羊式型人間模擬機

羊式型人間模擬機

小説・文芸
1,760円 (税込)

8pt

男性が死の間際に「御羊」に変身する一族に仕える「わたくし」はその肉を捌き血族に食べさせることを生業とするアンドロイド。ついに大旦那が御羊になったある日、「わたくし」は儀式の準備を進めるが、一族の者たちは「御羊」に対して複雑な思いを抱いていた
第12回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作

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羊式型人間模擬機 のユーザーレビュー

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

    独特の設定と語り口で紡がれる、とある一族の生き様。「わたくし」がその一人一人を愛しているのが伝わってきて良かった。ふわふわと温かな雰囲気だった。

    0
    2026年05月26日

    Posted by ブクログ

     これはやさしい本当の物語。─これはやさしい偽りの記録。
    ──
     アンドロイドは電気羊の夢を見るかを想起させる要素が散りばめられながらも、その実、対極な作品であった。どちらかというと、日本のSF(少し不思議)の要素を色濃く受け継いだ作品である。そもそも本作に登場するサイエンスフィクションとしての要素は希薄である。科学技術が発達したことによる虚構は「you」のみであり、それ以外はファンタジーとしての虚構となる。つまり、物語の構造としてもアンドロイドは電機羊の夢を見るかとは全くの対極という立ち位置となる。
     また、感じさせるテーマも別物であろう。「アンドロイドは電機羊の夢をみるか」は機械生命体であるアンドロイドが人間と同じ価値観、魂、意志を持てるのか問題定義を行う。その中で、相互理解という壁にぶつかることで理解し合うこと、共生の無意味さを思わせる作品である。対して本作は、機械生命体である「you」が人間になり得るものとして物語が展開される。そして、当然のように人間と共生し、共生するが故に生物としての違いに苦しむのである。前提が違う上で、追い求める過程も異なるのであるから対極な作品といえよう。

     さて、本作は「フェイク」である。
    (なにを当たり前なこと言っとるんじゃこいつは)と思われるだろうが、重要なのは「フィクション」と形容していないところである。本作には「本来の自分」を他人に見せる登場人物はいない。全員が分厚いペルソナを被っているのである。そのような状況で、「you」だけは全員の心の内を知っている。正確には、「you」だけにはペルソナを被った状態で接する必要がないと全員が思っている。嫌な言い方をすれば、「you」は機械であり、道具である。それを分かった上で共生してるものだから、他の「人間」には見せない「本来の自分」がまろびでてくる。だから「you」は一族の他者にしか見せない「ペルソナ」と、自分にしか見せられない「本来の自分」と二つを記録している。どちらも本物であり、偽物である。本来の自分であるときは、ペルソナの側面が偽物となり、ペルソナを被っているときは本来の自分が偽物となる。陰陽対極図的な関係を保つ。
     本作で重要なのは、一族の男が御羊になることではない。人間を看取るということである。一族の人間が死ぬ間際、御羊に姿を変え、一族でその肉を食べる。死んでから御羊に姿を変えるのではなく、死ぬ間際に姿を変えるということは、確実に死ぬ瞬間を看取るものが発生する。故に、本作の最大のフェイクは御羊に転身する事であり、ファクトが看取りである。
     羊を捌くのは「you」である。つまり、看取るのモノである。これは何を表すかというと、一族の男は「ペルソナ」と「本来の自分」の二つを視てきた「you」と最期を過ごすということである。家族でもなく、愛した人でもなく、「自分」の全てを知っている隣人と最期の時を過ごす。看取られる側からすれば、なんともやさしい終わりである。では、看取る側はどうなのか。それは貴方次第だろう。

    0
    2026年04月30日

    Posted by ブクログ

    まさに文体を楽しむ小説、とても面白かった。
    SF×純文学という感じで新鮮、両者のいいところをうまく合わせた感じ。物語の設定が明示的に説明されるわけでなく、文章で世界観を構築しているのが凄い。

