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村中直人氏は、脳・神経科学などの知見から、叱ることには「効果がない」と語る。叱られると人の脳は「防御モード」に入り、ひとまず危機から逃避するために行動を改める。叱った人はそれを見て、「ほら、やっぱり人は叱らないと変わらない」と思ってしまうのだが、叱られた当人はとりあえずその場の行動を変えただけで、学びや成長を得たわけではないのだ。そして厄介なことに、人間には「よくないことをした人を罰したい」という欲求が、脳のメカニズムとして備わっているため、叱ることで快感を得てしまうのである。では、どうすれば人は成長するのか。本書は臨床心理士・公認心理師で、発達障害、不登校など特別なニーズのある子どもたち、保護者の支援を行ってきた著者が、「叱る」という行為と向き合ってきたさまざまな分野の識者4人と、叱ることと人の学びや成長について語り合った一冊である。
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■叱られた子供はなぜ同じことを繰り返すのか。
その答えは「防御システム」とも呼ばれる脳の危機対応メカニズムにある。脳の奥底の扁桃体は人間の感情、特にネガティブ感情について重要な役割を果たしている。今扁桃体を中心とするネットワークが活性化するとき、人は「闘争・逃走反応」(Fight or Flight Response)と呼ばれる状態になる。
この防御システムは人の学びや成長とは真逆のシステムである。具体的にはこの防御システムが活性化しているとき、脳の前頭前野の活動が押し下げられることが分かっている。危機的な状況においては、時間をかけて考えることが逆に命の危険を高めてしまう。だから防御システムは知性のシステムを停止させて、行動を早めさせる。
■叱るという行為の本質は叱られる人のネガティブ勘定による反応を利用することで、相手を思い通りにコントロールしようとする行為である。叱られた子供の防御システムが活性化されると、戦うか逃げるか、どちらかの行動が起こる。叱る人は権力者なので逃げることが多くなる。戦ったところで勝てないから。
しかし逃げると言っても人間は高度に社会化された生き物であるので、物理的に走って逃げるわけではない。子供たちはその場を取り繕うために「言うことを聞く」「謝罪の言葉を述べる」などの方法で逃げるてしまう。そのことが、叱る側に「叱ることは有効である」という勘違いを引き起こす。
■自分が強く叱責することで、目の前の人の行動が変わる。それが単なる逃避行動でしかないことを知らなければ、「叱れば人は学ぶ」と勘違いしても無理もない。叱られた人の前頭前野は活動が低下している。自分がなぜ叱られているのかを冷静に理解し、今後のために自らの行動を省みることができない状況。そのため子供たちはまた同じことを繰り返す。学んでいないのだから当たり前。
■脳のメカニズムは大人も子供も基本的には変わらない。年令に関係なく人間という存在は叱られることでは学ばないし、育たない。
■人は自分の苦しみを和らげてくれるものに依存する。
依存を引き起こすのは「快楽」ではなく、「苦痛からの逃避」である。苦痛や困難を抱えておらず満ち足りた人生を送っている人は依存症になりにくい。
■「苦痛を忘れさせてくれる」行為にも、脳内のドーパミン回路を活性化する働きがある。
■規律違反を犯した人を罰することで脳内報酬系回路は活性化する。つまり人間には「よくないことをした人を罰したい」という欲求が脳のメカニズムとして備わっている。
■パワハラは会社の未来を潰す。パワハラは「叱る依存」で繰り返される。最悪の場合、職場内にパワハラが感染していく。
■怒られたり暴言や暴力などを浴びせられたりすると強いネガティブ感情が湧く。この危機的状況を回避しようと脳は「防御モード」に入る。身を守るためには叩くにしても逃げるにしても瞬時に行動しなくてはいけない。だから脳が防御モードになると行動が早くなる。そころが、叱る側はそれを「叱ることは効果的だ即効性がある」と誤解してしまう。実際には身の危険を感じて反応しているだけで本質的に変わったり成長したりしているわけではない。
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著者の「叱る依存」を悪とした主張に完全な同意はできないが、色々な気づきを与えてくれる内容だった。対談のどれもが趣深いが、最後の佐渡島庸平氏が印象的だった。前さばき、後さばきの概念があり、前さばきの上手い人つまり「予測力」の能力がある人は叱る原因を前もって回避しているという。これには納得した。事が起こってしまった後のさばきが上手い人は、仕事上では誰もが「できる人」認定してしまう節があるが、前さばきが上手い人は、そもそも問題が発生することがないのでその能力に周りは気づかなく、能力を軽視されてしまう。「叱る」の趣旨とは外れるが、この部分のやり取りは大変、会社員として働くうえでは貴重は知見であった。
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元女子バレーボール日本代表の大山加奈さんとの対談が印象的だった。
小さいときから才能を発揮し、第一線で戦い続けプロになった。厳しい練習や指導にも、それがレベルの高い証拠と疑わずに食らいついた。成長期に無理をして体を痛め、それが原因で選手生命は長くはなかった。
私が子どもに小さいうちからスポーツをやらせたくないと思ったのは、これが理由だな。
大人の厳しい指導で子どもに力はつくかもしれない。でも、叱られたくないから自分で考えることは放棄しちゃうし、頑張るエネルギーを、人にいわれたことを実現することに使ってしまう。成長期で不安定なのに、真面目な子ほど頑張りすぎて、運が悪ければ体を壊してしまう。
スポーツの世界は今だに厳しいが善というイメージがある。「強い」から「楽しい」に変わっていくといいのにな。
早熟だけが才能ではない。人生100年時代なんだから、子どもにあまりプレッシャーをかけない世界になってほしいなぁ。
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少しずつ世界が変わってきているなと感じる。
叱る(&褒める)ことで望ましい方向にコントロールしようとせず、主体性を出せるようにどう対話していくか。
人は、今やっていることに納得していないと本当の学びはない。
理不尽な大変さを乗り越えたからといって、それは自分のためになっていない。
防御モードのときに学ぶ余裕はない。
この視点を持っていると、子育てや仕事を振り返った時に問題整理がしやすくなりそう。
前さばきと過保護の違いや、勝利至上主義の指導者が過剰に評価されない仕組みについて、なるほどなと思うことが多かった。
学びが多く、読んでよかった。
Posted by ブクログ
叱ることの弊害について理解できた。害しかない。次に気になるのは「では、叱る以外の方法は何か?」ということです。この本は、叱る以外のアプローチを模索し、それを実践している人々の経験が語られています。特に、叱ることから卒業し、別の方法で人を導いてきた方々の知見が詰まった内容です。さらには、叱られた立場からの語りもされている。
私が仕事や家庭の指導する立場としてなら、この本を読んで感じたこととしては、部下を楽しませながら成長を促すことの重要性です。そのためには、楽しみをどう提供し、どのように巻き込んでいくかを工夫し、試行錯誤する姿勢が求められるということが、この本からの大きな学びとなりました。
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