ソーシャルキャピタル(社会関係資本)とは要するに「社会の絆」のことで、「しがらみ」となることもあるが、基本的に「よい社会」には必要なものだそうだ。本書はソーシャル・キャピタルという言葉がデューイあたりから使われはじめ、ネットワーク理論と結びついて発展してきたことをのべ、「埋め込み理論」(人の能力はど
...続きを読むんな社会ネットワークに埋め込まれているかで左右される)などを解説している。興味ぶかいのは、「社会疫学」の観点で、絆の強さが健康や福祉の向上に影響するという論である。これは統計的にかなり有意であるらしい。また、自殺の70%は男性で、介護疲れ、配偶者の死亡などで、孤立すると自殺を図るなど、大変危ないとのこと。定年後の社会ネットワークの組み直しもジジさんの方が苦手であり、健康診断も受診しない割合が高く、引きこもりが多いらしい。社会関係資本を測定する方法についてもふれており、「人は信頼できるか」という質問に対する肯定の割合で、地域の一般信頼を測ることができる。個人の社会関係資本は名前想起法・地位想起法・リソースジェネレーター法などで測ることができる。社会関係資本は育成するのに時間がかかる。近所づきあいやら、NPOやボランティアやらの参加などによって醸成されるからだ。しかし、壊れる方は簡単で、「格差」、とくに資産格差によって簡単に蝕まれる。芸能人がやっているような「見せびらかし」はやめた方がいいとのこと。結束型のネットワークは一般信頼ではなく、仲間うちだけを信ずる特定信頼に傾き、規範や互酬性(お返し)の醸成には役立つが、なれ合って腐敗することもある。橋渡し型のネットワークは結束型の弱みを中和もするが、元来、こういう「コネ」は権力と関係しており、政治家の世界などではコネの継承が起こり、格差を助長する面もある。現代の若者のケータイ村社会とか、日本の格差は「一人暮らしの若者の一人負け」の状態であるとか、日本の場合、大学進学は社会関係資本の醸成に寄与しておらず、むしろ高卒で地元に残った人々の方が絆が強いなど興味深い分析が多い。アメリカのロゼトや長野の須坂市では、社会全体の「絆」が成員の健康に影響することが、統計データから確認されている。キー・パーソンの存在と、それに答えるネットワークが大事であるとのこと。最も面白かったのは、アメリカで1983年から2003年まで4739人を追跡調査したデータで、「幸せな友人」が半径800m以内にいると、本人も幸せに感じる確率が42%あがり、1600mでも25%あがるそうだ。幸せの伝播は3次(友達の友達)まで有効だそうだ(幸せのスピルオーバー)。不幸はそうした伝播力がよわい。パットナムの『孤独なボーリング』や政治学者アスレイナーの理論なども興味深い。参考文献も充実している。