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東三河~浜松で展開するローカルスーパー「クックマート」は、1店当たり平均年商が約27億円と大手を凌ぐほど支持を得ている。同社は2代目社長の白井健太郎氏のもと、業界の常識を覆すローカルスーパーの新たな成長の道を描く。そのユニークな競争戦略とそれが生まれた背景、これからめざす姿を社長自らが綴る。
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Posted by ブクログ
デライトのポジショニング戦略 ①価格訴求のチラシがない ②ポイントカードがない ③ネットスーパーがない ④クッキングサポート・レシピがない ⑤深夜営業しない ⑥マニアックな商品構成をしない クックマートは食品スーパーを「毎日の食事の支度のためのお店」「あくまで日常使いのお店」と考えています。なので...続きを読む、ディスカウンターのように品ぞろえを絞り過ぎてもダメだし、高級スーパーのようにグルメに寄り過ぎてもダメ。日常生活の中での食品スーパーの役割を突き詰め、「ちょうどいい」品ぞろえをしていきます。奇抜や極端ではなく、あたりまえのレベルを上げていく。凡事徹底。永遠の磨き上げです。 限られた店舗スペースとリソースの中で、全てのリクエストにお応えすることは物理的に不可能。よって、何をやり、何をやらないかの取捨選択、優先順位が大事になります。 自己満足にならないように、マニアックになりすぎないように、自社のコンセプトに忠実に、メインターゲットに概ねご満足いただけることを目指しています。 「ちょうどいい塩梅」は季節や時間帯によって常に変わっていくものなので、バランスを取るのは非常に難しいことです。だからこそ、現場で「気づき、考える」必要があります。 これは、ある種「中庸」を保ち続けるということだと考えています。中庸を保つのはいわば常に動くボールの上で「玉乗り」しているようなもので、止まっていると転んでしまいます。そのことに耐えきれず、ほとんどのスーパーはディスカウンターか高級路線のどちらかへ寄っていってしまう。かくも「中庸」を保つのは難しいのです。 私は「普通なのに、普通のレベルが高い」というのが、食品スーパーにおいては最もいい店舗だと考えています。しかし、それは地味なことなのであまり注目されません。でも、 毎日の食事の支度のために通っている人にはじわじわとわかってくる。それが別名「信頼」 とか「評判」とか「ブランド」と呼ばれるようになる。「瞬間的にバズらせるのではなく、長期的にじっくりコトコト煮込む」。これがクックマートの大事にしているあり方です。 クックマートでは毎日の食事に必要なものをしっかり取り揃えていきます。時々使うマニアックなものはデパートや成城石井さんで買っていただけたらと思います。 ⑦タバコの販売をやめた ⑧大きな本部がない ⑨社長が現場に口を出さない 不幸の始まりはミスマッチ 私は、これらの経験を経て、諸々の不幸の始まりは「ミスマッチ」にあると思いました。 自分のことをよくわからず、「柄にもないことをしてしまう」「置き場を間違えてしまう」 ことこそ不幸の始まりであり、「一般論・世間に合わせてしまうこと」が本人にとっても、 周りにとってもよくない。無理しても周りにご迷惑をおかけするだけ、と痛感したのです。 また、そもそも、性に合わないことを「我慢してやる必要もない」。そんなことをしても誰も幸せにならない。人はそれぞれ向き・不向き、気質・体質があるわけだから、それに合ったことをやればいい。その中でベストを尽くせることが「己を活かす」「よく生きる」 ということではないかと思ったのです。 例えば、全くマネージャー向きではない(対人関係に向いていない)のに、とりあえず昇進したいという人。それは本人にとって、(そして、周りにとって) 本当にいいことなのか? もちろん、仕事における適度な負荷・チャレンジというのは重要で、それがあって初めて人は成長します。ただ、その前提として、「向き・不向き」は確実にある。向いたことの中でも当然いろいろな苦労はあるわけだから、その中で頑張った方が報われる努力ではないか?向いてないことをやっても、ただの徒労ではないか? 摩擦のない改革はない 改革をしていくと、当然、今までと違うことが起きるわけですから多少の摩擦は起きます。ただ、 摩擦のない改革はない。大事なのは、「なぜそれをやるのか」「 従業員にとってどういうメリットがあるのか」「やらない場合どうマズイのか」、その全体像と文脈をきちんと示し、正々堂々と改革することだと思います。説明をめんどうくさがって、こっそりとやろうとするから不信感が生まれる。正々堂々とその意義を説明し、 理解者を増やしていく。みんなにとってもいいことをやるわけだから、「なるほど、確 かに」 とわかってもらう、 一方で、どんなに説明しても、その意義を理解できない人・合わない人、「頭ではわかっても体が付いてこない人」も、もちろん出てきます。そういう人は、厳しいようですが、 辞めてもらっても構わない。