芝木好子のレビュー一覧

  • 洲崎パラダイス

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    今はもう全く遊郭の名残はない界隈だから、どんな街だったのだろうと想像しながら読んだ。

    愚かで可愛い女や強くしたたかな女。
    黒い激情をうちに秘めた女、狂気の中に生きる女…。
    どこか諦めて、哀しさ、絶望しながら生きているのに、女であることを悔やんだり怨んだりしていない。

    とにかく最後の「須崎の女」は救いがなくて辛かった。
    もう少しで誰かとどうにかなれそうだったけど、もうすべてが遅かった。
    じわじわと水が迫ってきて、いられる場所がどんどん狭まってゆくような生き方をしていた女は、水に飲まれて息絶える。
    しかし死をもってしか彼女を救えなかったのではないか、と思うほど救いのない女の人生を描いているのに

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    2025年02月06日
  • 隅田川暮色

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    呉服問屋生まれの冴子は、幼き頃は小児喘息で身体が弱かった。大人になり妻子ある夫と内縁関係という不安定な立場ながらも、夫の生家の商う「香月」で組紐を作っている。

    序盤は、冴子が幼馴染の俊男に再会するところから始まっている。
    今の生活や組紐を作ることに魅せられている様子を描いているのがあまりにも緩やかなので、少し物足りなさを感じていたのだが、3分の2を過ぎた頃から冴子の心の内が熱を帯びたかのような烈しさになってゆくので、こちらまで熱くなる。

    葛藤と大胆さが交互になり、それに加えて幼馴染の俊男の読みにくかった感情までも見えてくる。


    俊男の染める糸には艶と色気があると言ったのは、夫の父真造であ

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    2024年11月03日
  • 洲崎パラダイス

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    戦後の混沌とした時代に、今の江東区にあった所謂赤線地帯「洲崎パラダイス」を舞台に、人生に希望を見出せない男女の鬱屈した日常を描いた短編集。
    特に橋を渡ったらおしまいと言われる、その橋の向こうに希望を見出している若い女の子の話がなんとも言えず切ない。

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    2023年09月14日
  • 湯葉・青磁砧

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    描写に唸る。

    湯葉、洲崎パラダイス、青磁砧を収録。中でも青磁砧が一番好きだった。群青の湖もそうだったが、芸術が生まれる場所の描写がとてもいい。本作では高能の釜焚きのシーンはが出色の出来で、思わず乗り出してしまうほどの臨場感があった。やきものに取り憑かれた父・隆吉の背を見て育った娘・須恵子は、やがて自身も父のあとを追っていく。そんな娘が嬉しいような心配なような隆吉。天才・高能が生み出す青磁の魅力に夢中になっていく須恵子。彼女が引き寄せられているのは青磁なのか、それとも高能自身なのか。妻子のある高能に近づきすぎている娘を心配する気持ちと、何にも邪魔されず陶芸だけに打ち込んでもらいたいと高能を気遣う気持ち。須恵子

    #切ない

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    2023年02月23日
  • 群青の湖

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    ネタバレ

    研究室で働いていた主人公が琵琶湖のほとりの旧家に嫁ぎ、夫に裏切られ…と紹介分にあったので
    ハードな内容を想像していたけど、琵琶湖周辺の自然描写、琵琶湖に感化されていく主人公
    昔話を読んでいるような感覚になった。ひたすら美しいお話です。

    夫の裏切りから自殺未遂、ただしその後主人公が意外ととんとん拍子に
    成功していくのでおとぎ話のようでもあります。普通もっと苦労するだろうと思わないでも
    ないけど、この小説なら、そんな展開も「あり」かな。

    琵琶湖のほとりの家で琵琶湖が舞台の本を読む、なかなか贅沢な時間を過ごしました。

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    2015年02月21日
  • 洲崎パラダイス

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    闇の瀬戸際のせめぎ合いをリアルな描写で綴り、退廃的な空気のなかでもがきあえぐ男と女の生き様を読む者に見せつけてくる。

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    2024年06月06日
  • 洲崎パラダイス

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    昭和30年頃の向島・鳩の街の赤線街を描いた、男性作家の吉行淳之介による『原色の街・驟雨』と読み比べたく、同時期の木場・洲崎の歓楽街を描いた、女性作家の芝木好子による本作を手に取った。私娼が働く洲崎特飲街へと続く橋の袂、「あちら側」と「こちら側」の、ちょうど境界に位置する飲み屋「千草」を起点に、女達の悲哀を描いた短編集。

    女は「正式の結婚」で「身すぎが出来た」とされ、生涯未婚率は男女ともに1%台、職業婦人であったとしても就業期間は結婚までとされた時代。しかしながら、亭主が女を作り子供二人を残して逃げた千草の女将(「洲崎パラダイス」)や、「癈人同様に老いこん」だ夫の世話でボロボロの女中(「洲崎界

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    2024年06月01日
  • 春の散歩

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    小説のシーンを反芻しながら読む

    いくつかこの著者の小説を読んだ後、こちらを読んだ。あの小説の主人公は著者のこんな体験に基づいて作られたものだったのか、と様々なシーンを思い返すのが楽しかった。この順番で読んでよかったと思う。

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    2023年03月21日
  • 湯葉・隅田川・丸の内八号館

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    著者の祖母、父、そして自身をモデルにした連作ですが、それぞれ全く趣の違う物語です。「湯葉」は明治の商家の妻の生き様を、「隅田川」は大正から昭和初期の浅草の伊達男を描いています(この父親が自分で図案も描く高級呉服商ということで、本筋には関わりありませんが、着物好きとしては楽しかったです)。「丸の内8号館」は続編に「華燭」と「今生」という二作があり、合わせて読むと、昭和初期から戦時中のいわゆる青春がどんなものだったかが窺えます。

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    2021年08月06日
  • 湯葉・隅田川・丸の内八号館

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    父権的なるものを失ったとき、ひとりの女としてどう生きるか? 母娘3代の生き様のちがいを描くことで、この3部作はあざやかに明治から大正、そして昭和という時代を映し出す。

    3作通じてif(「もし…」)の用法を使うことで、「男」の死、あるいは消失によって「女」の生を描くという手法がおもしろいが、同時にそれぞれの時代を象徴するものとして、独自の工夫で一目置かれる湯葉屋、芸術的な染織にこだわりをもつ呉服商、そして当時「一丁倫敦」などともてはやされた丸の内ではたらく「タイピスト」といった仕事がえらばれているのが興味深い。

    海野弘にならって1910年代、20年代、30年代という区分で読んでゆくと、またひ

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    2013年06月30日