長い時間を越えて伝わる、口承という記憶の淵を
ゆらゆらと漂うような遠野物語。
簡潔で美しい文語体ではあるものの、
読み解くのが難しい原書に比べて、
物語として新釈された絵本の本書は
子供でも読みやすい優しい遠野の世界。
その分切なさもより胸に迫るけれど、
裏表紙の絵がなんとも温かな気持ちにしてくれる。
障子越の温かな灯り、オシラサマを飾った神棚、
幸せそうな表情で猫たちと囲炉裏を囲む
おばあちゃんの遠野の暮らし。
生きるという喜びに、余分な重みも装飾もつけず、
日々を大切に生きていく心持ちを
遠野の景色と伝承は伝えてくれる。