杉山隆男のレビュー一覧

  • 兵士は起つ―自衛隊史上最大の作戦―

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    抑制された筆致が余計に津波の凄絶さを物語る。あまりにも凄惨すぎて何度か本を閉じた。果敢に救助活動に立ち向かうも、そこに存在するのは遺体累々。過酷過ぎる現場で幾度も嗚咽しながらも、これ以上傷まぬよう、細心に遺体を運ぶ自衛隊員。

    ひとりの自衛隊員が呟く。
    ◉「来るか来ないかわからない<いつか>のために備えている。その<いつか>が今日遭っても明日遭ってもいいように」
    ◉「自衛官は活躍しないまま退官することが一番いいんです」

    震災から5年。あの衝撃や記憶が薄れていく中、今日も明日も「有事」に備え、激しい訓練に励む自衛隊員がいる。どうか、その訓練が徒労に終わることを祈るのみ。

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    2016年09月13日
  • 自衛隊が危ない(小学館101新書)

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    長年自衛隊を見つめ続けた著者が詳らかにするこの組織の歪み。
    変わりゆく自衛隊。自衛隊がより「軍隊化」していくとでも言えばいいのか。一方で忘れ去られつつある創建当時の精神。何が、どういう方向性が正しいのか浅薄な自分にはまだよくわからないが、自衛隊を取り巻く環境、そして自衛隊自身が変わりつつあるいま、自衛隊は、自衛隊員はどうあるべきかというのは、組織の内外問わず考えなくてはならない問題だな。

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    2016年07月04日
  • 私と、妻と、妻の犬

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    タイトルどおりの作品だが、小説なのか随筆なのかと思う作品。浮気が原因で家を出て暮らすことになった著者は、経済的な理由で8年後に家に舞い戻ってくる。妻と妻の飼っている犬との、二人と一匹の生活を描いた作品。浮気相手の女性との会話も赤裸々に語られている感があって、妙なリアリティがある。

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    2017年04月25日
  • 兵士は起つ―自衛隊史上最大の作戦―

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    自衛隊員に地道な取材活動している著者ならではの、自衛隊員が新聞報道されていない個々の活躍を描いたノンフィクション作品。
    安易な自衛隊批判の反証材料や大規模震災の描写資料としても価値がある作品。

    圧巻なのは、通勤途上の自衛隊員達が津波に罹災しながら、生命の危機にある救助を要する人達へのリミットである72時間を意識し、出せうる限りの救助活動をする描写は、感動させる。

    また、福島原発へ決死の冷却作業を冷静沈着な陸上自衛隊員の姿には、日頃の鍛錬や準備の重要性に気づかせてくれる。

    この作品を読んで思ったのは、
    将来、政治判断ミスで、国益がない国際紛争に巻き込まれ、自衛隊員を殉死させるのは、国家の重

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    2016年01月08日
  • 兵士は起つ―自衛隊史上最大の作戦―

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    東日本大震災の際の自衛隊の働きは目覚しかったが、ニュースになったものばかりでなく、その陰にあった夥しい数の隊員の活躍やドラマが本書には汲み上げられている。家族の安否を気にしながら、その無事を確かめることもせず任務を遂行した隊員たちには頭が下がる。そういうことを本書は改めて思い起こさせてくれた。
    本書のテーマとは関係ないのかもしれないが、震災時に世界中から賞賛された住民の秩序ある行動に裏で、火事場泥棒のような行為があったり、助け合いの精神を発揮した住民がいた一方で我が身第一の人もいたことが印象に残った。また、著者の大江健三郎に対する厳しい批判も印象的であった。

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    2015年11月29日
  • 私と、妻と、妻の犬

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    登場する人間たちには全く共感できなかった。
    多分ごく普通のありふれた人物像だったからかも。ウジウジした不倫関係とか、険悪な夫婦関係、ドラマのヒーローやヒロインのようにスパッとはいかないもんなんだろうな。
    そんな中で、犬との関係、犬たちの描き方は、読んでるだけなのに手触りを感じることができそうなくらいだった。
    猫派の私だが、犬もいいなと思った。
    犬好きの人が読むと、「分かる!」と心踊る部分もあるだろうけど、犬にしろ猫にしろ、いずれ飼い主に待ち受ける試練はキツイな..。
    で、結局、「妻の犬」は、「私と妻の犬」でありたかったのでは? 人間の場合と同じだと思った。

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    2015年08月25日
  • 私と、妻と、妻の犬

