Posted by ブクログ
2018年10月23日
神経回路の数理研究の専門家による、脳のメカニズムや人工知能に関する本。数式など完全に理解できたわけではないが、脳のメカニズムや理論、人工知能についての解説は詳しく役に立った。脳の数理的研究の第一人者であり、日本の研究体制についての意見にも説得力がある。
「生命は自己複製、すなわち自分と同じものを作...続きを読むり出す奇妙な物質である」p16
「生命は揺らいでいる不確実な環境の中で自己を複製するが、ときに複製の誤りが起こる。誤ったものがより頑健で、この環境の中で生存に適していればこれが広まり、前のものは滅びていく。これが自然淘汰で、ダーウィンの唱えた進化論である。この仕掛けにより、生命体は発展していく。それも、驚くほど多様に発展していった」p17
「ニューロンは小さいものでは数μm(ミクロン)、大きいものでも100μmである。100μmであればこれは0.1mmであるから、我々の感覚で分かる範囲にある。コンピューターチップのトランジスターのゲートはいまや数十nm(ナノメートル)の世界に入ったから、脳の素子はコンピューターの素子と比べればとてつもなく巨大といえる」p29
「人間はありのままの情報を蓄えるのではない。必要な情報を再生して作り出す仕掛けを記憶する。これは大変な情報圧縮であるが、うまくいけば大変に融通が利き、あいまいなキーからでも情報を見事に作り出す。ただし、ときに作りすぎて勘違いがあったり、思い込みがあったりする。本人は嘘をついているつもりは毛頭ないのに錯覚することもある」p44
「大脳皮質は二次元に広がり、この上にニューロンがぎっしりと配置されている。ニューロンには多くの種類があり、皮質は6層に分かれている」p109
「脳は記憶そのものを蓄えるのではない。これを思い出すための仕掛けを蓄え、ヒントから復元すべき情報を作り出す。だからときには間違えるし、思い出せないことも起きる。思い違いだってある。その代わり、脳は柔軟である。間違ったヒントや曖昧なヒントからでも答えが出せる。多数のパターンを重ね合わせてしまうから、全体が茫洋としていてどの記憶事項がどこにあるのかわからない。しかし、並列のダイナミックスで働く分散した記憶が実現できるというわけである」p121
「海馬は短期の記憶を実現している」p121
「日本の学界がいまから世界の流行を追って、同じ土俵でgoogleなどと競うのでは、勝てるはずがない。予算の規模も何十倍も違うのである」p187
「(将棋の棋士対コンピュータ)2015年、プロ棋士に奇策がひらめいた。敵陣に突入した角が成らないという、前代未聞の一手である。角は成って損はなくて得するだけであるから、「角不成」という手は常識的にはあり得ない。でもルール違反ではない。コンピュータはこの「あり得ない手」に混乱した。かくてプロが勝利し、コンピュータはあえなく敗れた」p191