【第1章 ロシア・ウクライナ紛争の行方】
p. 73 陸続きの大国ゆえ、ロシアは伝統的に、自国の周囲にバッファーゾーン(緩衝地帯)を設定しようとする。ロシア、ウクライナ戦争の原因の1つに、こうしたロシアの『恐怖』に基づく世界観があることは間違いない。(奥山真司『世界最強の地政学』)
p. 74 ロシアにとってウクライナ南部は黒海への出口だっただけに、ウクライナの西側への接近は死活問題。
【第2章 ガザ戦争に潜む殉教と報復の論理】
p. 100 イスラエルという国ができた背景には、第一次世界大戦時のイギリスの三枚舌外交があった。「バルフォア宣言」を根拠として、第一次世界大戦後にユダヤ人はパレスチナへの帰還を始めた。その後ナチスドイツのユダヤ人へのジェノサイドを受け、第二次世界大戦後にパレスチナへの帰還はさらに本格的になっていく。
p. 102 パレスチナ問題は、議論のスタート地点における立場設定が非常に重要です。この問題は、イスラエルの生存権を認めるか、すなわちユダヤ人の帰還権を認める立場に立つか、認めない立場に立つかで、完全に変わってくるのです。(中略)
しかし、イスラエルはヨーロッパにいたユダヤ人が作った植民地であると言う立場の場合、ハマスの戦闘行為もテロも、パレスチナに住むアラブ人による植民地解放闘争と言うことになり、ユダヤ人はパレスチナに住んではいけないと言う結論に至ります。つまり、本来の自分たちの母国であるヨーロッパに帰れと言うことです。
このように、パレスチナ問題を考えるにあたっては、立場設定が最も重要だと言う点を最初に理解しておく必要があります。
p. 111 もう一つ、ジェノサイドによって植え付けられたユダヤ人の意識があります。(中略)ドイツを始めとするヨーロッパ各国の人々は、ユダヤ人をジェノサイドから積極的には救わなかったと言う歴史的事実があるのです。このような状況から、ユダヤ人が「他者をあてにしても無駄だ」と言う考えを抱いたとしても不思議ではないでしょう。ユダヤ人は祖国を持つ必要性だけでなく、多くの敵対勢力に囲まれたときにどうするべきかを考えるようになりました。要するに、「自分の身は自分で守るしかない」ということです。
このように、今回のイスラエルによる徹底したガザへの攻撃も、ユダヤ人の歴史とイスラエルの地理的背景による内在的論理がわからなければ、理解することは難しいのです。
p. 112 イスラエルの内在的論理を考えていくと、今回のガザ地区への軍事作戦実施は、イスラエルにとっての“自衛権”どころか、さらに根源的な権利である“生存権”を守るための軍事作戦であることがわかります。かつてホロコーストを経験したユダヤ人にとっては、「全世界から同情されながら滅亡するよりも、全世界を敵に回して戦ってでも生き残る」というのが本音であり、信念なのです。いってみれば、これこそがイスラエルの論理であり、国是なのです。
p. 119 日本にやってきたガザの画家の言葉が紹介されています。
日本で日本人が生きているこの暮らし、これが人間が生きるということであるなら、ガザにおける生、それは決して、人間の生などではありえない。自分はこれまでひとたびも人間として生きたことなどなかった。自分は日本に来て初めて人間となったのだ、だから、私の歳は7日なのだ。
p. 132
要するに、イランはイスラエルに何らかの報復をしないと国民にも示しがつかないため攻撃を仕掛けましたが、本格的な戦争になる事は望んでいなかった。その後、イスラエルの報復攻撃があることはありましたが、現在両国が戦闘状態に入っていないことからも、これはそう理解できます。相互に以心伝心でやったプロレスだったのです。こうした国家間の駆け引きを理解しなければ、中東情勢を大きく見誤ることになります。