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母親と再婚相手がわかってくれないと嘆く夢見がちな男の子、新婚の妻の理解不能な一面を知ってしまった夫、悩みをまったく分かち合えない恋人たち。不器用な人々が抱くさみしさを、温かな眼差しと幻想的な表現で描く、イギリス文学界の新星による傑作短篇集!
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Posted by ブクログ
現実と空想の世界が入り混じる不思議な世界へ読者を誘い込む。ひとつの作品が終わるごとに、ほ〜と息を吐きたくなるような余韻を残されます。子どもの頃に旅していた空想の世界に再び旅できるような、不思議で、心地の良い読書体験でした。
<翻訳文学試食会>課題の『ネズミ捕り』収録短編集。 作者のナオミ・イシグロの父はカズオ・イシグロ。 題名の「逃げ道」は、逃げ道のない人たちの話というイメージかなあ。逃げ道を見つけた人もいるし、逃げなくても良いと思った人もいるし、逃げたんだか何なんだか分からん人も…(・・; 『ネズミ捕りⅠ』 重厚な...続きを読むファンタジーっぽい? ネズミ捕りの男が、新しい王に呼ばれる。この国は経済が衰退している上に、国中にネズミによる疫病が蔓延している。そのためか全体の雰囲気も重苦しいし、人間同士は猜疑心を持ち合っている。 ネズミ捕りが訪れた王宮には王はいなかった。ここには大きなネズミ以外に生き物の気配なんかしない。こんな王宮にいると、自分の棲家である寂れて雑多な町が心地よい。 王宮にいたのは、新しい王の異母姉の少女のエセルと、召使の老女。ミス・エセルはネズミ捕りに親しみのようなものを見せる。 ネズミ捕りの仕事方法は、彼自身の美学やこだわりの詰まった罠を作って仕込むこと。彼はミス・エセルに罠の仕掛けを見せる。それは、星空の部屋に誘い込まれたネズミが毒の餌を食べ、星空を思い浮かべながら死ぬという仕組みだ。ミス・エセルはその仕掛けを「美しい」と言った。 だがミス・エセルに出されたワインを飲んだネズミ捕りは、星空を思い浮かべながら倒れる。 『ネズミ捕りⅡ 王』 毒をもられたかもしれないネズミ捕りだが命は取り留めた。 自分は王に呼ばれたネズミ捕りだぞ?王はこの国の疫病対策をするのではないのか?王のところに苦情を言いに行こう! ネズミ捕りは森の宮殿にたどり着いた。中から出てきたのは小さく汚れて御大層な衣装をまとった少年。いや、これが新しい王、ミス・エセルの異母弟か。 なぜ新王はこんな森で犬と一緒に籠もっているのだ?本当はネズミを退治する気も、国の疫病を治める気もないのか。そして新王とネズミ捕りの噛み合わない会話。 その上新王は、ミス・エセルはネズミが友達、ネズミを大切にしているだってことをネズミ取りに伝える。 ええー。おれ何のためにネズミ捕りの仕掛け作ったんだよ!? ネズミ捕りは、新王に作った新たなネズミ捕りの仕掛けを見せる。だが新王の犬がその仕掛けにかかってしまった!怒った新王はネズミ捕りに火を…。 『ネズミ捕りⅢ 新王と旧王』 またまた散々な目にあったネズミ捕りですが、読者としては「Ⅰで生き残ったのだから、Ⅱでも大丈夫だろうなあ」と、ネズミ捕りの生命力への信頼感がある。 だがⅢの語り手は幼い新王だ。 父の王の急死を知ったのは、領土内を旅行している時だった。王宮には、自分を嫌う異母姉と、醜いその母親と、彼女が王位につくことを望む弁護士がいる。 新王は森の宮殿に、犬とともに引きこもった。犬だけが友達。 だがその犬は、彼の退屈を癒やしてくれると思われたネズミ捕りの仕掛けに掛かってしまった。新王は犬を寝かせてある部屋に閉じこもっている。 そして王宮では、防腐処理された父の王の遺体が保管されている。犬を失った新王は、父の王と親子らしい触れ合いを求め、遺体と共に散歩に出ることにした。 なんとか父の遺体をベランダに運び出したが、王宮にはびこっていたネズミが群がってくる!! == 寒々とした国、残酷に美しい罠、腐った匂い、人を信じず何もせず自分の悪い思いばかりを募らせる人たち。