    文章を読んでるだけで面白い稀有な一冊

    内容とは関係ないが、コンテストの講評が巻末に載ってるが、鶴の一声で大賞が決まったような雰囲気を感じてウームという気持ち。

    0
    2025年07月07日

    Posted by ブクログ

    近未来なのかは分からないけれど、SF枠を更に作りたくなくて、の分類。
    命が命を繋いでいく物語。
    そして命ではないものが繋いで生き続ける物語。
    うつくしいことばはうつろいゆくようで、
    すこしまろく、まどろっこしく、幼いような真摯さで、
    結晶のようにくるくると愛を躍らせていた『私』の言葉たち。
    夜を跨いでそれでも積もっていく愛情の蜜が、
    いつかあなたを壊してしまいますように。
    愛するひとたちと果てをみますように。
    とても好きな本になりました。
    ありがとう。

    0
    2025年04月21日

    Posted by ブクログ

    「何故そうなのか」についてはわからないのに「そうである」ということが静謐かつときにユーモアを感じさせる不思議な文体で綴られている。終わる命と終わらない命の対比、一族を縛る呪いと長い時の流れの中での連なりが繊細なレース編みのよう描かれた美しい物語。

    0
    2025年03月21日

    Posted by ブクログ

    語り手はアンドロイド。
    男子が死ぬ間際に御羊になるという一族を、何世代にも渡って見守ってきた。彼ら彼女らは屋敷の敷地内で一生を終える。そのうち男は死ぬ間際に御羊になり、御羊になってからアンドロイドによって捌かれ、一族の者たちに饗される。なぜそのような儀式が必要なのか、なぜ彼らは御羊になってしまうのか、そのような謎は謎のまま終わる。
    けれど、アンドロイドがそれらを明かさなくても全然気にならない。アンドロイドが、人間的な性質を求められながらも人間にはなれない彼女が、今まで彼女が仕えてきた一族の人々、今もなお仕えている一族の人々との思い出を振り返る。一癖も二癖もある皆のことを。
    その記憶はあたたかい。体温がある。思い返しているのは、記録のみを持つアンドロイドだというのに。
    アンドロイドの奏でる本作の文体は、心地よく、声に出して読み上げたくなる。
    アンドロイドは、一族の皆から、ユウとかゆうとかユゥーとかUとか、いろいろに呼ばれる。呼び名の数だけ、アンドロイドとの思い出があるのだろう。
    そう思うと、初見ではややこしいなとしか思わなかった冒頭の家系図が、愛おしく思えてくる。
    幻想的で素敵な作品だった。
    最後の場面は、胸に迫るものがあった。

    0
    2026年06月25日

    Posted by ブクログ

    ある朝、羊になった男主人が寝室で発見されたところから始まる。その羊の肉を残された一族の者たちにふるまうため、儀式の準備を進めるアンドロイドの一人称視点の物語。
    先に言っておくと、なぜこの一族が羊になるのか、なぜその肉を食べなければならないのかをアンドロイドは説明してくれない。羊に変わる一族の人たちもそれぞれ抱えているものはあるが、その心情を推し量ることもしない。それでも、アンドロイドが愛情深くこの一族に寄り添おうとする姿が心を打つ。
    シームレスな時系列の切り替えや文体は人を選ぶかもしれないが、アンドロイドから見るこの一族はこうも幻想的で耽美に映るのかと思うと面白い。語られないことによる想像の余地があって私は好き。

    0
    2026年03月31日

    Posted by ブクログ

    そもそも主人公のアンドロイドはなぜ少女の姿をしているのか。羊を捌くなんて大仕事のためなら大人の形のほうがいいはず。
    彼女が仕える一族も、広い敷地と大きな屋敷と相当な財産があることはわかるが具体的な生業はわからない。
    ただ一族それぞれの衣装、食べるもの、好きなことなどは細かく描写されている。
    面白かったという一言では片付けられない複雑さ。

