2010年5月18日「憲法改正国民投票法」が発効した。
2年前の安倍晋三内閣の時,右翼改憲派の総理が強行採決した法律がこれだ。
本書は,そもそも改憲を目論む右翼保守派の戦後の狙いをスケッチし、その歴史を背景に,現在の「国民投票法」の危うい問題点をえぐり出してゆく。
序 章 民主党政権の誕生と
...続きを読む改憲問題
第1章 憲法改正国民投票法の仕組みと立法の不作為論
第2章 改憲問題の歴史
第3章 「欠陥法」ともいえる問題点
第4章 「憲法改正」で何が問われているか
では、「憲法改正国民投票法」の問題点は?本書から気になる点を見ると。
1・投票権者の年齢/当初,投票は18歳以上とされたが、関連各法との整
合性を保つ法改正が進まず,このままでは現行投票権者20歳以上に戻
ることになる。
投票権者として海外在住者や外国人がどうなるかもある。
2・発議の主体/衆議院で議員100人以上,参議院で50人以上の賛成と
なっている。このため少数会派の改定案は,発議権さえ与えられないこ
とになっている。
3・発議での衆参両院の対等性/現在普通の国会運営では,衆議院の議決が
参議院より優先している。これをこのまま、憲法改正議事運営に利用さ
れることは,改憲派を有利にする。
4・個別投票か一括投票か/例えば憲法9条を改訂することは、それ単独で
の個別投票では国民の抵抗が強いので,憲法25条とセットで一括投票
を求めるという方法で,問題を曖昧にずらして、9条を廃止してしまう
ことも可能。
5・投票期日/憲法改正案が国会で発議後,2か月から6か月の間に国民投
票をすることになる。
はたして、憲法改正案の趣旨と内容が正確に国民に理解されるか、そこ
が問題。憲法改正を進めようとする勢力は,国民が正確に理解しない間
に議決ができるようにしたいのだろう。
6・国民の過半数の賛成/この過半数は有効投票総数の半分を超えたもの、
とされているが、これでは例えば白票と云う意思表示を削って形式的に
決めてしまうという恐れがある。
国民の過半数の意志というならば、20歳以上の国民の,投票しなかっ
たものも含めた過半数という考え方があっても良い。
更に投票率の下限は決められていない。
例えば3人が投票して2人の賛成で憲法改正が出来る。ということでは
不味い。最低投票率を決めないのは,憲法改正派(自民・民主)の思惑
によるもの。
7・国の広報と,メディア・国民の声の規制/国の広報は憲法改訂派に握ら
れるので,それに対してメディアと国民の声は保証されるかというと、
これには規制をかけて不十分なものしかさせない、ということが予想さ
れる。
また公務員や教員にも規制をかけて活動させないが、かれらもそれぞれ
の職業についている、と同時に国民としての政治活動の権利は同等にあ
るべきではないか。
8・この法律の審議の段階で、国会議員や参考人の質疑や意見により,付帯
決議もかなりあるが、それらを実効あるものとする議論は全くない。聞
き置くに過ぎない状態にして、「憲法改正国民投票法」を執行しようと
している。
著者は,この法律の国会審議で,公述人もつとめた東大法学部出身,専
修大学法学部教授。現在同大学名誉教授で、記述の内容は法律家らしく
詳細につくされている。現下必読の一冊。 (10/5)