こんな王宮で生きている気配がするのはネズミだけなのだ。 そこに現れた「ネズミ捕り」は、庶民らしく自分のやることをやるんだが、かなり酷い目にもあう(・・; でもやっぱり現実に生きる庶民は強かですね。 これだけ腐って陰鬱で不信な関係なのに、最後の最後では「目を開いて現実に生きようかな」「相手のことも見ようかな」という明るさがあってむしろびっくりしました。悪くない。 他のお話 『魔法使いたち』 ビーチに来たというのに、アルフィはママに新しいシャツを着させられていた。ママも新しいパパのウォレスもアルフィを手間を掛けさせる子だと思ってる。でももう少しの辛抱だ。あと数ヶ月で11歳になる。そうしたら本格的に魔法を習うんだ。きっともうすぐぼくの先生になる魔法使いと出会えるはず。 ビーチで占い師小屋をやっているピーターは、客の女性をデートに誘った。うまくいきそう。でもだんだん彼女の精神的な夢見るような話しが気に障るようになってきた。 『くま』 新婚家庭の家具を買うつもりだったのに、妻は特大のくまの人形を競り落とした。新居に鎮座するくまに、夫はいらだちを感じる。あいつが部屋にいると怒りっぽくなるし性欲は失せるし。しかし妻がくまに親近感を抱かせたのは、夫自身の態度だったのだろうか? 『ハートの問題』 失業中のダニエルは、婚約者ベアトリスの収入でロンドンで暮らしている。仕事探しと言いながら全くはかどらない。いつもスーツケースに荷物を詰め、駅まで行って、もうずっと戻っていない故郷のアイルランドに帰ろうかと思うが、やはり駅からベアトリスのいる家に引き返す。そんな日々だ。 それが、公園でダニエルの様子が気にかかって話しかけた看護師のリアンに話した内容だ。 …映画『フォレスト・ガンプ』とか、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のような雰囲気です。 『毛刈りの季節』 田舎の農場に住むジェイミー少年の夢は宇宙飛行士になることだ。ある日下宿人として航空宇宙工学を学ぶ学生マイルズがやってくる。張り切って宇宙飛行士になる方法を聞くジェイミーに、マイルズは困難な、まるでこの世の理を実際に表すかのような課題を出す。 なかでも「未知なるもの」を描く、とはできるはずがないと思われた。未知なるものを考えたジェイミーは、ついにそれを描き、マイルズに見せる。 『加速せよ!』 コーヒーが苦手だったエフゲニーだが、ある一杯で体中が目を覚ますような感覚を味わった。仕事は早くなり、頭も体も常に稼働し、手際も早くなった。 レストランの歌手のアナリスと知り合い一緒に暮らすようになった。アナリスの記憶力は問題だらけだった。彼女は何を見ているのか、何を考えているのか。 エフゲニーのコーヒーによる加速は増してゆく。それは自分が複数に分身する感覚だった。 『フラットルーフ』 突然の恋人との別れから立ち直れないアニーは、彼の残したコートを着てフラットルーフの屋上に上がってみた。そこには鳥たちがいた。最初は警戒の様子を見せた鳥たちも、すっかりアニーに慣れた。アニーにとって鳥たちは新しい仲間だった。アニーはほとんどの時間を昔の恋人のコートを着てフラットルーフで過ごした。だが空を飛ぶ鳥たちは、突然飛んでゆく。アニーは手すりまでしか行けない。 そしてある日、一人で残されたアニーの元に鳥たちが…
おとぎ話を思わせるような幻想的な世界観が描かれるかと思えば、次の話は現代のロンドンが舞台であったりするのだが、どの話も主人公は様々な孤独を感じながら不器用に生きている。そこからもがいて何とか前に進もうとする姿がタイトルの『逃げ道』なのだろうか。
カズオ・イシグロの娘である作者が綴る短編集。 海外小説らしい婉曲表現もあるが、一般的なそれよりも文章は平易で読みやすい。 奇抜な設定の「くま」、短編らしさを味わえる「ネズミ捕り」、読み応えのある「加速せよ!」がおすすめ。
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