“人の姿でありながら、人と違う心を持つ者たち。
価値観が違うのではない。見ている世界が違うのだ。
英語圏では、遺言詞のことをLANG(言語)とGENE(遺伝子)を組み合わせてLANGENE<ランジーン>と呼称されるようになった。遺言詞そのものだけでなく、発話者自身もまとめてそう呼ばれることが多い。
しかし、こと日本においては、遺言詞の話者に対して、こんな呼び名が定着していた。
彼らはコトバによって生まれしケモノ。
だから、ちぢめて――コトモノ。
『言葉』二よって人の心に宿りし彼らは、『言葉』によって他者の心に子孫を残し、増殖していく。『言葉』そのものを遺伝子にした生命体。
まさに言葉の獣だ。
コトモノという存在が、認知されて三十年近くが経とうとしている。
好むと好まざるとにかかわらず、人々はコトモノたちと隣同士で生きていかざるをえなくなっていた。”
これは、すごい。
そうとしか、言いようがない。
さすが大賞。
今までに見たことのない独創性溢れるしっかりとした設定。アンダカを少し連想させる。
登場人物たちも一癖も二癖もあるし、信用しきれない関係とかうまく表現されていて。
そして、事件の背後とか。きっかけとか。深い。やばい。
続編出るの?どこがどう展開するのか気になる。早く読みたい。
“コトモノート。
ノートが繋げていた絆は、成美だけではない。なによりもノートが繋げていたのは、ロゴとダリの絆だった。
もう、その絆は失われた。
今、自分は独りなのだとはっきり自覚した。
こんな孤独のなかで、コトモノをもたない人間は暮らしていることがロゴには信じられなかった。
なんて自分は無知だったのだろう。なんて自分は馬鹿だったのだろう。
どうして大事なことに気がつけるのは、いつも失ってしまった後なのだろう。
どんどんと激しくなる感情の波に押されて、ロゴは嗚咽をもらしそうになったが、必死に嗚咽を噛み殺す。
これは、罰なのだ。
あまりに長い幼少期を過ごし、大事なことを見落とし続けた自分への当然の罰だ。
成美には、ダリを憎む権利がある。
そして、今のロゴには泣く権利がない。
黄色いタクシーが家の前で停まった。
紺色の傘を差した宇津木律子が、タクシーから降りてくる。
傘から顔を出した魔女は、扉の前にいるロゴと由沙美の姿を見つけて、高い鼻をふーっと鳴らした。
「風邪引くよ、坊や」
眠っている由沙美を抱き締めながら、ロゴは精一杯笑顔を取り繕った。泣き顔と混ざって、こっけいな表情になっているのが自分でもわかった。”