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地下についてここまで現地調査を徹底的に行い、精神世界にまで深く踏み込んだ本は初めて読んだ。
地下世界は太古へつながる秘密のルートだったのか。
狂気にも似た、著者の執念に脱帽だ。
——ノンフィクション作家・高野秀行さん、推薦!
祖先たちがそうだったように、自分より偉大な何かに手を触れるため、秩序だった現実の向こう側にたどり着きたいという静かな欲望によって私たちは地下へ引き寄せられる……。
ニューヨークの地下鉄、パリの地下納骨堂、アボリジニの聖地、カッパドキアの地下都市、マヤ人洞窟など、世界中の「光なき世界」を渉猟し、人類の歴史と闇への畏怖に思いを馳せた比類なきノンフィクション。
【目次】
挨 拶 日本語版に寄せて
第1章 地下へ――隠されたニューヨーク
第2章 横断――パリの地下納骨堂
第3章 地球深部の微生物――NASAの野望
第4章 赤黄土を掘る鉱夫たち――アボリジニの聖域
第5章 穴を掘る人々――もぐら男とカッパドキア
第6章 迷う――方向感覚の喪失が生む力
第7章 ピレネー山脈の野牛像――旧石器時代のルネサンス
第8章 暗闇――「創世記」の闇と意識変容
第9章 儀式――雨を求め地下に下りたマヤ人
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Posted by ブクログ
ピレネー山脈のテュク・ドドゥベール洞窟。ここは、ショーヴェ、ラスコー、アルタミラに並ぶ先史時代の洞窟芸術の宝庫。現在は未公開。ところが、著者ウィル・ハントは幸運にも、この洞窟の所有者、78歳のベグエン侯爵や研究者たちと一緒に入ることができた。この体験記が圧巻。洞窟芸術について簡と要を得た説明もすばらしい。
別の章には、ミシェル・シフレも登場。1962年、23歳の彼(地質学専攻の大学院生だった)は、アルプス山脈のスカラッソン洞窟に入って2カ月間生活する。彼がそこで発見するのはヒトのバイオリズム、そして意識の変性状態も体験する。同じ頃、心理学者のドナルド・ヘッブらは、洞窟のような刺激のない環境に人間をおくという実験を行なっていた。被験者は幻覚を体験し、意識が変性した状態になる。著者ハントは、これらを受けて、洞窟や闇と精神世界の関係について筆を進めてゆく。最近の研究も織り込んで、その考察は論理的で的確だ。
以上はこの本の後半部。前半部はニューヨークやパリの地下世界から始まる。
全体的な印象は、軽めのダンテの『神曲』。洞窟フリークには堪らない1冊。
Posted by ブクログ
ラジオで紹介されていたため手に取る。
地下世界が世界の中にこんなにあったなんて!
本書を読むまで地下世界を想像したことすらなかった。
一切の太陽の光が入らず、方向感覚もなくなり、代謝が遅くなり、視覚と聴覚が鈍くなり、、
時間生物学の実験の中で2ヶ月間とかに潜り生活する実験の話が出ていた。その中で被験者の研修者は錯乱状況になる。「今になって理解した」「神話で地獄の場所が必ず地下に定められていた理由を」と記している。一定の境界を越えると、その先に必ず現れるのが幻覚。全ての感覚を遮断されると逆に感覚が鋭利になり覚醒したような状態になる。その後、意識が内側へ内側へ向いてくる状態となり、一種のトランス状態となる。そういった状態を古来から闇への畏敬を持ってして儀式や宗教体験とと結びつけてきた歴史がある。人間の感覚や脳は受ける刺激や感情によっていかようにも変容しうるものなんだと感じた。
Posted by ブクログ
本書を手にしたのは他でもない、冒頭の「挨拶―日本語版に寄せて」が秋庭俊への言及から始まっていたから。東京の地下に秘密の基幹施設網があったと信じた彼が著した『帝都東京・隠された地下網の秘密」を、発行された当時貪るように読んだことを思い出す。
