行方昭夫のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ「月と六ペンス」以来のモーム作品。こちらは戯曲。
推理小説ではないのだけれど、その要素もあって、ほぼ一気読み。
半身不随のモーリスは何故死んだのか、事故か、自殺か、他殺か。次々と明らかになる新事実。妻かその愛人が犯人で決まりかと思いきや、さにあらず、驚きの真犯人とその動機たるや。
作品内では、死は内密に処理され、誰も法の裁きを受けることはなく大団円を迎えるのだが、如何に動機が善であったとしても、これが裁かれなくて良いのか、という点では、意見が分かれるのではないだろうか。少なくとも、現代の基準では、これを安楽死と認定することは出来ないだろうと思う。かといって、有罪とするのも気の毒ではあり、起訴されたとしたら、執行猶予だろうか。
タイトルの原題は The sacred flame
母の子に対する愛の含意のようだ。
-
Posted by ブクログ
1874-1892年の作品を収めた短編小説集。
高校生の頃岩波文庫の『ヘンリー・ジェイムズ短篇集』に出会って大きな衝撃を受けて以来、ジェイムズは私が偏愛する作家の一人で、書店で見つけ次第購入して読んできた。
岩波文庫のそれには、ジェイムズ中期から後期にかけての「曖昧法」を用いた精妙な作品が4作収録されている。そこでは語りのストリーム上の「視点」は一人の人物に限定され、従って、知人のAさんとBさんが見えない所で干渉した出来事について、「視点」の人物はただ推測するしかない。出来事の推移を見つめていても、その真相はどうなっているのか、また他者であるAさんやBさんの心中については永遠に謎のまま残される。この不可知の世界を、ジェイムズは現実の人間の生をリアルに描出するために構築したのだが、掴み得ない他者や世界に取り残されて五里霧中に包まれる孤独感と不安が、私には「これが現代芸術だ!」という感嘆をもたらしたのだ。
さらにジェイムズの文体は精妙であり、それを辿ることは大きな読書の喜びを約束してくれる。私は岩波文庫の短編集をもちろん何度も読み返したものである。
さて講談社文芸文庫の本書には5編が収録されているが、そのうち「五十男の日記」「嘘つき」の2つはずっと昔に福武文庫『嘘つき』で読んだことがある。
巻頭の「モーヴ夫人」(1874)は初期の作風を示し、「国際もの」のジャンルに属している。視点は複数の人物のあいだを渡り歩き固定されていない。ヘンリー・ジェイムズの初期の作品群を私はあまり好きではないのだが、本作はやや複雑で精緻なジェイムズの文体をじっくり味わえて、なかなか面白かった。
「五十男の日記」(1879)「嘘つき」(1888)には視点の限定による「曖昧法」の手法が見られ、特に後者は、以前福武文庫で読んだ時にはさほど高く評価しなかったものだったが、今回読むとやはりこれは素晴らしい文学作品になっていると感銘を受けた。若い画家ライアンの目を通して世界は観察され、以前求婚してふられたが、実はライアンから現在も密かな恋心を抱いて見られているキャパドーズ夫人、その夫で虚言癖のあるキャパドーズ大佐との三角関係を中心に事象は展開してゆく。この作品は更に後期の作品に見られるような出来事における「完全な謎」はあまり無いのだが、当然キャパドーズ夫妻の心は測りがたく、「他者の遠さ」が絶対的なものとして屹立する。しかもどうやら、これら3人の主要人物は3人ともが嘘をついているらしく、最後のライアンの感慨についても、読者は共感するよりも異質なものとして客観視せざるを得ない。
この、テクストの記述ストリームと読者の胸中に流れる解釈の意味ストリームとが分離してゆくという二重性が、ヘンリー・ジェイムズの曖昧法の素晴らしい現代芸術的感触を感得させてくれると私は考える。記述ストリームに完全には没入し得ず、「覚醒する」ことを読者は要求されるのだ。この点は確かに「現代芸術」の核心であろう。
出来事のレベルで「完全な謎」ではないという点、本作の5編ともがそうであるのだが、それでも「教え子」(1891)のような作品は非常に賢いが純粋な少年の像を描き出してとても魅力的だし、ジェイムズの文体や構成の精妙さが味わえて、やはり本書を通して、この作家が私にとって最も重要な、かけがえのない作家であることを確信したのだった。邦訳で全集が出版されていないことがすごく残念だ。 -
Posted by ブクログ
これも名著。さすが行方昭夫先生。
「英文和訳なんて意味がない」とか「英語なんて読んでおおよそ意味が分かればいいんだ」という主張はバランスに欠けているなぁ…と、行方先生の著書を読むと思わざるを得ません。
要は語学に魔法の杖など無く、読む・聞く・書く・話すのそれぞれについて、その人がその外国語を学ぶ理由に応じてバランスをとって学ぶことと、それ相応の時間継続して勉強しなければ何れにしても相応の外国語力は身につかない、ということなのだろうと思います。
そういった意味で「英文精読」、大いに意味があると思いますし、何よりも行方先生の解説には唸らされます。「岩波ジュニア新書」ということで学生向けの内容かと侮るなかれ。 -
Posted by ブクログ
行方昭夫さんといえば、英文解釈・英文精読の大家じゃないですか!その方が「英会話不要論」とはどんな内容なのか気にならないはずがありません。
…ということで読んだのですが、内容的には「さすが」と唸らされます。(当然ですね)
私も、行方さんのおっしゃるように、文法や訳読中心の学校英語が日本人が英語が出来ない諸悪の根源のように言うのは違うと思いますね。お門違い。その点についてはこの本は完璧な論陣を張っていると思います。間違いなく一読に値します。
なお、帰国子女の英語についての章は私も大いに考えさせられます。他人事ではない、直面している課題だけに… -
Posted by ブクログ
☆☆☆ 2025年10月 ☆☆☆
25年前にこの本に出会っていたら、と思うがきっと25年前の自分には何も響かなかっただろう。他動詞と自動詞の使い分けや無生物主語といった英語の発想に関する説明が分かりやすい…と思ったら著者はモームの翻訳を手掛けている行方さんだ!!
『モーム短編集』には素晴らしい作品があるが、それを日本語に置き換えた人。
この本で学んだのは覚えるしかないモノも色々あるってこと。
few=ほとんどない、a few=少しある、quite a few=非常にたくさん、とか。
英語をちゃんと勉強してきた人にとっては基本的な事かもしれないけど、今まで適当にしかやってこなかった僕には大変役に立つ。
英語は日本語以上に”繰り返し”を嫌うというのも、「なるほどな~」と思った。
ちなみにこのレビューでは”繰り返し”を避けることを少し意識している。