島尾敏雄のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ初めて読み切った島尾の小説。面白かった。
小説としては特攻隊として死を覚悟した人間の感情を描くというところがポイントであろう。当時の日本の戦況から、実に貧弱な装備=魚雷艇しか与えられず、またそうした極限状況にあってもなお世間的な人間関係に悩み翻弄され知らずに世間に染まっていく人間の愚鈍さを描いている。
島尾はそんな自分がおかしかったのでもあろうし、戦争の愚かさ--しかし、人間は戦争を行い滅びるという愚かさを犯し続けるであろうという確信--に対するあきらめをも描いている。 そこに、人間の未来に対する希望などはあまり感じられない。人間という絶望的な存在に希望をもたらす何かがあるとすれば、それ -
Posted by ブクログ
ネタバレ―20081023
1986年に島尾敏雄が亡くなった時、文芸各誌はこぞって島尾敏雄追悼の特集をしている。そのなかで生前の島尾を知る作家や批評家が追悼文を書き、もっとも評価する島尾作品を挙げていたのがあったが、「死の棘」-6票、「魚雷艇学生」-7票、「夢の中での日常」-2票、といったものであった。概ね批評家たちは「死の棘」を挙げ、作家たちは「魚雷艇学生」を選んでいた。
巻末で解説の奧野健男は、「晩年の、もっとも充実した60代後半に書かれたこの作品は、戦争の非人間性の象徴ともいえる日本の特攻隊が内面から実に深く文学作品としてとらえられ、後世に遺されたのである。それはひとつの奇蹟と言っ -
Posted by ブクログ
海軍予備学生となった主人公の青年が、創設されたばかりの魚雷艇を志願し、特攻隊として戦争にくわわることを予定された彼の日々の訓練をつづった作品です。
ほかの学生たちにくらべてやや年上の青年は、予備学生となった当初から、周囲から浮いた存在として、彼らのようすを観察していることがえがかれています。それでも、彼もまた戦争へと向かう状況から離れた立場に立っているわけではありません。彼は、特攻隊に身を置くことになりながらも、そんなみずからの運命をどこか遠い所からながめるように記しています。
こうした著者の独特のスタンス、たとえば次の文章によく示されているように感じます。「私は勢い荒々しく声を張りあげて -
Posted by ブクログ
ネタバレ特攻隊に志願しながらも、出撃することなく終戦を迎えた筆者の自伝的小説。
テーマが戦争でしかも特攻隊となると、どうしてもお涙頂戴なエンターテインメントに成り下がってしまいがちである。そんな小説が流行る中、徹底的にドライな語り口で時に考察を交えながら、「死」=出撃までの日々を綴る。
あくまで冷静さを保ち、特攻隊の内情を客観的に語るその姿勢は文学の域を超えた一つの”記録”として読み継がれていくべきものではないだろうか。
残念なことに、この物語は前線基地への出発で幕を閉じる。「死」まで極限に近づいた出撃命令と終戦を描いた後編は別作品というところが惜しまれる。 -
Posted by ブクログ
えぐっやば笑 面白すぎる。
飴舐め事件。周囲の高校出たての学生たちより年上で孤立気味の主人公だけが上官に正直に飴舐めを自白し、殴られるがその最中自分の行動を恥ずかしく思い、
「私は食卓に向かって腰をおろし、ぼんやり前方に目をやっていた。上気した頭で、どうしてこうなったかを、そもそもの自分の分隊内での態度からその筋道を辿ろうとしてみたが、刺戟が強く、堂々巡りばかりして解きほぐせるはずもなかった。これは滑稽なことだ、と思いこもうとしたが、かえって羞恥がふとるばかりであった。同じ班の例の学生の、冷ややかに私に注ぐ目なざしを、私は自分の背中にきつく感じてもいた。」
まさにドストエフスキー。自分で勝