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あの夜、ミミはどこからはいりこんできたんだろう――。 パンパン狩りから逃げてきた耳の不自由な女性との純愛「ミミのこと」。 戦災孤児を集めて暮らす「浪曲師朝日丸の話」。 上記の直木賞受賞作に候補作「自動巻時計の一日」を併せて収める。 戦後の混乱期を生きる人々を、鋭くも温かい筆致で描いた全三篇を一冊にした初の作品集。〈解説〉滝口悠生
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Posted by ブクログ
独特の小説を執筆する著者の田中小実昌氏は、1979年に『ミミのこと』と『浪曲師朝日丸の話』の2作で直木賞を受賞する。 この2作は、1979年に発行された『香具師の旅』に収められた作品なのだが、実は雑誌に発表したのは1971年のことで、遡っての受賞は珍しいとのことだ。 今回の『ミミのこと』には受賞作の...続きを読む短編が2作、中編が1作が収められている。 ⚫︎ミミのこと(短編・直木賞受賞作) ぼくが一人で場末の狭い酒場で飲んでいる時、店に女が駆け込んできて、ぼくの後ろを通る時に乳房の先で背中を押してカウンターの奥に座った。 ぼくは彼女を見て、あのミミだとわかった。 ⚫︎浪曲師朝日丸の話(短編・直木賞受賞作) 昭和19年、ぼくは山口の連隊に入営した。 大陸では辛い兵役を経験するのだが、虚弱な体質のためか、マラリアから始まってコレラになり酷い下痢が続き、栄養失調が重なって死線を彷徨う羽目になる。 入隊からずっと一緒だったのが浪曲師の朝日丸で、常に私に優しく接してくれ、隠れて肉饅頭などを差し出してくれたりもした。 終戦を迎え、命からがら日本に帰還した二人は、支離滅裂のような生き方をする。 ⚫︎自動巻時計の一日(中編) おれ(この編から「ぼく」から「おれ」になる)自身、何かはっきりさせたいものがあるのか無いのか分からないが、朝起きた時からのこと、バカみたいに、ならべていってみよう。 もしまちがって、なぜ、こんなことを書く気になったかわかれば、ヨロクみたいなもんだ。 以上の文章からこの中編は始まり、駐留軍の化学分析施設で働いている「おれ」の日々を綴った中編となっている。
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田中小実昌
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