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集合論の創始者カントールが始めた破天荒の試みは「無限を数える」ことであった。それは現代数学が直面してきた課題である。難解とされる現代数学の根本概念を、数式を用いずにやさしく解説する「数学への招待」として本書は書かれた。音符が読めなくてもすぐれた音楽鑑賞家になれるように、数学を「鑑賞する」ための本といえよう。
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Posted by ブクログ
初版は1952年で、私の本は2022年の第67刷でした。 無限にも大小があるという不思議なことや、数字ではなくて「働き」についての話など、正直言って半分も理解できていないと思いました。 でも、はしがきに書かれている、音符が読めなくても、感受性さえあればすぐれた音楽の鑑賞家にはなれるはずである。まった...続きを読むく同じように、数式なしで数字を「鑑賞する」ことはできないだろうか。 という感じで、数学の雰囲気は鑑賞できたと思います。 この本の数学は現実世界とは関係ない世界で人間が創造したものかと思われましたが、量子力学や相対性理論の世界では、これらの数学があてはまる、ということなので、こういう数学も人間が創造したのではなくて、この世界にもとからあったのを人間が発見したのかな、などと哲学的なことを思いました。
863 遠山啓(とおやま・ひらく) 1909-1979年。熊本県生まれ。東京大学数学科に入学するも退学、のち東北大学数学科を卒業。海軍教授をへて東京工業大学教授。数学教育への関心から民間教育団体「数学教育協議会」を結成、長く委員長をつとめた。数学教育の理論と方法を開発・提唱し、その水道方式、量の理...続きを読む論などは、教育現場に大きな影響を与えた。著書に『無限と連続』『数学入門(上・下)』(以上、岩波新書)、『代数的構造』『現代数学入門』『代数入門』(以上、ちくま学芸文庫M&S)『競争原理を超えて』(太郎次郎社)などがある。教科書や雑誌の創刊にも多く関わった。 一口にいってしまえば,集合論は「無限の数学」である.数学が無限という題目に立ち向かうことの危険を最初に警告したのは,アルキメデスやニュートン(1642–1727)と並んで,史上最大の数学者といわれるガウス(1777–1855)その人であった.19世紀においてはガウスの言葉は一つの意見ではなく,一つの掟であったに違いない.しかも,カントールはこの「無限」というタブーにあえて手を触れた最初の人だったのである. 「無限」という言葉はしばしば使われてきたが,しかし,常識的には,それがはっきりとした意味をもつものとしてではなく,むしろ人間の数える能力を超えたものを意味していた.それは「有限でない」という単に否定的な意味しかもっていなかった.そのようなものがどうして正確さを生命とする数学の研究題目になりうるだろうか.まず,だれにもこのような疑問が湧いてくるに違いない. 「無限を数える」とはいっても,有限を飛びこえていきなり無限に立ち向かうわけにはいかない.どうしても「有限を数える」ことから始めるのが順序である.無限は有限とはかなり異なったものではあるが,それでもやはり多くの点で似かよっていることもたしかである. 「新教育」は数学のなかから論理性を抜き去ることによって,数学を実生活に即した実用的なものにすることができると考えていたらしいが,結果において,2+3の計算はできるが2 0000 0000+3 0000 0000の答は出せないというはなはだ非実用的な子供たちができあがらなければ幸いである. 最も初歩的な加減乗除においてさえ,一つ一つ数えるという素朴な手続き以上の論理が含まれており,この論理を最大限に利用したものが現代数学にほかならない.ちょうど天文学者が望遠鏡によって,また細菌学者が顕微鏡によって肉眼の不足を補うように,数学者は論理によって肉眼の欠陥を補うのである. だが,部分が全体と等しいことの発見は何もカントールに始まるのではない.このことはすでに1638年に現われた本のなかにはっきりと書き記されているのである.その本というのは近代物理学の生みの親であるガリレオ(1564–1642)の『新科学対話』(今野武雄・日田節次訳,岩波文庫) である. ある統計好きの人が調べたところによると,数学の研究論文をのせる雑誌は大小合せて全世界で800種以上にのぼるという.これだけの新研究を多量生産している現代数学に,おびただしい記号が必要であることはいうまでもないが,それでも注意深く用いれば,だいたい,ローマ字,ギリシャ字,ドイツ字だけで事足りている.だが,カントールは,集合論という新しい酒はとても古い革袋には盛り切れないと考えたので,わざわざヘブライ文字を持ち出してきたのかもしれない.しかし彼がわれわれの漢字を知らなかったのはいささか残念であった.数学が千年使っても使い切れないほどたくさんの象形文字のストックを持って少なからず当惑しているわれわれは,喜んで文字の輸出に協力しただろうに……. しかし,たとえば黄河やナイル河のような大河のほとりに多くの人が集まって農耕を営み,国家ができあがるようになって,田畑の面積を測り,収穫量を測り,租税を割りあてる必要が起こってくると,もはや1, 2, 3, 4, ……の自然数だけでは足りなくなる.