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千変万化する妖怪、そのイメージを作り出したのは、不安により膨れ上がる都市住民の想像力であったーー。大通りを闊歩する百鬼夜行、学校の暗闇に潜む女子生徒の幽霊、銀幕を跋扈する大怪獣。人が集まる場所にこそ妖怪あり! 民間伝承から都市伝説まで、江戸から魔都東京まで。時間も空間も乗り越える、遊び心あふれる宮田式妖怪地図を手に、都市怪異譚をたどる旅に出よう。小松和彦による解説「宮田登の妖怪論」収録。
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Posted by ブクログ 2024年04月05日
・私は宮田登といふ民俗学者をほとんど知らない。「ミロク信仰の研究」といふ著者があるのは知つてゐたが、読んだことはない。これから分かるやうに、この人は民間信仰あたりを中心にやつてきた人であるらしい。小松和彦の「解説 宮田登の妖怪論」によれば、妖怪ブームに関して「民俗学という学問的立場から、こうしたブー...続きを読むムに応えるかたちで、メディアを通じて妖怪関係の情報を提供したのは、ブームの当初では宮田登とわたしのたった二人であった。」(298頁)さうだから、妖怪学の先駆けといふことになる。小松和彦が妖怪に関していろいろと書いてゐたことは知つてゐた。ところが、この人の「妖怪研究は『妖怪の民俗学』(岩波新書、ちくま学芸文庫)と本書のわずか二冊であって云々」(小松和彦「文庫版解説」330頁)とあるやうに、あまり多くないのである。その本書、宮田登「新版 都市空間の怪異」(角川文庫)はその意味で貴重な一冊である。しかも「都市空間の怪異」である。小松和彦は都市といふことには限定されるやうな研究ではなかつたと思ふのだが、この人のこの著作は確かに都市空間と言へるものである。その意味でもおもしろさうである。小松の解説にも、「出版社側は、著者の意図を汲みつつ書名を考えていったとき、『都市』と『怪異』を結びつけたところに、著者の研究の新鮮さが浮かびあがってくるのではなかろうか、と判断した」(304頁)とある。書名が作つて売る側も認めた「新鮮さ」であつた。 ・「明治三十年以後、百鬼夜行は姿をみせなくなった。暗闇がしだいになくなった生活環境だからといえば当然であるが、しかし近年不思議な現象が語られるようになった。例の『学校の怪談』である。」(46頁)といふ文章は小松も引用してゐる。谷崎潤 一郎の「陰翳礼賛」を思はせる一文である。闇がなくなつたことに、宮田は妖怪の不在を感じ取る。そして新たな怪談である。これは必ずしも暗いところではない。トイレの花子さんは真つ暗なトイレにゐるわけではない。「都市のコンクリート造りの巨大な校舎の一隅に設けられた清潔感あるトイレは、木造校舎の悪臭ただよう肥溜めの便所と大いにちがう。不思議なことにご不浄のイメージのある便所よりも、浄化装置の十分な清潔なトイレに血だらけの場面が顕わになっている。」(190頁)かういふのを宮 田は、「面白いのは、主にインフォーマントが小学生に絞られていることだ」(189頁)、「次々と噂は伝播し、かつ類型性を帯びて半ば真実と信じられていく」(同前)、「同齢感覚に支えられた級友仲間に語り出されているのも特徴」(同前)であるな どと説明してゐる。つまり宮田にとつてこの種の怪談は、「級友仲間に語り出されている」うちに「半ば真実と信じられていく」ものであつた。当然ことながら極めて合理的な態度である。これが井上円了評価につながるのであらう。「井上にとって『妖怪』は撲滅すべき『迷信』と同義であつた。そして多くの『妖怪』(=迷信)を撲滅するために、『妖怪』の科学的・合理的説明に精力を注いだ」(小松解説311頁)のだが、「宮田登はこうした井上の妖怪退治に対して、肯定も否定もしない。近代化とはそういうものだと了解していたのであ」(同312頁)るらしい。しかし、先の文章からすれば、宮田が「『妖怪』の科学的・合理的説明に精力を注い」でゐるのは明らかであらう。学問として妖怪をやつてゐる人ならば当然の態度である。宮田がかういふことをやつてゐた民俗学者であることを私は知らなかつた。妖怪といふもの、実在するかどうか分からない。おもしろいけれどというの が正直な感想であつた。
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