ハーバードでロジャー・フィッシャー教授が創設した「交渉学」を学んだ筆者が、慶応に戻って研究実績を積み上げてきた集大成。数量を提示したことでその数字を上げ下げが交渉ポイントに矮小化されるアンカー効果、複雑な論点を理論的に解きほぐすための暴力装置デビル・アドボケイト、合意できない場合の代替案BATNA(Better Alternative to Not Agreed)など、弁論部マニュアルといってもよいほどわかりやすくまとめられているが、心理学的なアプローチを期待したかったところ。その意味では、人と論点を分離するため、交渉ではあえてホワイトボードを使ってお互い論点を注視し、相手と相対しないというポイントは秀逸だと思う。交渉上起こるトラブルは、交渉を進める全体像からみれば回避してはいけないポイントであり、リスクマネジメントがリスクの解消を第一義とするのに対して、トラブルは必ず解決しなければならない人と人の対立であり、①ポジティブフレーミングを用いて円滑な意思疎通を図る、②解決を急がない、③論理性をもつはずだといった暗黙の条件に頼らず相手に期待しない、④逃げ道を用意しておく という4原則があると説く。言われてみればその通りであるが、このことにより、トラブルは「交渉上のリスクではない」という結論が導かれるが、トラブルは「リスク解決上のリスク」というメタ概念か?。