格差の問題を雇用形態、いわゆる派遣業務、派遣社員という切り口で考察している。
はじめは、戦前の「女工哀史」に代表される過酷な労働の様子から話しが始まる。
なんとも悲惨な労働を強いられていたかと暗澹たる思いになるが、それほど遠い昔の話ではない。自分の母親からも姉妹や従姉妹が繊維工場に勤めに行って体を壊
...続きを読むして若くして亡くなったり、足を悪くしてびっこになったりした話を聞いた覚えがある。女工の勤務体系は斡旋業者の介在する、まさに派遣労働だったのだ。そして、終戦後労働法が整備されるまでは労働者の待遇はとてもひどかったと言える。
そして、その雇用形態は労働者と人集めの会社(あるいは親方)との雇用契約と、人集めの会社(あるいは親方)と実際に労働者を働かせる会社側の契約とは別々になっていた。このため労働者は直接働いている会社側に文句を言えない構造になっており、戦後はこのような形態の派遣業は禁止されてきていたが、1980年以降の雇用の規制緩和と共に次第に緩和されてきた。
つまり、現在の派遣業務は戦前の労働環境へ回帰しており、パートタイム労働、非正規労働など不安定な労働をどんどん生み出していると言うわけである。
それらの労働問題の大きな流れとそれぞれの問題点の提起はたいへん勉強になる。
結局のところ高度経済成長後の株主民主主義の台頭により、利益を得るのは企業と金持ちの株主だけになり労働者の地位はどんどん低下し、正社員もどんどん非正規社員に置き換えられていき、より格差が広がっていく社会になっていると言えるのだろう。
著者は最低賃金の大幅引き上げをはじめとするいくつもの提案をしているが、改善するのはなかなか難しいように思える。国会で審議しているのは結局のところ金持ちや企業から支援を受けている政治家ではないか。ピケティの金持ちは民主主義の敵だと言わんばかり主張はよくわかる。