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麻布・偏奇館から終の棲家となる市川へ。「戦後はただこの一篇」と石川淳が評した表題作ほか、「東京風俗ばなし」などの随筆、短篇小説「にぎり飯」「畦道」、戯曲「停電の夜の出来事」など十九編を収めた戦後最初の作品集。巻末に久保田万太郎翻案による戯曲「葛飾土産」、石川淳「敗荷落日」を併録する。〈巻末エッセイ〉石川美子 【目次】 にぎり飯/心づくし/秋の女/買出し/人妻/羊羹/腕時計/或夜/噂ばなし/ ■付録 葛飾土産(久保田万太郎)/敗荷落日(石川淳)
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Posted by ブクログ
晩年に暮らした千葉を背景とした作品。ほとんどが昭和21年ころに書かれたものだ。戦後の荒れた東京に比べて、江戸川を越えただけで長閑な風景が描かれる。荷風は、そこで暮らす人たちの穏やかでいて逞しく、飢えも貧乏もしたたかに乗り越える姿に惹かれたのだろう。慎ましやかな庶民の何でもない日常が描かれる。 市川、...続きを読む船橋、江戸川、本八幡など、私にとっても聞きなれた身近な地名がでて来るたびに町の風景も感じながら読んだ。 荷風作の戯曲が載っていたのは意外だったし、浅草で上演されていたことに、当時にタイムスリップして一度観てみたいと思った。
目次 ・にぎり飯 ・心づくし ・秋の女 ・買出し ・人妻 ・羊羹 ・腕時計 ・或夜 ・噂ばなし ・靴 ・畦道 ・停電の夜の出来事 ・春情鳩の街 ・葛飾土産 ・細雪妄評 ・木犀の花 ・東京風俗ばなし ・裸体談義 ・宮城環景 ・葛飾土産 久保田万太郎 ・敗荷落日 石川淳 戦後の作品を集めた作品集。 東...続きを読む京大空襲の後、離れ離れになった家族を探すシーンが、東日本大震災の津波と重なってしまう。 呆然と立ち尽くし、行方の知れない家族を探し、あきらめがつくということもなく、だけど日々を生きていかなければならない。 誰を怨むことの出来ない自然災害でも気持ちの持って行き場がないのに、戦争という人災で家族を喪うってどう納得すればいいのだろう。 戦後の食糧難に ”われわれが再びバナナやパインアップルを貪り食うことのできるのはいつの日であろう。この次の時代をつくるわれわれの子孫といえども、果してよく前の世のわれわれのように廉価を以って山海の美味に飽くことができるだろうか。” 思ったより早く飽食の時代に突入してしまったけれど、荷風はなんと思っただろうか。 上っ面だけの西洋化に対して、常に批判の目を向ける荷風。 特に文化人とされる人たちの、時と場所をわきまえないあけすけで不躾なふるまいに。 ”日本ではあること無いこと何でも構わずに素ッ破ぬくことは悪いことでも耻ずべき事でもないとされている。” ところで、これは感想ではないのだけど、江戸の正月の風習としてカルタについて書いているのだけど、カルタというのは百人一首のことで、当然当時は活版印刷のような文字ではなく、変体仮名で書かれていた、と。 北海道の百人一首は木札に変体仮名で下の句を書いた取り札なのだけど、そのルーツは会津からの開拓民と言われている。 だけど江戸時代の百人一首が変体仮名で書かれていたというのなら、開拓民からすれば木っ端より紙の方が高かったから木札を作っただけというのが真相なのではないかという気がしてきた。 本州では紙の札に印刷した取り札だったので、上の句を読んで下の句を取ることも容易かったけれど、木札に書いた変体仮名を読める人が少なくなるにつれて、下の句を読んで下の句を取る北海道ルールができていったのかな。
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