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日本の真の姿を求めて奥地を旅した英国女性の克明な記録。明治初期の日本を紹介した旅行記の名作、いよいよライブラリー版で登場!
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Posted by ブクログ
イザベラ・バード(1831-1904)。イギリス出身。子どもの頃から病弱で、転地療養を繰り返した。23歳の時に医者から航海を奨められ、アメリカとカナダへ。そしてその24年後、1878(明治11)年に日本にやって来た。日本人の若者を従者に、日光を経由し、日本海側を北上して、北海道へ。 本書『日本奥地紀...続きを読む行』はその紀行文。イギリスで出版、たちまちに売り切れ、1カ月で3版。なんといっても、語りがうまい。挿画もバード自身が描いている。スケッチの腕はプロはだし。 個人的には、会津を抜けて、阿賀野川を津川から新潟まで船でくだるあたりがいい。峠を馬で運ばれるのは苦行以外のなにものでもなかった。それが津川からは船でスイスイ。阿賀野川から見える峡谷を「廃墟のないライン川」と称え、しかもライン川以上と絶賛している。着岸した新潟は、堀が縦横にめぐる水の都だった。早足の旅のはずなのに、新潟には1週間逗留。うらぶれた街という最初の印象が、1週間いるうちにかなり良くなっている。新潟では、堀と街並みをスケッチしている。新潟の空の感じがよく出ている。 その後、バードは4回来日した。ほかに旅してまわったのは、朝鮮、中国、モンゴル、カシミール、インド、マレー半島、ペルシャ、トルコ、ハワイ、アメリカ、カナダ、アラスカ、オーストラリア、ニュージーランド、モロッコ、それぞれ旅行記を書いている。このどこが「病弱」なのか。ひょっとして、旅が「病みつき」というオチ?
イギリス人女性、イザベラ・バードは病弱であったため、健康回復のために医者から旅行を勧められ、オーストラリア、マレー半島、チベット、朝鮮など世界各地の「奥地」を旅した人である。 そして、日本に来たのは、明治11年4月。「この国の中でもっとも外国人に知られていない地方を探ろう」と思い、北国を旅行しよ...続きを読むうと決心した。 しかも、綺麗に整備された街道ではなく、山間の道なき道や、橋のない川など、日本人でもわざわざ選ばないような酷い道ばかり。 イギリスから持ってきた簡易ベッドやビニールの折り畳み式浴槽や食料などの大荷物を馬に乗せ、そして伊藤という18歳の少年を通訳兼助手として雇って大冒険をした。 文の形式はイギリスの妹や友人に宛てた手紙という形式。なので、良いことも悪いこともあまりにも率直に書かれている。 山村の農民は男性は殆ど何も着ておらず、女性も着物を腰まで下ろし、いつも子供をおぶっていて、子供までがもっと小さい子供をおぶっていて、ものすごく貧しく、不潔のために殆どの人が皮膚病で、宿として泊まった家で出された食事も黒い米やきゅうりばかりなどひもじいものだったらしい。 日本の畳がどれだけ素晴らしいかを褒め称えているのだが、「残念なことに蚤だらけ」だったそうだ。 そこらじゅう蚤だらけで、その上、その頃の農村の人々には「換気」の概念がなく、家を締め切っているので、煙と湿気でカビだらけで下水の匂いが臭かったらしい。 しかし、どんなに貧しくても「乞食はいなかった」と書かれているとおり、人に施しを受けて生活する人はおらず、皆、勤勉に働く国民性であることも率直に書いている。 そして、イザベラが休んだ茶屋で食事もお茶も食しなかった時には「宿の女主人は決して代金を受け取らなかった。何故なら私が水しか飲まなかったからだという。」と書かれていることから、貧しくても誇り高い国民性だったのだと分かる。 そしてまた、世界各地を回ってきたイザベラから見ても「こんなに子供を可愛がる人たちを見たことがない」というほど、子供を大事にする国民性でもあったのだ。 また、外国人を見たことがない人ばかりで、イザベラの噂を聞きつけて人だかりが出来たことや宿で隣の部屋とを仕切る障子の穴から「無数の細い目が覗いていた」というプライバシーなどない宿泊生活であったらしい。 イザベラは横浜から東京、栃木、福島を通り、山間部を通って新潟に抜け、それから山形、秋田、青森と進んで、北海道に渡り、北海道ではアイヌ人たちを訪ねた。 日本人の生活や国民性だけでなく、景色の描写も素晴らしい。日光や会津や新潟の旧市街など「土足で歩くのが申し訳ないほど」掃き清められた道というのもすごいが、馬がつまづき、馬から何回も落とされてしまうような酷い山間部の旅でも、ふとした時に見た山の色などが見たこともないくらい素晴らしかった様子も書かれている。 