スザンヌ・コーキンのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
てんかん治療として海馬を手術によって除去され、記憶障害となった有名な患者H.M.。著者は、彼を長年研究した医師である。本書で彼はH.M.=ヘンリー・グスラフ・モレゾンとして再度名前を与えられ、単なる特殊な症状を有する研究対象ではなく、ひとりの人間としての彼の人生に光を当てられる。多くの脳神経科学を紹介する本でも紹介されたH.M.が、つい最近の2008年まで存命だったというのは驚きだ。今後脳の海馬切除手術は行われることもなく、H.M.のような患者は二度と現れないことを鑑みると、PETやfMRIなど脳内の活動を計測する装置が進化した近年まで存命であり、それらによる検査を受けることができたのは科学に
-
Posted by ブクログ
何年も前から読もうと思っていた本書をやっと読めた。
重度のてんかん治療のため、脳の外科手術をおこなった結果、記憶する能力を失った男性の50年にわたる臨床と研究の記録だ。
脳の外科手術というと、映画にもなったロボトミー手術を思い浮かべるが、こちらはもう実行されることはなくなっている。本書で取り上げられている手術も当時としてもかなり実験的だったようで、手術がもたらした結果を受けて、執刀医は「同様の手術はやってはいけない」と結論づけているとある。ただ、服薬ではなかなか改善が難しい病態のてんかんも実際にはあって、事実私も、以前の職場で、脳の一部切除を受けた人を二人ほど支援していたことがある。生活に支障 -
Posted by ブクログ
脳の一部摘出手術を受け記憶する能力を失ったH・Mことヘンリー・モリソンについて50年近く研究を通して歩んできた学者がその間得られた脳の機能について、およびH・Mの人生について記述する。
H・Mは転換の重い発作のため1900年代半ばに海馬周辺の摘出手術を受ける。その時はわからなかったが、両方の海馬の機能を失うことで30秒程度以上の記憶を保持することがほとんど出来なくなってしまった。一方手術以前の記憶は残っていたり、体を動かすような記憶や意味記憶(エピソード記憶でない)はわずかではあるが出来ていたりする。これは記憶が単に脳のある箇所だけで行われるのではなく、様々な部位で行われることを示した。また意 -
Posted by ブクログ
ネタバレ望みをかけて臨んだてんかんの治療のための手術で
脳の一部を切除し、術後からの記憶をとどめることが
出来なくなったヘンリーの記録。
現在に閉じ込められた…と聞いても
中々どんな状況なのかなんて想像もつきません。
会う人々がみんな知らない人。
今いる場所もわからない。なぜそこにいるかも。
お腹がすいているかもや喉の渇きもわからない。
時間がたつとどこがどういう風に痛いのかも説明できない。
家族が亡くなったのも覚えていられない。
こんな状況で、いつも笑みをたやさず
自分からすすんで脳科学の研究に協力するヘンリー。
自分らしさを形作るものは、膨大な過去が
積みあげてきたものによると思っていた私 -
Posted by ブクログ
ネタバレてんかんの外科的治療のため両側の海馬+海馬傍回を切除したHMは新しい物事を覚えようとしても15秒以下しか記憶がもたないという重度の健忘症に苦しめられるようになった ー 非常によく調べられ、有名な患者であるHMについて、主研究者であったスザンヌ・コーキンが記した本。内容的にはセンチメンタルな部分は少なく、神経心理学的な話が中心。多少なりとも神経科学の知識がないと難しいかもしれない。
これまであまりよく知らなかったが、HMは手術を受けたあともてんかん発作には悩まされていたという。また、抗てんかん薬の副作用らしき小脳萎縮も顕著で、運動を指標とする検査結果の解釈は若干慎重に行うべきらしい。
HMは