったフィデルマとエイダルフは、その途中立ち寄ったイムラックで修道院から聖アルバの聖遺物と一人の修道士が消える事件が起きたと知る。二つの事件の関連を疑いはじめた矢先、イムラックの町を謎の武装集団が襲う。王国に内紛を起こそうとする真犯人の巨大な陰謀とは。〈修道女フィデルマシリーズ〉長篇邦訳第7作目。
前作『翳深き谷』がざっくり言って「カトリック対古代ケルトの土着信仰」の話だったのに対し、今回はケルト・カトリック内での内輪揉め。しかも「ケルト教会の始祖を聖アルバとするか、聖パトリックとするか」という派閥争いが王族の〈正統〉をめぐる争いとなり、ひいてはアイルランドの統一および中央集権化という大きな野望の話になっていく。だからこそ、王の権威を支える教会の聖遺物が盗まれることは大事件になるのだ。
今回面白いのは、フィデルマもアイルランド特有の聖人信仰や樹木崇拝を熱っぽく語る場面があること。占いには懐疑的だが天文学には敬意を表し、オーガナハト一族の神樹に「トーテムか!それって、異教徒の愚かしい迷信です」とコメントするエイダルフを「"楔形の十字架"だって、トーテムですわ」とやりこめたり。特に上巻ではキリスト教がアイルランドに布教する際、いかにケルトの神と習合してきたかがうかがえる問答が交わされ、興味深い。
ミステリー部分ではミスリードのためにエイダルフが異様に忘れっぽくなっているのが残念。謎の構造に対して長尺すぎるのでは。その代わり、エイダルフには医術で頼りにされたり、ピッキング技術を自慢する見せ場(笑)があったのはよかったけど。 -
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ネタバレ古代アイルランドの〈ブレホン法〉に則って裁判を行う弁護士〈ドーリィー〉であり、そのなかでも上位の〈アンルー〉という資格を有する修道女フィデルマが、聖餐のワインで毒死した青年、雪山の旅籠に夜な夜な出現する幽霊、消えた王家の大剣などの謎をその明晰な頭脳と法知識で解決する短篇集。
著者はケルトの歴史学者。このシリーズはミステリーの枠組みを使って古代アイルランドの社会を描くことを目的としたエンタメ小説である。
まずはなんといってもフィデルマの設定。王位継承者の妹という特権階級であることを差っ引いても、当時のアイルランドでは男女が同じ教育を受け、職業的に差別されることなく重要な役職に就けたという史実から生まれたスーパーウーマンである。
そんな彼女の武器は当時のアイルランド独自の法律、ブレホン法。この法律こそがフィデルマシリーズの二人目の主役と言っていい。婚姻や離婚における双方の権利の細かい取り決めや、王位継承者を一系の世襲ではなく集会で決定するなど、これまでローマ中心史観で〈未開人[バルバロイ]〉として語られることの多かった古代アイルランドの先進的な面を知ることができる。キリスト教ケルト派の大らかな思想と合わせ、先入観をひっくり返されるのがとても楽しく、作者の古代アイルランドに対する深い愛情を感じる。
収録作のなかでは、正当防衛とはいえ探偵役が犯人を撲殺して特に悪びれない「旅籠の悪霊」が印象的(笑)。あなた修道女でしょ?!(笑)聖職者だからか、フィデルマの探偵像はどこかブラウン神父に近しい。この邦題もそこを意識してつけられたのだろう。