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Posted by ブクログ
本屋をウロウロしていたら、京都大学の森毅先生が書かれた本書を偶然見つけました。1980年代ごろの大学入試の数学とどう向き合うのか、大学教員の立場から俯瞰したエッセイです。
第2章「入試採点の内幕」は興味深い内容でした。私が受験した1990年頃も「京都大の入試は余白欄までちゃんと見て採点している」という噂がありました。本書によると、受験生がどの程度まで問題の本質を理解しているか等を見極め、減点の点数を決めるために、余白や消しゴムで消した跡までもチェックしていたそう。また、同じ計算違いでも”計算違いの質(確率がマイナスとか、場合の数が少数とか)”によって減点が変わったのだそうです。
国立大学二次試験のボリュームたっぷりの記述式の数学の採点ってどうやって客観性を持たせていたのだろうと疑問だったのですが、本書によると数多くの担当教員で採点基準や、予想される解答を話合い、教員が想定しない解答が出てきたら、その都度採点基準を見直してetc…という非常に丁寧で、かつアナログな方法だったようです。
著者が「採点者によっては同じ解答でも1000点満点で、10点ぐらいの誤差は当然発生する」と明言し、「なにかのはずみで合格・不合格が逆転する可能性がある」と認めた上で「学力といったものがそれほど正確には評価できない以上、不確実さが存在するのは仕方ない。人生には不確実な事の方が多いのだから」と結ぶ辺りは、いかにも京都大学の教員だなぁ、という印象。
第3章 「技術としての受験数学」も面白かったです。記述式答案の作成については、「一つの問題についてクラス全員の答案をコピーして配り、答案採点演習が効果的」と。他人の不完全・意味不明な答案を見ることで、記述式答案で逆に何が必要か見えて来る、という採点者目線の意見には目から鱗が落ちる気がしました。
また問題を多くこなす事については「解いた問題量に頼るというのは”勤勉”という名の知的怠惰にすぎない」と一刀両断。その根拠は、入試では基本的に見たことのない問題と向き合わざるを得ず、多くの問題をこなして解法を”知っている”問題を増やしても無意味だから、とのこと。「正解が分かってから数学の力がつくわけではない。数学の力がつくのは、手掛かりを求めたり、行き詰って別の道を探したり、それが数学の力であり、受験本番の力である」という一節は非常に腑に落ちました。
本書の中で圧倒的に読んでいて面白かったのは、上記の2章、3章でした。書名には「受験術」とありますが、本書全体を通してそんな小手先のテクニックではなく、”分からない事にどう向き合うか”という人生訓めいた内容で、特に巻末のエッセイあたりは、多様性、ムダの効用、反戦など示唆に富んだ内容です。
余談ですが、もしも記述式答案の採点をAIが担当する様になったら、なんか嫌だなと思います。公平さは人間が採点するより担保されるかもしれないですが、「AIに好かれる答案の書き方」みたいな話が真面目に予備校や塾で出てきそうで、そうなるとAIに媚びているみたいだし、自分の入りたい大学の教員に採点を委ねるからこそ、前述のファジーな部分も受け入れられるという気がするのですが。
Posted by ブクログ
数学技術書の側面より、勉強本として自分の専攻領域に当てはめて読んだ
もう筆者の優しく丁寧な言葉と、キリッとした指摘に筆者が大好きになってしまった。本当に優しい
これが40年以上前に書かれたものだと言うからびっくりする。
軒並みの受験術書物、勉強本を凌駕します
受験を控える人、仕事の勉強に悩める人、学ぶことが苦手な人の心の指南書になるでしょう
私の2022年ベストに入るだろうし、恐らくバイブルになる
個性を知り、個性を活かした勉強法を身につける(数学受験術指南
#目的、到達時の状態、理想100%達成時のイメージ
どうなりたいか
どんなことができることを望むのか
#傾向と対策
どんな対応が多いのか
良問と悪問、易問、奇問、凡問
#採点の仕方
採点基準は記録(結果)から
#自分を客観視する
#自己をコントロールしよう
どの程度に、どのくらい時間がかかるか
#量より質
過去やったことがない問題も出る
ならば、一つの問題にいろんな角度から考え学ぶほうがいい
量に頼るのは勤勉という名の知的怠惰
#正解を急がない
#文章にせよ
指導記録はメモではない
書き方には気をつける
新しい書き方をしたら説明せよ
読みやすさが大切
記録の刈り込み方
#頭の周りの速さ=頭のサエてる人=賢さではない
Posted by ブクログ
野矢茂樹著『哲学な日々』に本書の解説が掲載されていたことから本書を知り、読んだ。
森毅の存在は知っていたが著書を読んだのは初めてだ。1981年発刊の本書はベストセラーになったという。
肩の力が抜けた独特の文体で面白い。
そして、一刀斎の別名の通り、所々で鋭い視点が展開される。
特に最後のエッセーは目が覚める内容を含んでいる。
「他人に迷惑をかけない」というのは障害者への差別に通じる。人は誰しも迷惑をかけずには生きられない。お互いが迷惑をかけていくものだ。
人間の心の底にある「寂しさ」への思いが「優しさ」である。人間が生きていくには装ったり、争ったり、何かを思い詰めたりしなければならず、その底に流れるものに思いを寄せるとき、「優しさ」はある。
森毅は軽妙な語り口の中に真実を込める。真実を軽口というオブラートで包んでいると言っても良い。
その語り方は、読者に対する森毅の「優しさ」なのだ。若者にの苦悶に対する「優しさ」が森毅の真骨頂なのだ。
Posted by ブクログ
数学者森毅(1928-2010)による受験数学にまつわるエッセイ、1981年。
