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文学史&エンタメ史の未確認混沌時代(ミッシング・ピース)!
「東海道中膝栗毛」の弥次喜多が宇宙を旅行する、「舞姫」の主人公がボコボコにされる、身長・肩幅・奥行きが同じ「豆腐豪傑」が秀吉を怒らせる――明治・大正時代、夏目漱石や森鴎外を人気で圧倒し、大衆に熱烈に支持された小説世界が存在した。
本書では、現代では忘れられた〈明治娯楽物語〉の規格外の魅力と、現代エンタメに与えた影響、そして、ウソを嫌い、リアルを愛する明治人が、一度は捨てたフィクションをフィクションとして楽しむ術(すべ)をどのようにして取り戻したのか、その一部始終を明らかにする。
朝日新聞とスタジオジブリも注目する、インターネット出身の在野研究者が贈る、ネオ・文学案内。
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Posted by ブクログ
再読。
江戸時代から明治にかけての日本文学の進歩。5年前に読んで、様々な本を読んできたことで、新たな視点が芽生えました。
【文学は成長する】
時代や世相、社会模様が影響することはもとより、あえてまとまりのない文章にするようなことは、独白や特異な主観性を表すときでないと、現代文学においては文章を長くすることはしない。一方で過去の文学は読点までが長く、句点は改行で区切られるなどする。一見すると非常に場面転換が分かりにくい文章構造となっているが、実は10年前くらいのミステリや純文学などでは、句読点をあえて挟まない技法はけっこう頻出していた。
ここ数年の文体は目まぐるしく変わってきており、場面転換も非常に早くて分かりやすい。
しかし、これはいいように見えて、デメリットもある。それは、登場人物の思考について読者側に考えるタスクを与えなくなるのだ。つまり「一本道」の文章構造。それでいて結末を発散させることもあるため、読者それぞれで感想がズレることがある。これはいいことのように思えるかもしれない。ただ、この状態は書き手の見越した内容から逸脱した感想さえ正しくなるものであるため、文学を嗜むことで培われるはずの『一意性』が喪失することになる。端的に言えば、わざわざ読まなくていい、作らなくていい文章に成り下がってしまうということだ。
一方で名作と呼ばれる作品群は、誰が読んでも感想の一意性が失われない。羅生門を読んで「下人が幸せになればいいなと思った」と思う人はいないし、蜘蛛の糸を読んで「かんだたは寂しかったんだ」などと言う人もいない。前者は戒めを、後者は虚無感を誘う物語だと読めば誰でも分かるようになっているからだ。これは決して作者が手綱を引いているわけではなく、我々読者の自由意志で読んで、様々な感じ方を得たとしても、作品への思い方が共有できるようになっているのだ。
この作品ではそう言った文学への嗜み方や、楽しみ方についても、面白い視点で書かれているので、読者をさらに深いところで楽しみたい人に、オススメしたい。
Posted by ブクログ
明治時代の大衆むけ本の、おおおまかなジャンル分け、中でも
・明治時代を中心に、江戸から引き継がれてきた豪傑譚が……
・講談を軸にいかにして明治人の「合理性」を、駆け足で身に着けようとしている時代精神に合わせてきたか……
・大人むけから子供向けへの変遷が、昭和へと引き継がれた可能性の指摘……
など、興味深い内容でした。
ていうか当時から、トヨの野郎ムカつくわーぶん殴ったれって気風はあったのね。(でなきゃ、本書タイトルにあるような内容の本が、大衆向けに執筆されるわけがない)
本書を読みながら、マンガ『ゴールデンカムイ』、実はこの明治時代の犯罪実録ものや講談速記本の世界を再現しようと試みているのでは?とさえ思えてきて、明治時代を舞台にした他の作品を読むのが楽しみになりました。文句なしの星5つです。
Posted by ブクログ
『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』 これまでに読んだ中で、間違いなくいちばん長いタイトルを持った本は、明治時代の娯楽小説を徹底的に紹介する痛快な一冊。いやいや、これは楽しい。底抜けに楽しい。
このタイトル通り、森鴎外「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする小説が本当に存在したほか、鞍馬天狗が登場した大正13年の10年以上前に現れた覆面ヒーローの名が悪人退治之助(あくにんたいじのすけ)だったり、無敵のヒーローが死後仙人として登場したり、身長と肩幅の寸法が同じで馬鹿力を持ったヒーローが躍動したり、破茶滅茶度合いが半端ない。こんな小説を支持した明治人のセンスに敬意を表したい。
と言いつつも、本書の筆致は至極冷静で、相当な調査のうえ書かれたことがよく分かる。明治の庶民文化を伝える歴史書としても秀逸な出来になっているのがすごい。