アイヌ人との交流では、イザベラは何日間かアイヌ人と過ごしたにも関わらず、「彼らは未開人であり下等である」と書いているのだが、「誠実で親切という点では我々キリスト教の洗礼を受けたイギリスよりもずっと高度だ」と感心している。アイヌ人はお客様のことは手厚くもてなすのを慣習としており、お客様が帰る時には必ず、黍団子を作って振る舞うらしく、イザベラが帰る時にも出されたのだが「汚い手で丸め、洗っていない鍋で煮られた」団子に手を付けられず、アイヌ人を困らせたということだ。 イザベラから見てアイヌ人は非常に美しく、笑顔は魅惑的で、アジア人というよりヨーロッパ人に近かったらしい。欠点は殆ど手を洗う習慣が無く、不潔であること。皆大酒飲み(お酒を飲むことは神が喜ぶことだと思っている)なので働いても貯えが出来ないこと。そもそも時の流れの概念がなく、刹那的に生きているので、今の働きや稼ぎを未来に繋げようという意識がないことなど。 アイヌ人のことを下等な人種のようにもイザベラは書いているのだが、「下等」ではなく、「お人好し」だったのだと私は思う。イザベラがアイヌ人達に「闘わないのか?」と尋ねたところ、「ずっと昔、我々の先祖は皆槍を持って戦っていたが、ヨシツネが現れ、武器を捨てるように言ってから、闘わない。」と答えたそうだ。実際、平取のアイヌ部落の中には源義経を祀った日本式の神社があり、何故かアイヌ人たちは自分たちの大切な神として拝んでいたらしい。先祖が松前藩から受け取った骨董品を代々、大切に受け継ぐなど、日本人に対して敵対心を表すよりも「なんとかうまく折り合いを付けていこう」というアイヌ人らしさが現れている。こういう民族性は小説「熱源」にも書かれていた。 アイヌ人の習慣である入れ墨は「無くてはならないもの」だったが、「最近日本政府が入れ墨を禁止したから心配している」とイザベラに打ち明けたり、少量の毒を矢に塗って狩猟する彼らの方法も日本の法律の中では禁じられていることなど、少しずつアイヌ人が生きづらくなっていく様子がタイムリーに報告されている。「我々の生活のことをどうか日本政府には報告しないでほしい」と懇願する様子も書かれている。 イザベラは「アイヌ人は頑強なのでそう簡単に滅びないだろう」と書いているが、およそ150年後の現在は果たしてどれだけ子孫がいるのだろう。 イザベラの通訳兼助手の伊藤のように「アイヌ人は犬の子孫だ」と信じて差別し、その生活に興味を示さなかった日本人が多かった中、言葉を記録し、生活習慣を文字と絵で記録し、家の構造も記録し、人間性についても率直に書いてきたイザベラの仕事はノーベル賞級だと思う。 北海道の景色の描写なども素晴らしいが、道中に利用した北海道の馬が、みな鞭で打たれまくり、酷い扱いを受けているので使い物のならないほど痛んでいたというのも意外なことだった。 日本人の生活については私達が歴史の教育の中で教えられず、ショックなほど酷い生活状態が記録されていた。アイヌ人については「日本人が見向きもしなかった」細かな記録が残されていた。 どちらも「敢えて後世に伝えられなかった」面と「そもそも同時代の政府から興味を持たれていなかったため、公式な記録に残らなかった」面があるのだろうと思う。 今まで、「文明開花」「富国強兵」というような言葉や歴史上の有名人物や建築物や戦争などでしか埋まらなかった、頭の中の「明治」というジグゾーパズルのピースが少しずつ少しずつ埋まってきた気がする。 シーボルトやヘボン博士とも交流のあったイザベラ・バード。そんな時代、前人未踏の日本発見の旅を記録したこの本。全日本国民の必読書だと思う。
現代から見れば、日本人やアイヌ人にたいする差別とも取れるような表現が多くあるが、そのつもりで書いてないことは明白。 当時の東北地方、北海道の民衆について、見たまま感じたままを率直に書いている貴重な文献だと思う。
旅行記の嚆矢。情景がありありと想い浮かぶような、瑞々しい記述に驚く。明治初期の日本の地方の情景が、あまりにもよくわかる。また、アイヌに関する記述も、非常に素晴らしい。日本国内には、ここまで適切な記述があるのだろうか。外国人故によくわかったということなのだろうか。また、いくつもの山越えをし、苛酷であっ...続きを読むたろう道のりにも驚愕する。