本書もそれと同類のノンフィクションかと思って手にしたのだけれど、「○曜スペシャル」的な匂いのする秋庭本とはまったく違う、若干の偏執が入り混じった、より深みのある思索の本だった。光が届かず、方向感覚を完全に失った、理性や論理を超えた世界。著者が指摘するところの「心の洞窟」に入る決心はワタシにはまだつかない。
Posted by ブクログ
NYの地下鉄のトンネルを皮切りに、世界各地の地下へ潜り、地球と人の心の奥をのぞいた地下愛好家[カタフィル]の地下世界旅行記。
地下愛好家(言うまでもなく大半が不法侵入である)としての体験談と歴史的な記述が混ざりあい、著者の皮膚感覚とかつて地下に潜った人びとのそれが一体化していくような語り口が魅力だ。パリのカタコンベの章が特に面白かった。カタコンベの地下室は北斎の神奈川沖浪裏の壁画や岩盤を削って作られた城とガーゴイル、スプレーアートのトーテムポールなどなどに彩られ、夜な夜なレイヴパーティーが開かれるという。写真を見ると退廃的な雰囲気がたまらない。
都市の地下は野良アーティストたちの縄張りでもあって、著者を魅了したグラフィティアーティストREVSもまたNY地下鉄のトンネル内に100を超える〈日記〉を記した。それも、他のアーティストは地下鉄のライトに照らされる壁を選ぶのに、REVSは死角になる場所、地下愛好家が探して懐中電灯をかざさなければ絶対見つからない場所に書くのだ。そこで著者は「誰にも見られない場所に造形物を残すのはなぜか」という問いを一つ挟んで、REVSのグラフィティとフランスの〈テュク・ドドゥベール〉洞窟に残された粘土の彫刻とを繋げてみせる。日の光がまったく差さない洞窟の奥の奥で捏ねあげられた、雌雄のバイソン。その姿を見た瞬間に流れだした涙と、REVSが言った「使命」を重ねて描きだす筆致がとてもすばらしい。
著者はアボリジニが赤土を掘りだした神聖な洞窟やカッパドキアの地下都市、マヤのセノーテなどにも赴いているが、現代都市が隠し持つ地下の世界を平等に扱っているところに愛があると思う。だからこそ「洞窟にいるのは死んだ状態に似ているが、生まれる前の状態にも似ている」という、集合的無意識を語る常套句のような結論に達するのは惜しい気もするが、ひとつの瞑想法として「地下を歩く」という選択肢があることを教えてくれた興味深い一冊だった。
Posted by ブクログ
「地下世界」をテーマにした異色のルポ。
著者は、雑誌記者を経てノンフィクション作家となった。本書は初の著作である。
少年の頃、洞窟を探検したことがある著者は、ある時、まさにその洞窟を撮った写真に惹きつけられる。
写真を撮影したのは都市探検家グループの一員だった。著者は彼らに誘われ、ニューヨークの下水管を巡った。
それを皮切りに、地下への旅が始まる。
パリの地下納骨堂。アボリジニの聖地。カッパドキアの地下都市。ピレネー山脈の洞窟。マヤ人の雨乞いの地。
それは下方へと向かうだけでなく、奥へと、そして闇へと向かう類まれな経験だった。
地獄(Hell)の語源は、インド=ヨーロッパ祖語の「隠す」(kel)だという。不明瞭であるがゆえ、地下への旅は不安や畏れを伴う。さまざなな神話で、「地獄」が地下に定められているのは偶然ではないのだ。
現代社会では、真の闇に出会う機会は(あるとしても)極めてまれだ。
漆黒の闇に身を置くとき、人の精神状態はどうなるのか。時間の感覚は失われ、視覚や聴覚は鈍り、時には幻覚に捕らわれる。
それはある種、スピリチュアルな体験にも似ており、実際、暗闇で行う重要な儀式を持つ民族もいる。
日常を離れ、普段、拠り所としているものから切り離される。
多くの情報から遮断され、心細さに恐怖も覚える。
しかしそれは、逆に見れば、しがらみや軛からの開放でもある。
地下への旅はまた、インスピレーションの源ともなり、あなたを思いもよらぬ新しい世界へと誘うかもしれない。
著者とともに各所を巡りながら、読者は知らず知らず、自らの内なる世界をも巡り始める。それはまさにディープな旅である。
地下世界、恐るべし。
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