十川信介のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
漱石没後100年の今年、きっと関係書物がたくさん出るだろうと、わくわくしている。
この本も、ほんとうによく編まれていて、作家としての漱石だけでなく、先生として、父として、どういう風に見えていたかがよくうかがえる。
「すごい人」との出会いは、その人に大きな衝撃を与えるものである。
衝撃は、もちろん点の力だ。だから、一点をさりげなく語っているのに、強く引き込まれる。
冒頭の高浜虚子が、漱石が作家として世に出て行くのを寂しく感じる末尾に、虚子ほどの人でもこのような心持ちになるのかと思った。
けれど、そこからはイヤな感じは受けなかった。
また、先生としては、「この人は違う」と生徒自身が感じ、敬服していた話が多い。
そこには、英語という言葉の背景を見んとした、言葉を言葉として見つめてきた、そんなエピソードが入っており、嬉しかった。
父としての漱石を語る時の家族が、感じとして一番距離があるように思う。
けれど、近いからこそ、掴めないことがある。
躁鬱病であったと後から知り、ストンと心に落ちる様子などは、やはり家族である。
こうして、様々な追想さえ、もう亡き人たちのメッセージである。
かつての作家を、かつての人々が語る追想集に、自分が生きてこれを読んでいることの不思議さを感じずにいられない。
書物は長い時間を経て、今尚在る。
私はいつかは亡くなるまで、これを繋げてゆく役割を負うている。 -
Posted by ブクログ
収録された4編は1887(明治20)年から1891(明治24)年の作。
二葉亭四迷と同時期に言文一致の小説を切り拓いた作家だという。しかし山田美妙の場合は、内容が鎌倉から室町時代を舞台にした時代小説なので、地の文が口語体であっても登場人物の台詞が古めかしい古語なので、二葉亭四迷のような近代性は感じられない。その地の文も、
「で、闇? 驚・・・あら、膝に加わる妖獣の手の生温い——ちッ! きっぱらってしまおうか。」
といったふうに、感嘆符が頻出するとともに、妙に「調子の良い」リズムの取り方が際立ち、「日常の口語」とは差異がある。
おまけに、どうもくどい文体で、一つのことを延々と「言い換え」し続けて無駄にページを費やし、なかなか話が進まないのがもどかしく感じられた。長編の「いちご姫」の前半はそれでじれったいような文章だった。
この「いちご姫」は、室町時代の公家出身の娘としてはずいぶん破格な女主人公が数奇な運命を経て凋落していき、やがて破滅に至るという、明らかにエミール・ゾラの影響が濃厚。物語内容としては興味深いが、姫の人格にあまりリアリティが感じられないようにも思った。
風変わりな「奇書」と言ってもよさそうな作品である。 -
Posted by ブクログ
まじめなのかふざけているのか判らないほどぶっとんだ内容のいちご姫は面白い。古典を引いたり故事を引いたりもこの作品に於いてはユーモアに映る。ただ、稍冗長。
武蔵と胡蝶は内容が薄く、同じように古典や故事を引いても、知識の披歴くらいにしか思えず、却って退屈だった。
山田美妙のことは詳しく知らないので、どの作品がどういう経緯で書かれてどういう評価を受けているのかまで知らないが、言文一致に尽力したという以外で何か評価できることは特にはない気もする。言文一致させたのはしかも山田美妙だけではなし。
この人は辞書も編纂していて、確かに語彙力とか古典故事には詳しかった模様。変態的に知識を蓄えていた森鷗外と比べてどうかまでは知らないが。