    0
    2025年03月17日

    Posted by ブクログ

    一族の男はある時羊へと姿を変え、残された一族の人間はその羊を食べる。主人公はその羊を捌き料理するアンドロイド。
    と、なんだかさっぱりわからないことを読みながら理解、儀式的な羊の解体シーンへと繋がる。
    アンドロイドを通して見る世界を見ているので、表現が回りくどかったり意味がわからなかったりするけれど、世界をこのように見ている人がいるのかと離れて見ると、一族が関わるものは美しく、関わらないものには興味がないのだとわかる。
    一族に継承、アンドロイドに生まれ変わりの役割をそれぞれ交換して何かを生み出そうとしているのか?と考えたけれど、一族を一つの家族として存続させるための役割として羊とアンドロイドがあるのではと考える。多分羊に変わり始めたのも一族始まってからではないと思うし。
    不思議な世界に少しだけ浸るために。

    0
    2025年03月13日

    Posted by ブクログ

    一族の男性は死を前に御羊に変化し、その後屠られて一族に饗される――そんな一族を近くから見守る人間型の機械(アンドロイド)の視点から描かれる、ある当主の御羊化に始まる物語。SFというより幻想小説だけれど、この一族が何なのか、一族以外の人間はどう暮らしているのか、いつの時代のことなのか、どこの国のことなのか、それらは一切説明されない。語り手についても、見た目を含め詳細な仕様は明かされない。けれどそうした語られないディテールが気にならないほど、語り手の美しくも少しほころびのある言葉によって紡がれる濃密で独特な世界の空気に引き込まれる。

    浮世離れしているのにそれぞれに色濃い生を生きているこの一族の、閉じているのに果てしがない、積み重ねられてきた歴史。その歴史に寄り添い、有限の生の巡りを見届け続けてきた語り手の胸のうちから溢れる思いは、「人間的」な存在として作られただけあって、非人間でありながらとても人間的。なすべき務めは淡々と果たしながらも、命を慈しみ、一族を愛し、最後は有限の生を持たぬものとして与えられた柵を自らはみ出してゆく。
    人は誰しも、少なからず柵と枷の中で生きる。それは性別であり体質であり、生まれ、運命、矜持である。作中で、女性たちはそうした柵や枷に、果敢に挑んでいく。愛ゆえに進んで枷にとらわれる者もいれば、本能が叫ぶままに柵を超えようとする者もいる。一方で、御羊になる定めの男性たちは、それぞれの柵や枷から解き放たれることはない。定めの生の中で時に虚ろな人形となり、抗いは病に負け、御羊となり歴史の一部になっていく。
    愛ゆえに柵に挑み枷を乗り越える語り手の衝動は、人間的なのだろうか、それとも非人間的なのだろうか。人間的な非人間として作り出された語り手の、非人間性と人間性のあわいに立つまなざしと行動が、「人間らしさ」とは何かという問いとなって胸に残る。

    愛を持つアンドロイドと言うとカズオ・イシグロの「クララとお日さま」を想起するが、この語り手はAF(人工親友)とはまったく違う。語り手は愛をプログラミングされた商品ではなく、一族のためにただそこにいること、一族の歴史の目撃者になることを求められている。その、時の流れの積み重ねが、語り手の中に愛を生んでいる。
    御羊解体と大旦那様との往時の思い出が並行して語られる場面は、具体的な言葉としての表現はないけれども、見守り続けてきたいのちへの強い強い愛を感じる圧巻のクライマックスである。同時に、愛するいのちを解体し見送ることのできる存在であることの非人間性、むしろ超人間性が恐ろしくも感じられる場面でもある。
    この語り手がいなければ、御羊を饗する儀式は続いてきただろうか。御羊にはならない主人に作り出された語り手は、一族を守るものだったのか、一族を呪うものだったのか。人間性について、愛について、お伽噺めいて静かな非現実感の中から一気に生々しいいのちの現場へと展開する荒々しさに揺さぶられながら、強く心が刺激された作品だった。

    0
    2026年09月11日

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