秀吉家臣団の内幕 天下人をめぐる群像劇

滝沢弘康

信長の跡を継ぎ天下統一を成し遂げた豊臣秀吉。その天下人への歩みをたどりながら、秀吉と彼を取り巻く群像のドラマを描き出す。「二兵衛」こと竹中半兵衛と黒田官兵衛、子飼衆の石田三成や加藤清正、家臣団を差配した弟・秀長、そして知られざる「羽柴四天王」などが織り成した、秀吉の生涯を論じぬく一冊。家臣団の構造や変遷は、現代の組織論に通じるところもあるだろう。

• カテゴリ: ビジネス・実用
• ジャンル: 学術・語学 / 教育
• 出版社: SBクリエイティブ
• 掲載誌・レーベル: SB新書
• ページ数: 288ページ
• 電子版発売日: 2013年11月22日
• コンテンツ形式: EPUB
• サイズ(目安): 3MB

[ブクログ · ★★★★☆]

ちょっと前に『関ケ原合戦は「作り話」だったのか』を読んだのだが、それぞれの武将たちはなぜ西軍に/東軍に属したのか、そこが不思議だった。
その流れで読んだ本。

秀吉の家臣の変遷を語ることで、秀吉をたどるというのも面白い視点だと思う。
自分が持っている知識と重なる部分がかなりあることもあって、読んでいてとっても納得出来る。
ただ、(素人が)面白いということは、『関ケ原合戦は「作り話」だったのか』の著者なんかに言わせたら、俗説の類がかなり含まれているということなのだろう。
とはいえ、著者が資料第一主義の学者でないからこその、石田三成を「秀吉原理主義」と定義づけちゃう独特の解釈はわかりやすくていいと思う。
この手の新書は専門の学者はまず読まないわけだ。読むのはたんなる歴史好きのはずだ。
であるなら、こういう見解もある、ああいう見解もあると、様々な学者毎の見解を最初に紹介するよりは。
その本を書いた著者としての見解をバンと述べて、読者に橋頭保みたいなものを与えてくれるた方がありがたいように思う。

もちろん、議論されている様々な諸説を楽しみたい、たんなる歴史好きじゃない人もいるんだろうとは思う。
でも、たぶんそういう人はこのテーマについて他の本も読むだろうから、それでいいんじゃないのかなーって思うのだw
でも、自分はこの本を読んで、家康はどの時点で天下獲りを決断して、どの時点で豊臣家を滅ぼすことを決心したのだろう？という方に興味が移ってしまったという程度の歴史好きなのでw
秀吉の家臣団(というか、家臣と秀吉に従うことを選んだ各地の武将たち)の件はこれである程度納得出来た。
三成がなぜそこまで「秀吉原理主義者」なっていったのか？という好奇心はあるが、そこは秀吉が自分の活躍の場を与えてくれたことの感激(その職務が出来る生きがいを与えてくれたことへの恩義)によってそうなったという「想像」でいいのかなーと。

「想像」といえば、なぜ武将たちは西軍に/東軍に属したのかのだが、著者が書いているように、秀吉の晩年に三成に権力が集中したがゆえに、豊臣家の家臣と各地の武将たちは三成とその人の関係(好嫌・利害)で、必然的に三成派と反三成派に別れてしまった。その反三成派の人たちを家康が自分側に引き込んでいくことで東軍/西軍が形作られていったというのは、もちろんありつつ。
自分(の想像)としては、東軍に属した人たちというのは、そもそも心の中に暴君である秀吉に対する反発を持っていて。
秀吉が死んでしまえば、どこの馬の骨とも知れぬ豊臣家をいただくのではない新たな形(政権)を求めていた部分というのがあるんじゃないのかなーという気がしてしょうがない。

というか、いくら戦国武将とはいえ、信長や秀吉とくらべたら全然まともな人たちだったと思うのだ。
戦国時代を終わらせるには信長や秀吉のような天才バカが必要だけど、ある程度平和が訪れてしまえば、凡人たるまっとうな人たちからするとそういう天才バカは目ざわりだし。
何より、凡人たるまっとうな人たちの秩序を乱す元になる。
それは、明治維新を見ても同じなわけで、つまり、天才バカ(の遺産である豊臣政権)から世の中を取り戻すために、まっとうな人たち(凡人たち)がしなければならなかった戦が「関ケ原」であり「大阪の陣」だった、とw

しかし、そう考えると、今の日本に天才バカは必要なのか？それとも、そこまでは酷くないのか？
そういえば、著者は「おわりに」として、“近年、豊臣秀吉は人気がない”と書いているが。
その“近年”が具体的にどのくらいなのかはわからないが、70年代くらいまでは三英傑(という言葉も最近とんと聞かないがw)の中では秀吉が一番人気があって。信長は好きな人は好き(自分も子供の頃は信長が一番好きだった)だけど、世間的には残虐というネガティブなイメージが強く。
家康は、一番人気のある秀吉の豊臣家を滅ぼした「狸親父」と、三英傑の中では極端に人気がなかったように思う。
現に、子供の頃に名古屋城で買った、名古屋城の小冊子の中にあった３人の肖像画は真ん中の秀吉が微妙に横幅が広く、反対に家康は微妙に狭かったくらいだ(定規で測ったw)。
その後、豊臣秀吉の人気が下降しだしたのは、自分の感覚ではなんとなく80年代くらいからのように思う。
80年代の初め頃の大河ドラマ「おんな太閤記」で狸親父が定番だった家康が主人公のねねをなにかと気遣う、主人公に感情移入する傾向のある視聴者から見て好ましい人物と設定されてたことで、家康の人気が出てきて。
その後、大河ドラマで「徳川家康」をやると決まったと、子供の頃に新聞か何かで読んだ記憶がある(ウィキペディアにはそうは書かれていないがw)。
また、70年代の終わり頃、大河ドラマの「黄金の日々」で秀吉は後半やたらブラックに描かれていたので、やっぱりあの辺りに人気/不人気の境があったように感じる。
大河ドラマといえば、忠臣蔵ネタが80年代の初めに「峠の群像」としてやって以来、その後一切ないのだから、やっぱりあの頃(70年代後半～80年代)に日本人の価値観に変化があって。その価値観に基づいて、秀吉＝立身出世というドラマネタの人気が下がっていって。
むしろ、秀吉にはエロジジイというネガティブなイメージが付きまとうようになっていったんじゃないだろうか。
さらには、近年は「猿」で「はげねずみ」の秀吉はゲームのキャラとしては“映え”ないし(かどうかは知らないw)。
また、政治家としてよりは戦においての能力でキャラの人気が決まる傾向もあって、調略や資金力に物を言わせる秀吉の戦い方はどちらかといえば不人気ってことなんじゃないのかなーw

今の日本に信長や秀吉といった天才バカが必要なのかはわからない。
ただ、こんな低成長で、猫も杓子もきれいごとを言っているこういう時代だからこそ、かつての大河ドラマで描かれていた、信長の乗る馬の後を夢中で駆けずり回っていたギラギラした秀吉を懐かしく思う。

[ブクログ · ★★★★☆]

「軍師官兵衛」などで描かれている、官兵衛＝正義／三成＝悪のレッテルから離れて、家臣団の成立から崩壊そしてその理由を冷静に分析した内容。
この中で、三成が取次して征伐を免れたことが紹介されているのが津軽藩祖・為信公で、その恩義に報いながらも関ヶ原では東軍に立つという判断が、いかにも戦国武将の典型らしいのがわかるのが、津軽衆にとっての読みどころです。