来日した英国人女性が明治11年に日本の東北・北海道を旅した記録を記したもの。当時の景色や生活の様子を客観的に述べており、とても興味深い。身体が弱いとは思えないほど、厳しい環境に果敢に挑み、それも女性でありながら3ヶ月に渡る旅を成功させている。また、記述が素晴らしく、当時の状況がありありと浮かび上がる...続きを読む表現力は、極めて高いといえる。貴重な歴史史料である。 「私は奥地や北海道を1200マイルにわたって旅をしたが、まったく安全で、しかも心配もなかった。世界中で日本ほど、婦人が危険にも不作法な目にもあわず、まったく安全に旅行できる国はないと私は信じている」p80 「政府は、イギリスから装甲軍艦を買ったり、西洋の高価なぜいたく品に夢中になって国を疲弊させるよりも、国内の品物輸送のために役立つ道路を作るというような実利のある支出をすることによって国を富ました方が、ずっと良いことだろう」p172 「山腹を削って作った沼のわずかな田畑も、日当たりのよい広々とした米澤平野と同じように、すばらしくきれいに整頓してあり、全くよく耕作されており、風土に適した作物を豊富に算出する。これはどこでも同じである。草ぼうぼうの「なまけ者の畑」は、日本には存在しない」p219 「アイヌ人は邪気のない民族である。進歩の天性はなく、あの多くの被征服民族が消えていったと同じ運命の墓場に沈もうとしている」p370 「アイヌ人は日本人ほどそう簡単には酔っぱらわない。なるほど彼らは酒を冷たいままで飲んだが、日本人なら酔ってたわいもなくなるほどの量の三倍も飲んでも、彼らは少しも酔わなかった」p384 「どの家でもお客に対しては、同じような敬意が払われる。これは未開人の美徳で、文明の大きな波が来たら、それを乗り切るだけの力はないように思われる」p389 「開拓使庁が彼ら(アイヌ人)に好意を持っており、アイヌ人を被征服民族としての圧迫的な束縛から解放し、さらに彼らを人道的に正当に取り扱っていることは、例えばアメリカ政府が北米インデアンを取り扱っているよりもはるかに勝ると私は心から思っている」p398
イギリス人のバードが日本旅行をした明治11年って、大久保利通が暗殺された年。当時バードは47歳で、旅行の理由は「健康になりたい。ついでに見聞を広めたい」。この人、日本に来る以前にも、医者に外国旅行を勧められて、アメリカに行ったりしてるんだよね。そんな理由で、通訳とほぼ二人だけで、外国人がほとんど踏破...続きを読むしていない未開の地に行くって、すさまじいな。 江戸の描写は、当時の有名外国人であるヘボン先生やハリー・パークス、アーネスト・サトーが出てきて、面白い。山田風太郎の明治ものを思い出すが、こっちはフィクションじゃない。 浅草寺のにぎわいが、実に生き生きと描かれているのが、いい感じ。全体的に、観察眼と文才、肝の据わり方がすごい。建築物に関する描写を読むと、教養も深そうなんだよな。どういう育ち方をしたんだろうか。 人力車の車夫の仕事は心臓に負担が大きく、仕事についてからの平均寿命が約5年って話はどこまで本当なんだろう。たしかに、当時の東京は、もっと坂が多かったし、重労働だっただろうからなあ……。 しかし、自分の明治感が、学生時代に読んだ山田風太郎の明治物にとても影響を受けている事をしみじみ感じた。物語からうっかり受けとってしまった歴史感って、染み付いてなかなか自分で相対化するのが難しいな。
久方ぶりの再読。明治の農村の貧しさと悲惨さ(眼病・蚤・皮膚病・等々)と同時に、明治の人々と風景の美しさを、旅人の視点から明確に映し出した貴重な旅行記。 最後に通訳の伊藤が旅が終わるのを残念がるところが又何とも言えぬ味わい。 朝鮮紀行も読まんとなー。
2016/10/5に読み始め、イザベラと共に旅ができた。横浜を起点として東北から蝦夷(北海道)への旅行は、当時の交通手段、装備品を思うと47歳の著者には過酷に過ぎるものと推察される。しかし冒険家の血とでも言うのか、彼女は江戸時代の習俗が残る東北・北海道の旅を全うする。妹に当てた手紙は、日本語訳では当...続きを読む時の地理、習俗等を淡々と書き綴る文体で、学術的な報告書よりも伝播力がすごい。辺境作家・高野秀行や宮田珠己と重ね合わせている自分がいた。
明治時代に、イザベラバードが、横浜から北海道までを旅行した際の旅行記。貧しいだけの日本と、貧しくも神秘的なアイヌ、そういった感覚で著されている。便利になる前の日本の旅行とはどんなものだったのか理解できる。
イギリス人による明治時代の日本旅行記である。 なぜイギリス人女性が開国直後の日本を、それも外国人がほとんど立ち入った事がない奥地を選んだのだろうか。梅雨時の悪路や決して衛生的ではない宿に悩まされ、さらに人々の好奇心の目に晒されながら、旅を続けるモチベーションは何だったのだろうか。 本書はもともと彼...続きを読む女の妹に宛てた手紙を集めたものらしいが、非常に細かく当時の様子が描写されており、資料的な価値もとても高いと思われる。作品の中に自分の住んでいる地域が出てくるのは嬉しいものだが、それが100年以上も前の話となると特別に感慨深い。 いかにも日本の原風景という感じの小さな子供たちの礼儀正しさ、そしてアイヌの人々の彼女に対する優しさがとても印象に残った。しかし彼女がもっとも心を奪われた美しく豊かな自然が、今では開発によってほとんど見る事が出来ないと思うと非常に残念である。
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