著者とは会ったことはないけれど、まったく知らないわけじゃない。
一定の交流はあったんだよね。だから「知り合い」と言えなくもないかもしれない。でも「知り合い」の定義を「会ったことのある人」とするならば、知り合いじゃない。
ま、こんな感じで僕と著者とは、知り合いなんだけど知り合いじゃない、という禅問答の
...続きを読むような間柄なのだ。
で、本書。これはすごい本。
身びいきで言ってるんじゃないよ(知り合いじゃないし)。もし僕が著者のことをまったく知らなかったとしても、同じ評価を下しているに違いない。
僕が漠然と考えていたことが鮮やかに言語化されていて、「そうそう、そうなんだよ!」と膝を打つこと数十回、目から鱗が落ちること数十枚。
これほどまでにわかりやすく、かつ論理的に、かつ正鵠を射た、「家」をテーマにしたビジネス書が書ける著者に嫉妬すら覚えるくらい。
今僕は「『家』をテーマにしたビジネス書」と書いた。
一般に本書は「家を買うためのノウハウ本」に分類されるのだと思う。でも、それだけで終わるのはもったいない。本書は、もっと深く味わえる。
たとえば、強烈な目的意識。
家を買うお金を貯めるために、著者は節約に励む。
ただ、自分がみじめに感じられるような節約はしない。
なぜなら、お金を貯める目的は「家を買うため」であり、家を買う目的は「幸せな人生を生きるため」だからだ。みじめな思いをすることは、その目的に反している。
お金がからむと、人は簡単に手段を目的化してしまう。つまり、お金を貯めることを目的としちゃう。
そういった倒錯に陥らない。ぶれない。
著者の一貫した目的意識に、感ずるものは多いはずだ。
あるいは、たとえば、仮説思考と行動力。
著者は「大工さんと知り合いになれば、いい建物が建つのではないか」と仮説を立てる。
そしてその仮説に沿って、あの手この手で相手の懐に入っていく。
結果、満足のゆくものになったわけだけど、本当に仮説が正しかったかどうかはわからない。大工との関係がどうであっても、やっぱり満足のゆくものになったのかもしれない。
でも、ある「もっともらしい仮説」を立て、それが反証されない限りはその仮説に沿って動く、という行動力と意思は感動的なまでに強靭で、誰もが学ぶべき姿勢だ。
と、ここに書いたのはほんの一端。
質の高い仕事をする上での重要な示唆が「これでもか!」と詰まっている。
だからビジネスマンは、すべからく本書を読むべし。
同意できない主張もあるだろう。理解不能な箇所もあるだろう。
そういったところを含めて、本書と格闘することで得られる知的財産は、芦屋の家に匹敵するだけの価値を持つかもしれないよ。