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    じわじわ来る。
    身勝手な中年男の退屈な話を延々と聞かされているような感覚だったのに、そのやるせない悲哀にいつの間にか同情すら覚える。

    浮気というよりむしろ本気だった女性との関係が妻の知ることになり家を出た大学教授。
    8年の時を経て経済的理由から妻の元に戻る男。
    もちろん穏やかな日々が待ち受けるわけではなく、妻との関係も修復されないまま。

    そんな夫婦の間の緩衝材の大きな役割を果たした二匹の犬。
    犬を持ってくるのは反則だろう、とも思うが私小説と言うのだから仕方ない。
    掛け値なしに愛おしい存在の犬達。
    この描き方が抜群にうまい。
    徹底して客観的に描くと恋人や妻と異なり、切ないまでの思いが犬に注が

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    2015年07月27日
  • 私と、妻と、妻の犬

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    小遣い稼ぎにカルチャー教室の講師をしている大学教授が、
    そこの生徒と浮気をし、いい歳をして骨抜きになってしまう。
    ほどなくして浮気がばれ、氷のような妻の態度に耐えきれず家を出るが、
    その8年後経済的に立ち行かなくなり妻の元へ帰る。
    このなんとも気まずい夫婦の間を取り持つように、尖った空気を和ませる妻の飼い犬。
    どんよりとした不倫話の中、愛くるしい犬の存在がひときわ輝いている。

    中途半端な態度を責められ、浮気相手に愛想を尽かされるがそれでも未練たっぷりで、
    「メイの前の飼い主がもし彼女だったら…」なんて、
    思春期の中学生のような妄想を膨らますオジサンに鼻白む。
    それにひきかえ、妻に対しては罪悪

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    2015年06月17日
  • 兵士に聞け

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    自衛隊のことってよく知らない。特に嫌悪感もないけど、興味もなく、だったけどよくないよなあ、と。自分の無知さに沈思、著者の真摯な姿勢に心打たれる。

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    2014年12月01日
  • 昭和の特別な一日

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    東京勤務時代は日本橋の近くに事務所があったので,「日本橋には空がない」が面白かった.魚市場があった昔からの話は,知らないことばかりで楽しく読めた.「ブロードウェイがやってきた」もよく歩いていた中央線の中野や西武新宿線の地名が出てきて,地図を見ながら楽しんだ.

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    2012年06月12日
  • 昭和の特別な一日

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    「兵士に聞け」の杉山隆男さん
    確実な聞き取りの取材と
    確かな「定点」の切り口がお見事
    なんでもない(こともないのですが)
    道が
    橋が
    建物が
    その時代の
    匂い、喧噪、歴史を
    抱えて
    語られていく。

    相変わらず
    地面の上にしっかり
    足をつけて
    語られていく
    「庶民の昭和史」
    が うれしい

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    2012年02月16日
  • 「兵士」になれなかった三島由紀夫

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    三島由紀夫が市谷駐屯地で自決を遂げたのは、1970年11月25日。当時小学生だった私は、そのニュースを新聞やテレビで読んだり観たりしたと思うのだが、全くと言って良いほど記憶がない。その歳では、三島由紀夫の作品を読んだこともなかっただろうし、この事件の思想的な意味合い・背景に、興味を持ったり、あるいは、理解が出来る年齢ではなかったということである。ただ、それは自分の年齢だけが理由だったわけでもなさそうではある。この杉山隆男の本を読むにあたって、ウィキペディアで一応事件のことを調べてみたけれども、何だか全くよく分からない。ウィキペディアの簡単な説明だけで分かるはずがない、ということを置いておいても

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    2011年07月25日
  • 兵士に告ぐ

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    自衛隊、あるいは、自衛隊員を扱った「兵士」シリーズの第4作。杉山隆の興味も、マクロの自衛隊のあり方にも広がってきつつあるのかな、ということを感じた。日曜日の夕方に到着する便で日本に帰ってきました。木曜日までの予定での出張です。たまたま、ということなのかもしれませんが、夜、散歩していると天候の何と気持ちの良いこと。タイは雨期に入ったというのに、未だに時々40度近くまで気温があがり、更には湿度も高いという状態です。それに比べると、本当に、少なくとも今夜の東京の天候は最高でした。仕事で帰ってきているわけですが、東京の料理を堪能し(東京のレストランは、もちろんお店によりますが、本当においしい)、書店で