「万人にとってのいい会社」というのはないわけで、「うちがどういう会社なのか」「何を目指していくのか」を明確にし、それに賛同し、納得している人が自由意志でデライトで働いているということが健全だし、大事だと思っています。 これこそ真に社員をリスペクトした態度であり、変に甘やかさない、大人として扱う、 「独立自尊」「自主尊重」ということだと思います。経営というのは現実を扱う仕事ですから。「全方位に100%の会社などない」「あったらそこは天国でしょ」というリアリズムに基づいて物事を設計し、社員に説明することが大事だと思っています。 日本では「会社を辞める」ということはわりとネガティブに受け止められがちですが、 私は割とサッパリと「合わなければ辞めればいい。そして自分に合うと思う会社を探せばいい」と思っています。私自身がそうでしたから。ただ、それが本当に「合わない」のか、 「自分に問題がある」のか、そこは見極めが大事だと思います。「自分に問題がある」場合、どこへ行っても「合わない」「うまくいかない」ということになるからです。 一方で、会社としては「みんなが引き続き働きたくなるような会社」「納得感を持てる会社」「他社よりいいと思う会社」を作る必要がある。そうでないとみんな辞めてしまいますから。 一方で、「しょーもない」意見というのは、本人の問題なのを他人や会社のせいにしている意見のことです。「自分が受け取っていることについては無自覚で、与えていることにばかり自覚的」。基本的に、自分のことは棚に上げて、人のせいにしている人は、どういう状況になろうとも他責で不満を持ちます。そういう人は「悪気」があるわけではなく、単純に 「視野が狭い」わけで、むしろ「正義感」で言っていることが多い。こういう人を私は、 「天国に行っても文句を言ってるタイプ」と呼んでいます。 そういうのは、本人の問題なので、華麗にスルー。もしくは、後述する「哲学カフェ」 のような機会に「別の角度からのモノの見方」を提示して「どう思う?」と聞いてみる。 違った視点からモノを見たり考えたりしたことがない人は意外に多く、そういう視点を提示するだけで意外なほど「あれっ!?!?」「思ってもみなかった!」とアッサリ解決することも多いです。 要するに、本人からのモノの見方(カメラで言うと「1カメ」)だけでしか見ていないところを、映画やドラマのように、別のカメラからの視点、例えば、相手からの視点、上空からの視点、ド・アップの視点など、カメラを切り替えるように「別角度」を見せるわけです。「で、どう思う?」と本人に尋ねる。元々、「悪気」はない人たちなので、違うアングルからのモノの見方を見て、納得感があれば「なるほど」と、すんなり解決することも多いわけです。 それでもわからなければ本人の問題なので仕方ないと考えます。わかるときが来ればわかるかもしれないし、永遠にわからないかもしれない。そもそも、根本的な考え方が違うのかもしれない。その場合は、果たしてこの会社にいることが本人にとってもいいことなのか? 諸々自分で考えて判断してもらえばいい。会社としては役職等級に相応しい働きができていて、本人が機嫌よく働けているならそれでOK。ズレている場合は「評価制度」できちっとフィードバックします。そのために「評価制度」がある。 本人の問題と会社の問題をきちんと区別して変に甘やかしすぎない。ある種、子育てに似ている。やたらと「寄り添えばいい」と思ってる人がいますが、度が過ぎると「甘やかになる。私は、その区別は大事なことだと思っています。それがデライトの考える「独立自尊」「自主尊重」です。 「何を聞き、何を聞かないか」「何にこだわり、何にこだわらないか」。そこに個性が表れる。それは、会社でも個人でも同じことだと思います。全員に好かれることはできないけれど、筋のいい人からは「なるほどねぇ」と、理解・納得してもらえる。メインターゲットから概ねご満足いただける。それが大事だと思っています。 違いの源泉は「腹の底からの納得」 その「究極のバランス」、「お値打ちなのに魅力がある」という相反する価値を実現するためには、どうしたらよいのか? 平凡な答えで誠に恐縮ですが、私は、最終的には「働いている人のモチベーション」が決定打になると思っています。それも無理矢理上げるようなモチベーションではなく、「腹の底からの納得」。「そうでしかないよな」という自己認識。自分を過大評価も過小評価もせず、等身大で考えて、「ここだよな」と思える。それが重要だと思っています。 スーパーマーケットというのは関わる人が多く、また、「生鮮・ローカル」というナマモノを扱う「魔境」なだけに、一人ひとりのモチベーションは「掛け算」のように積み重なって売場・商品に反映されていきます。 経営者の個性と分かちがたく結びついているのが組織戦略。これが私の性格に向いている。複雑なものを複雑なまま取り扱うこと(魔境)が好き。独自の文脈を練り上げていくことが好き。これは文学という「言葉にならないことを言葉にしようという試み」が好きということと関係しているような気がします。 デライトが会社組織(従業員向け)として目指していることを一言で表現すると、「仕事を通じて人生を楽しめるプラットフォーム」。