どうしても割り算,掛け算の必要が起こってきて,いつでも割り算ができるようにするには分数が要求されてくる.したがって古代中国,エジプト,インド,バビロニヤのような大きな農業国家において要求された数はせいぜい分数までであった.このように生産様式が大局的には数学の発展段階を定めているのである.ガリレオに始まる近代物理学は,その手段としてニュートン,ライプニッツの微分積分学の成立を促したが,ここでは分数以上の数である無理数が不可欠となってくる. 現代の数学でとくにいちじるしい対立をなしているのは「もの」の概念と「働き」の概念である.もちろん,一つの文章はすでに「何かの もの が何かの 働き をする」という形をとっているのと同じく,数学のなかにもこの二つが対立していることは当然であろう.ガロアの輝かしい功績は,この「働き」をきわめて明瞭な姿で数学のなかに持ち込み,それを数学全体の指導原理たらしめた点にあるといわねばならない. 数学では簡単だからかえって難しいことがしばしば起こる.位相空間の定義などもその一例である.なぜなら,このような簡単さはただの簡単さではなく,複雑なものから極度の精錬をへて得られた簡単さだからである. いっきょにそのような抽象の高みに飛躍することはやめて,根気よく一歩一歩登ってゆくことにしよう.この登山が決して楽ではないことはたしかであるが,一度頂上が征服された暁にはすばらしい展望が開けてくることも約束していい.位相空間は現代数学の山脈のなかの高峯の一つだからである.そしてこの登山の道中で現代数学の方法を一とおり学びとることができるだろう. これからのべられる議論が外見的にはいかにも抽象的であるために,このような理論は現実と何らのつながりももっていない思考遊戯にすぎない,と考える人が多いに違いない.しかし,数学者にこのような理論の建設を強いたのは,数学者の抽象癖ではなく,より現実的な学問である物理学や力学であったことを強調しておきたい.具体的即現実的,抽象的即非現実的という連想は常識的であるが,数学のなかではこの常識は必ずしも通用しない.ある意味ではその反対なのである. 盲目といえば,われわれは現代の世界的数学者L. S. ポントリャーギン(1908– )を思い出さずにはいられない.13歳のときポントリャーギンはある爆発事故のため両眼とも失明し,永遠の暗の世界につき落とされてしまった.盲目の少年がどうして世界的数学者になりえたか,これはまさしく一つの奇蹟といわねばならない. そのためには,不具者に行きとどいた保護の手をさしのべる社会的環境が前提となることはもちろんであるが,彼の場合には,その上に母親の深い愛情が秘められていた.彼の母親はたいした教養もない一裁縫師にすぎなかったが,盲目の愛児を毎日学校につれてゆき,あらゆる教科書や文献を読んで聞かせた.やがて彼は世界的なトポロジスト,アレキサンドロフ(1896– )を指導者とする学派に加わってたちまち頭角を現わし,24歳でモスクワ大学の教授に任ぜられた. 小人の王を持ち,小人の人民からできている小人国に12倍の身長をもったガリバーが流れついて,小人たちの間に大騒ぎが起こる.『ガリバー旅行記』の作者の非凡な推理力は,12倍の身長から引き出されるであろうところのあらゆる結論を,非難の余地のない正確さで描き出している.ガリバーの身長が12倍だということさえ承認すれば,それ以外には何一つ不合理なことは発見できない.その正確さはまったく驚嘆のほかはない.この物語を読む人は,まるで直線だけでできている見事な幾何模様のような美しさを感じとるに違いない.もっとも,スウィフトは計算があまりじょうずでなかったとみえて,ガリバーの食料配給量が身体の容積に比例すべきであるといういとも科学的な議論をのべたあとで,さて計算の段になると123 =1728とすべきところを123 =1724と答を出している.この計算違いはたしかに不朽の名作とともに残る不朽の御愛嬌であろう 4). 『ガリバー旅行記』はその内部には矛盾を含まないが,やはり小人国以外の国から見れば架空の物語であることをまぬかれない.非ユークリッド幾何学も,その内部には矛盾を含まないにしても,やはり「健全な常識」からみれば一つの寓話にすぎないと思える.しかし,はたしてそうであろうか.いや,非ユークリッド幾何学は『ガリバー旅行記』よりははるかに現実的な意味をもっていることを示したのはクラインとポアンカレであった.この二人の方法は少しく異なっているが,ここではクラインの方法をのべることにしよう. 建築技師であったデザルグは職業上の必要から投影法に上達していた.アカデミックな数学者とはおよそ似てもつかない活動的な技師であったデザルグは,もっぱら実用的な動機からこの新しい幾何学を発展させたのである.彼はまた労働者の教育に努めた熱心な技師でもあった.彼の論文のなかには「木」とか「枝」とか「小枝」とか「 節」とかいう珍らしい術語が現われるが,これらの言葉のなかにアカデミーの選ばれた学者の前で講演をしている数学者ではなく,夜学に集まった知識欲に燃えた労働者に講義している熱心な技師の姿をしのぶことができよう.