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    2011年07月25日
  • 兵士を見よ

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    「兵士に聞け」に続く、自衛隊を扱った杉山隆男の「兵士シリーズ」ノンフィクションの2冊目の本。この本では、航空自衛隊のパイロットを扱っている。かなり面白い。この本の内容とは直接の関係はないけれども、私の住んでいるバンコクで、昨日、非常事態宣言が発せられた。私の住んでいるあたりは特に何の危険も感じないのだけれども、それでも出かけるのは控えていて、アパートにいて本を読むとかDVDを見るくらいしかやることがなくて、けっこう退屈している。まぁ、日本で買ってきた本がかなり溜まっているので、それを読むにはちょうど良い機会かもしれない、と思っているけれども。

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    2011年07月25日
  • 兵士を追え

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    普段は日陰者扱いの自衛官、人殺しの道具を持ち、人殺しの訓練を生業としている。と一部の心無い者たちから中傷されている彼等彼女等が何を考え何を感じて任務に邁進しているか、自衛隊部隊への訪問、インタビューで明かされる真実。
    最も国民の目に触れにくい潜水艦部隊、そして他国の潜水艦や不審船を侵入させないために日夜パトロールをしている哨戒機の世界を訪れ海上自衛隊を中心に記したルポルタージュである。

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    2023年12月04日
  • 私と、妻と、妻の犬

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    ネタバレ

    壊れていた夫婦の関係にやってきたのは、ラブラドールのななだった。

    おてんばで活発な性格のななの存在に、
    冷え切った夫婦の関係に変化をもたらせしてくれたのも束の間

    大学教授である私は、1人の女性と親密な関係になっているのを妻に知られ、家を出ることになったのは
    ななが来てから2年余りのことだった。

    8年後に経済的な理由で別居生活を解消して
    久しぶりに戻った家で再会した10歳になったななは
    すっかり老犬になり、わずか3ヶ月後に亡くなった。

    ななの死後、保護犬だったメイを妻が引き取り
    再び犬との日々を、過ごした時間。

    耳が聴こえないメイが、どんな環境でどんな人に飼われていたのか追跡してよみが

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    2020年06月22日
  • デルタ―陸自「影」の兵士たち―

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    ネタバレ

    昨今きな臭い状態が続いて、それが定常状態にもなりつつあるセンカクの問題ですが、実は今もまだ動いているんですよね。そのセンカクに、自衛隊の秘匿された特殊部隊が出動するという話。

    いやぁ、本当に(ほぼ)“出動する”だけなんですよねぇ。途中までは、調子よく進んでいて、「初の戦闘が!」と言う雰囲気だったんですが、最後の最後で政府側が日和って・・・。

    小説ならば、とことんまで突き詰めて、戦闘状態に陥ってしまう事を描いてしまえばよいのではないかと思うんですけどねぇ。でも、意外に、最後の最後で政府が日和ってしまうと言うのは、本当に起きそうな事なので、逆にリアリティがあり過ぎるかも。

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    2019年03月22日
  • 兵士に聞け

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    微妙な立ち場で奮闘している自衛隊のルポ。当たり前だが、人間味あふれる話が中心となっている。塩野七生の自衛隊に贈る言葉には納得だが、それを受け取る自衛隊側の人間が複雑な思いでいることに気づくことができた。そろそろ自衛隊アレルギーも消えるだろうか。独立国家には軍隊は必要なことが世界の認識であると思う。この生きていかなければならないのだから、自分勝手な論理を振りかざしているばかりでなく、世界の論理を踏まえていく必要があると思う。けっして、鵜呑みにするのではなく。

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    2018年11月12日
  • 自衛隊が危ない(小学館101新書)

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    自衛隊もある意味、一般の企業と変わらないのかもと思わせる書だ。踊る大捜査線と通じるモノを感じた。
    官僚主義がはびこる一方で、自衛隊内で、権利があるから命令を拒否できて、強制されたら訴えるという話しがある。官僚と同じで、組織というものは、劣化が避けられないものなのだろうか?

    [private]・裁判で争うこともできるのですよ。
    ・水兵の言うことを信用してはダメ。[/private]

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    2018年11月12日
  • 兵士は起つ―自衛隊史上最大の作戦―

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    その存在の是非を常に問われてきた組織の中で、最前線に立って「戦う」人たちのノンフィクション。
    彼らの戦いは奪うことでなく救うことで、であればこそ未曾有の大災害の中、危険を省みず救命にあたった自衛隊の皆さんには本当に頭が下がる。
    彼らの仕事が「奪う」ことに変わらないよう願うばかりです。

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    2017年01月29日