中国晋代の学者・郭璞が著した讃文集『山海経図讃』の日本語訳。古代中国の地理書『山海経』に登場する事物を詠んだ讃文全266首を図版・解説と合わせて収録、『山海経』の鬼神・妖怪たちを図鑑形式で紹介する。
本書は、『山海経』を題材にした郭璞の讃文集『山海経図讃』の日本語全訳である(底本は厳可均『全上古三代秦漢三国六朝文』(中華書局, 1958年)所収のものを使用)。中国古代の地誌であり、数多くの神や妖怪・動植物について記述する『山海経』。晋代の学者郭璞はこの著について注を施したことで知られるが、同時に『山海経』中の諸事物をテーマに四言六句の讃文を詠み上げてもいる。本書はそうした266首にも及ぶ讃文の原文と日本語訳を収録すると共に、解説や後代『山海経』の記述を元に描かれた図像を付して一種の図鑑形式としたものである(なので『山海経』そのものの訳書ではないことには注意が必要)。
さて本書の特色は何といっても『山海経』中の怪力乱神・動植物を個別に図版と解説付きで知ることができるという点であろう。『山海経』の訳書としては平凡社から刊行されているもの(高馬三良訳『山海経 中国古代の神話世界』1994年)がよく知られているが、各事物や山系・地形の列挙という読み物としては読みにくい形式である都合上いきなり通しで読むのは結構難しい所がある。また『山海経』の解説書についても管見の限りでは個々の事物を列挙して紹介するものは少なく、『山海経』中の妖怪について知ろうと思う初学者向けの本は中々限られているという現状があった。しかしながら本書は(讃文で取り上げられているものに限るという制限はあるものの)基本的に見開き1ページでそれぞれの事物の紹介および解説を行い、また豊富な図像も収録しているので、『山海経』の世界に初めて触れるにあたって格好の一冊となっている。特に嬉しいのが解説で、『山海経』本文の訳を入れるのみならず他文献での記述についても射程に収めている。これは先に紹介した平凡社版『山海経』では最小限に留まっていたものなので、平凡社版を補完してくれるという点でも大きな売りである。コンパクトかつ手軽に読める文庫形式という形態も相まって、まさに痒い所に手が届くような一冊であると言えよう。