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「橋を渡ったら、お終いよ。あそこは女の人生の一番おしまいなんだから」(「洲崎界隈」より)。江東区にあった赤線地帯「洲崎パラダイス」を舞台に、華やいだ淫蕩の街で生きる女たちを描いた短篇集。男に執着する娼婦あがりの女の業に迫る表題作「洲崎パラダイス」、満洲帰りで遊郭に身を落とした老女の悲しみをとらえた「洲崎の女」を含む全6篇を収録。
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Posted by ブクログ
今はもう全く遊郭の名残はない界隈だから、どんな街だったのだろうと想像しながら読んだ。 愚かで可愛い女や強くしたたかな女。 黒い激情をうちに秘めた女、狂気の中に生きる女…。 どこか諦めて、哀しさ、絶望しながら生きているのに、女であることを悔やんだり怨んだりしていない。 とにかく最後の「須崎の女」は...続きを読む救いがなくて辛かった。 もう少しで誰かとどうにかなれそうだったけど、もうすべてが遅かった。 じわじわと水が迫ってきて、いられる場所がどんどん狭まってゆくような生き方をしていた女は、水に飲まれて息絶える。 しかし死をもってしか彼女を救えなかったのではないか、と思うほど救いのない女の人生を描いているのに、どこか明るさがある不思議な描写力で、陰惨になりすぎずさらっと読めてしまう。 でも瞼の裏に、彼女の最期がイメージできてしまうんだ。
戦後の混沌とした時代に、今の江東区にあった所謂赤線地帯「洲崎パラダイス」を舞台に、人生に希望を見出せない男女の鬱屈した日常を描いた短編集。 特に橋を渡ったらおしまいと言われる、その橋の向こうに希望を見出している若い女の子の話がなんとも言えず切ない。
闇の瀬戸際のせめぎ合いをリアルな描写で綴り、退廃的な空気のなかでもがきあえぐ男と女の生き様を読む者に見せつけてくる。
昭和30年頃の向島・鳩の街の赤線街を描いた、男性作家の吉行淳之介による『原色の街・驟雨』と読み比べたく、同時期の木場・洲崎の歓楽街を描いた、女性作家の芝木好子による本作を手に取った。私娼が働く洲崎特飲街へと続く橋の袂、「あちら側」と「こちら側」の、ちょうど境界に位置する飲み屋「千草」を起点に、女達の...続きを読む悲哀を描いた短編集。 女は「正式の結婚」で「身すぎが出来た」とされ、生涯未婚率は男女ともに1%台、職業婦人であったとしても就業期間は結婚までとされた時代。しかしながら、亭主が女を作り子供二人を残して逃げた千草の女将(「洲崎パラダイス」)や、「癈人同様に老いこん」だ夫の世話でボロボロの女中(「洲崎界隈」)、失業した旦那に金を無心される娼婦(「歓楽の町」)の存在が示す通り、婚姻にはリスクが伴い、必ずしも安寧を意味しない。そんな中「化粧や美しい着物で飾り、華やかな嬌声の生活」を送りながら「独り者の自由」「家庭に縛られない人間」になれるとされる、自活の手段として娼婦が選ばれるのも頷ける。しかし、そんな娼婦に密かに憧れる少女にですら「さっきの人も娼婦ですか、おお厭だ」と言わしめる(「蝶になるまで」)、スティグマが付与された侮蔑の対象でもある。そして年齢が上がるつれ収入は減り(「洲崎の女」)、客による殺人などの暴力に晒される危険も(本作の「歓楽の町」だけでなく、吉行淳之介の「原色の街」でも描写され、2023年5月に吉原で従業員が刺殺された事件があったことからも)少なくはない。そういったメリット・デメリット、リスクを勘案した結果、娼婦の道は選ばず、夫の不貞を飲み込む決意をする女もいる(「歓楽の町」)。 妻と娼婦という存在が、互いに焦がれ、時には行きつ戻りつする様を、登場人物の視点の自然な遷移や、双方の世界の狭間に位置する「千草」という舞台装置で照らす構造がとても良かった。それと同時に、主にこの二つの道しか残されていない、女達のあまりの選択肢の少なさがなんとも嘆かわしく、悔しかった。生計ではなく愛を取った蔦枝(「洲崎パラダイス」)と、妻と娼婦、両方の特権を遺憾無く行使し、逞しく生きる菊代(「洲崎界隈」)の、二者択一を超越した存在に慰められた。
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洲崎パラダイス
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芝木好子
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