この本に最初に出会ったのは浪人時代、その頃通っていた予備校の数学講師が「京大受験生の必読書」と言っており手に取った。当時は中公新書に入っており、こんな説教臭い副題はついていなかったように思うが、新書版がどこへ紛失してしまったのかいま手元にないので確認はできない。
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当時の読後感がやや苦いものであったことを、この度読み返しながら思い出した。森が称揚する「反‐秀才・反-完全主義・反-強迫・反-画一」などの姿勢が自分の気質とは正反対であって、まるで自分は頭が固いだけのつまらぬ人間だと否定されたような気持ちになって、いじけてしまったのだと思う。
森の主張の基本線は、ちょうど本書が執筆された80年代、ニューアカデミズムの流行の中で盛んに喧伝された反-パラノ・親-スキゾの風潮と、並行するものだろう。その頃、浅田彰も森を持ち上げていた文章を、あとになって読んだことがある。一つのことに強迫的に拘らずにはおれず、その拘りそれ自体に呪縛されるかのようにその場から動けずに踠いていた私は、"軽やかに領域を横断するフットワークの軽さ"が称揚されるのを目にするたびに、「自分はどうしたらいいのだ、これはもうどうしようもないのじゃないか」とますます煩悶を募らせる、そんな暗鬱な学生時代を送っていたことが、そういえばそうだったなといった具合に思い出された。
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そしていま読んでみても、やはり同様の苦味を全く感じぬではない。20年経っても、自分はあまり大きく変わっていない。それでも、年を経てみて、森が言うことも、今になってなるほどなと得心するところがたくさんあったから、読んでよかったと思う。
「受験数学から大学数学へ、というのを端的に表現すれば、「問題の解き方」をいくら知っていても、大学へ入ってからはほとんど役にたたず、「解き方の分からない問題へのとりくみ方」のほうだけが、大学へ入ってから役にたつ、ということである。こうした視点からだけ、受験数学が大学数学につながる」
このあたりの受験数学の捉え方については全く同感で、ポリア『いかにして問題をとくか』を読んだときにも同じようなことを考えた。
「人間がときに暴力的になるということは、ぼくのような弱虫にはしごく迷惑なことだが、それが現実であると思って辛抱もできる。しかしせめて、その暴力が正義の名のもとに行われるのだけは、ごめんこうむりたい。せめて、暴力を使うのは、大義名分のないときだけにしてほしいのだ」
国家主義的・排外主義的な風潮がますます強まっていく昨今、「暴力に正義はいらない」(≠「正義に暴力はいらない」)と題された森のこの逆説をしっかり味わわねばならぬと思う。
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浪人時代に読んだときには、努力だとか真面目さだとかを突き放す冷たさのようなものを感じていたのだが、改めて読み返してみると、森の人間的な「やさしさ」や奥行きの深さというものが感じられた。
「そして、自分を大事にするというのは、けっこう人生の大事業なのだ」
Posted by ブクログ
平成22年に逝去された数学者、森毅による書。
『数学受験術指南』とタイトルにあるが、読んでみると、副題にある『一生を通じて役に立つ勉強法』の方がメインに感じる。
しかも、言葉の上面だけ捉えたのでは、まったく人生にも数学受験にも役に立ちそうに無い、面白い内容。
受験生が読んで、はたして役に立つと思えるのかは疑問。むしろ、それ以降に振り返りとして読んだ方が面白いと思う。そもそも、受験生にとって、そんな余裕はないというのが本音だと思う(が、森毅さんはそういうことをバッサリと否定しているのだが・・・)。
本書では森毅さんの数学に対する姿勢、そして人生に対する姿勢が描かれている。
そういった個性をコピーできるものとは思えないけども、森毅さんのカタカナまじりの名調子が面白く、ついつい読み入ってしまった。
終末には「ティー・ラウンジ」として、エッセイが時系列ランダムに掲載されている。こちらは受験術というより人生論。
不器用かつ繊細で率直な数学者、森毅さんに触れることが出来たような気がする。
※本書は1980年に中央公論から出された同タイトルの文庫版
「解説」は哲学者の野矢茂樹さんが執筆。
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【内容情報】(「BOOK」データベースより)
受験では、やったことのない問題に向かい、限られた時間でなんとかヤリクリしなくてはいけない。単に公式を覚えているだけでは立ち向かえない。その意味で、受験も人生も勝負どころは同じなのだ。数学を語ることで人生を語り、人生を語ることで数学を語る。誰も語らなかった受験数学の本質を、やんわりと、しかし鋭くえぐり出す。
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【目次】(「BOOK」データベースより)
1 受験は精神より技術で
2 入試採点の内幕
3 技術としての受験数学
4 受験数学以前
5 ぼくの受験時代
6 数学答案の書き方
7 大学の数学へ
8 数学という学問
ティー・ラウンジ
(ありのままの個性的/他人のめいわく/やさしさの時代/ケシカランとオセッカイ/暴力に正義はいらない/自分を大事に/ムダの効用/自分にとっての秘密/雑木山に生きること)
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