集合論、群論、位相空間についての一般向け入門書。いわゆる”理系”でない人にもわかりやすくしようと、数式はあまり使わないように書かれている。ただ、昔の本は最近の類似の入門書より、内容が高度だったり、例がかなり圧縮された記述でパッとわかりにくかったり、でこの本も例に漏れない。薄さの割には内容が圧縮されて...続きを読むいて、けっこう時間をかけて楽しめる。(この本がさらっと読めてしまう人はそもそもよむ必要があまりない人だろう)含蓄もあり古典感がある。もうちょっと具体的に、という人は同じ著者の『現代数学対話』がいいと思う。 昔の”本を読む人”は賢かった、ということもあるだろうが、今ほど本が溢れていないからもっとゆっくり読む習慣だったのかもしれないな、、なんてことをちょっと思ったりもした。
現代数学の概念、集合、群、束、トポロジー、非ユークリッド幾何学などを極力数式を使わないで平易に説明されている。平易でも抽象数学なので頭をフル回転しないといけないな。1952年に発行の岩波新書だが、現在にも価値がある一冊である。
真の教養と呼ぶにふさわしい本。現代数学の道のりとは拡張、抽象化、妥当性の確認、不変量の発見を繰り返していたのか。数学的概念の真意を知る喜びがあった。
~とも言うべきだろう、という言い直しが多用されている。出発点と終着点とを入れ換えて高みを目指すスイッチバックが数学では頻繁に出てくるとのことだが、本書でも、言い換えで理解の高みを見せてくれる 1952年出版とは思えないほど、分かりやすい丁寧な書き方。良書 1部 集合は順序を破壊し、残った数の多さ...続きを読むを比べる。そのとき、要素の数が無限だと計数することは無意味なので、要素の一対一対応によって集合間の多少を判定する。加算無限集合では、次元は関係なくなる。ヒルベルトの無限ホテル 2部 要素間に関係を定義する。群 3部 点、距離、閉集合、位相 4部 幾何、射影、平行線、長さ、角度、非ユークリッド幾何 4章はさすがに無理があって詭弁、と思いきや、アインシュタインの相対性理論の導出は同じ、となって感心する 1章は理解できたが、2章以下は何となく分かったぐらいなので、再読が必要
平易な語り口ながら、高校数学では現代数学の基礎であると説明されていつつも、いざ詳しい説明となると濁されてしまう集合とか無限とか群といった概念が、次々と繋がり有機的な展望が開ける、その説明の見事なこと。もっと早く読んでいたかった…。
無限を数えるなんて出来るの?そんな疑問に答えます。待望の復刊!systemの物語構築の流れが良くわかるはずです。
古い本なのに、とても読みやすい文章。ただし数式を使わない啓蒙書なのであろうが、僕のような素人には、やはり相当難しい内容ではある。 集合論や群や位相やトポロジーについて、「なんちゃって理系」に「勉強してみたいな」と思わせる効果は絶大。
無限、群、位相空間、非ユークリッド幾何学など、数学啓蒙書でよく取り上げられるテーマに関する遠山啓による著書。類書に比べて、最も短く最もわかりやすく、深さと広がりをもっている、といってよい。ゴールに向かって最短距離で急降下する話の進め方、適切な例示、一般化による広がりは数学において最も味わうことができ...続きを読むる。
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