分解すると、「待遇・環境がよくて(衛生要因)」×「楽しさ・成長もある(動機付け要因)」ということになります。 これは、実は顧客向けのコンセプトである「リアル×ローカル×ヒューマン=地域の活気が集まる場所」と「ウラ・オモテ」の関係になっています。 キノコ理論 会社を「生命体として捉える」ことの利点は、上記のように、会社ごとの個性について意識的になれることに加え、会社自らが「進化・増殖する」ということにあります。 機械は勝手に進化・増殖することはありませんが、生命体は、適切な生育環境と栄養さえあれば、自ら肥えて豊かになっていくことができます。 経営者としては成長の阻害要因を見つけ、取り除いて、なるべくその生命体の健やかな成長を邪魔しないようにしてやる。余計なことをする必要はない。むしろ余計なことをすることは「過干渉」となり、適切な成長を阻害してしまう。も 適切な成長を阻害してしまう。ある意味、この考えは子育てにも近い。 私はこういうあり方を勝手に「キノコ理論」と呼んでいます。とにかく、私は「組織戦略」「組織文化づくり」が好きで、いい場・いい組織文化を作れば、いい事業戦略、 プロダクトや成果はキノコのように自動生成するとさえ思っています。時には毒キノコが生えることもあるけれど、それは上手に摘んで、「いいキノコ」が育つ組織文化を整備していく。 人は無菌状態では育たない。適度なノイズも必要。私にとって組織文化は、ある意味、農作物における畑や菌床みたいなイメージなのです 私の組織戦略は、とにかく「場づくり」。「場」を作ったら徹底して任せる。ただ、放置とは違う。コンセプトはしっかり握った上で任せる。そして情報共有やコミュニケーションをして、絶えずフィードバックがあるようにする。そこから会社が生命体のように有機的に動き出すのです。 生命体は「ここが悪いからパーツを取り換えましょう」「修理しましょう」という「交換可能」な世界ではありません。時には外科手術も必要ですが、基本的には長い目で見て、地道に「土壌を耕す」「菌床を整える」しかない。しかし、そうすれば、時間はかかるけれど、着実に効果は出る。 この、ややロングスパンのユルい構えが、「生鮮・ローカル・人間」のような「魔境」を扱う上ではかなり重要なのではないか? なぜなら「魔境」は生きており、「ナマモノ」であり、「生命体」「生態系」そのものだから。生きている「魔境」を、機械を扱うように扱えば、健康を害することは容易に想像がつきます。しかし、現実は「完全にコントロールできる」という「機械のメタファー」で扱っている会社が多い。だけど、それをやってると「魔境」が暴れだす。
これはまごうことなき楠木建本です。楠木論理がどこまでも息づいている経営を知らず知らずのうちに行っている。で、結構言語化が上手く読み手を飽きさせない。
競争しない競争戦略が学べる。「他社が合理性を追求する中で見過ごしてきた裏側に注目する」という考え方が好き。今年だけでも複数回読み返している。
同業界に身を置く者として、考えさせられる一冊でした。 小売業の中でも、食品スーパーは寡占化が最も進んでいない業態であるが、それは遅れているのではなく、向いていないのではないか、という問題提起。 その理由は三重のナマモノを扱っているからか。 ①売上構成比の過半数が生鮮食品というナマモノである「生鮮」 ...続きを読む②生鮮食品というナマモノはローカル性を強くはらむ「ローカル」 ③それを扱う人も客もまたナマモノである「人間」 だからこそ、チェーンストアにて規模・合理化を追っていくと、一店一店が弱くなるという矛盾。 クックマートの商圏である、浜松と豊橋という車で30分しか離れていない場所でも食文化が異なることに驚いた。この距離でそうであれば、全国統一してなんてことは無理だろう。 PEファンドのマーキュリアと組んで、どのような成果が出るのか楽しみ。
楠木建イズムが根付いたスーパーマーケットチェーンの話(と言っていいと思う)。こういう良い企業の事例を読むと、経営とは突き詰めると組織作りなのだと実感する。人事配置、評価基準、社内イベント、ミッションやビジョンの策定。これらの重要性を白井社長はとてもよく認識している。逆に、それができない組織のトップが...続きを読むいかに多いことか。 ただ、気になったのはマーキュリア(PEファンド)との提携に関する記述の薄さで、この箇所については白井社長は本音を書いていないように思う。買収時にマーキュリアのディレクターは「将来的に売上高を500億円規模まで伸ばせる」と極めてビジネスライクなことを言っている(そもそも、そのような目算がなければPEファンドは投資できない)。この提携について、白井社長は越境だとかコラボレーションだとかブレイクするーだとか、きれいな言葉ばかり言っているが、現実の経営判断とうまく整合していないように思う。 (ただ、PEから「投資される」側の体験談というのはほとんど読んだことがなかったので、DDやインタビューをする側の人間として、その記述は面白かった。)
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