この著者の名前は覚えておいた方がよさそうだ。
Posted by ブクログ
【生まれた時から市兵衛は横に広かった。父親・市左衛門のコメントは<オヤッ、妙な子が出来た、此奴四角張っている>であった】(文中より引用)
文豪たちの名作の陰に埋もれてしまい、今日に到るまで日の目を浴びることが(ほぼ)なかった明治娯楽小説。思わず笑ってしまう奇抜な展開や設定を追いかけながらも、そういった物語の数々が今日のエンタメにつながる要素を内包していた点を指摘した作品です。著者は、古本屋を巡りながらどうでもいい書籍を読み続けてきたと語る山下泰平。
電車の中で気軽にページをめくってはいけないほどに笑えて笑えて仕方ない作品。それでいて笑っているうちに、小説とは何か、物語とは何かといった大きなテーマにも近接していく稀有な一冊かと。
引用したい箇所がたくさんありすぎて困る☆5つ
Posted by ブクログ
日本文学史からは取り残された「明治娯楽物語」というジャンルを紹介した本。
明治以降の近代文学というと、どうかすると苦悩して自殺するイメージがあって、当時の人はこんなのばかり読まんでいたのかと不思議に思っていたけど、やっぱり面白い話も読みたいわな、とひと安心。
とはいえ、作り手たちは金がなく、本を売るために面白さを追求するあまり、整合性は二の次三の次、どれもこれも破天荒なものばかり。
いやもう情報量多すぎ(笑)。
概要は以下のとおり。
西洋の写実的技法から、芸術は本当らしく実用的に、という明治の芸術観が生まれ、純文学はシリアスな方向に向かった。だからとかく苦悩、深刻、理想という要素が出てくる。
「明治娯楽物語」(著者命名)は、明治二十年代後半から四十年代に隆盛を誇った、江戸と昭和のエンタメ文学を結ぶミッシングリンク的なジャンル。大きく「講談速記本」「最初期娯楽小説」「犯罪実録」に分けられる。
講談速記本は武士や侍が主人公のものがほとんど、最初期娯楽小説は近代人の主人公を模索、犯罪実録は推理小説の前段階。リアル主義から「科学的」であることが求められたが、オカルトブームや実写映画での可視化がきっかけに超能力も受け入れられ、子供を対象にしていくことに。
「大衆文学登場以前の粗野で乱雑な明治娯楽物語は、現在の感覚では小説とは言い難いものも多い。幼稚でどうしようもないものに見えてしまう。まさしく工業製品に対する手作りの粘土細工なのだが、そんな小説未満の物語にはなんとも表現しようのない不思議な魅力がある。」(p.44)
市兵「ハハハハハ面白いなァ、仕返しとは面白いな、私は門を開けてやる、そこでこいつのように殴り殺してやるンだ、ネェ、母親さん。面白いだろう」
(玉田玉秀斎・講談『[怪勇]桂市兵衛』)
市兵「己は腹が減ったから飯をくわしてくれ」としらぬ人の家に飛び込んでせがみます。否だというと、市兵「否ならいいわ、お前の家にひをつけて焼殺してやるから左様思えッ」
(同上)
Posted by ブクログ
明治維新後の庶民文化の一端を追体験する本書。
まだ小説というジャンルはなく、江戸時代から続く戯作から、純文学が枝分かれした。
しかし純文学は庶民に受け入れられなかった。
つまらないのである。
そして庶民文化として受け入れられたのが「明治娯楽物語」の一群だった。
大きくジャンルを三つに分けると、
1.講談速記本:講談師が話す内容を速記したもの
2.最初期娯楽小説:新しもの好きの作家が書いた小説風読み物
3.犯罪実録:実際に起きた犯罪やその犯人を扱った読み物
内容はカオスである。
とにかく面白ければよいという、最大瞬間風速だけの勢いが強く、物語の構造は全く小説のそれではない。
しかし、明治庶民に受け入れられたのだ。
一人で数十、数百、数千を相手にして皆殺しの豪傑や、
とりあえず殺し合いして友情を深める豪傑や、
そこらへんの家を引っこ抜いて凶器にして撲殺する豪傑や、
ゲンコツで敵の頭蓋骨を砕いて殺す豪傑とか、
とにかくそんなハナシである。
深く考えてはいけない。
面白ければよいのだ。
但し、嘘や合理的なものは嫌う明治庶民。
めんどくせぇ。
あくまで実話なのであり、リアリティは重要なのだ。
週刊実話並み。
タイトルの舞姫の主人公をボコボコにするのは、星塔小史「蛮カラ奇旅行」である。
主人公、島村隼人はハイカラを撲滅すべく、ならば西洋人を殴りに行くのが手っ取り早いと海外に旅に出る。
邪魔するものは殺す。
ハイカラ殺すべし。
道中、西洋人女性に刺殺されそうになり、彼女曰く日本人留学生と婚約したが、その男に捨てられ、日本人を見ると殺意が湧くようになったと。
どう見てもエリスです。本当にありがとうございました。
そのあとアフリカ人と親しくなり、日本に帰ったら例の日本人留学生と偶然会ったからボコボコにしたり。
そんなハナシばかり。
百年以上前の日本、今では顧みられることのない時代のあだ花。
確かに流行していた明治娯楽物語の世界を紹介する。
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