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第九十九回芥川賞受賞作。「ある日、気がつくと、自分の内部に昔はたしかにあった筈の主体としての<われ>が失われていたのだ。わが心のうちなる岡にのぼって、いくら自分の名を呼んでみても、いたずらにただ山彦がかえってくるばかり。<われ>に置き去りにされて抜け殻になった<われ>のがらんどうの中を、うそ寒い風が通り過ぎて行くばかり。そうは思いませんか。小説“尋ね人の時間”とは、自分捜しの物語なのかもしれない」(あとがきより)
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Posted by ブクログ
月子という名の女の子が出てくる。 以前から、こういうタイプの登場人物(それが男でも大人でも)に強く惹かれる方。 肌になじむというか、どこかすーっと自分の中に溶けていくような感じ、かな。 小説を無理やり太陽と月に分けるとするなら、まさに月の部に入る小説だと思う。 淡々とした語り口で暗いわけではないけ...続きを読むれど、神島も月子もその他の人々もどこか寂しげ。 心のなかの空虚な部分を覗いているようなそんな気がした。 神島や山田の写真、見てみたくなった。
作品集らしい 「水母」と「尋ね人の時間」の二つ。 「水母」は30ページの短編でもう一つの後に書かれた作品で、それのプロローグみたいなもん。現代小説らしい作品だなーって。
存じ上げなかったが、「千の風になって」の作詞もした作曲家で、写真を撮ったりとマルチに活躍する人の小説。 中堅写真家の神島は、男性的不能となり、妻と別れてから評価の高い作品を作り活躍している。たまに会う、ボーイッシュな実娘月子や駆け出しのモデルの圭子など、様々な人達と絡む人間模様を描いた、連作短編...続きを読む集。 冒頭の作品が、話途中な感じで突然終わって、ああ、純文学だったのかとはじめて気づいた。そこまで探偵小説か何かと勘違いしていた。その後の作品も、無理に落ちをつけようとせずにふわっと終わるが、比喩をこねくり回して無理やりゲージツ的に描こうというところは、触手が伸びていく部分を除いてほとんど無いため、読みやすく爽やかな筆致である。 途中の作品で、若干無理やりな部分はあるが、手乗りの小鳥「サヨナラ」や井戸の話など、つげ義春の漫画で見たような、映像的な表現が使われている部分が印象深い。たまたま藤子不二雄の短編集を並行に読んでいたため、藤子キャラでつい読んでしまった。 芥川賞を取ったということで、まあそれっぽいものの、読みやすさではかなりおすすめはできる作品だろう。ただ、強烈に記憶に残る作品というわけではない。
インポテンツがマッチョイズムの喪失に根差すものであるとして マッチョ否定が戦後民主主義の目指す理想であるとするならば 勃起回復の願望は、マッチョイズム回帰の願望でもあるわけだが それはもちろん戦後民主主義への憎悪をともなうもので 同時に、それを押し付けてきた女性(母親)たちへの憎悪をも 含むことにな...続きを読むる しかし憎悪は、愛との二律背反として、互いを抑圧しあうことになろう 結果、インポテンツは解消されぬまま 或る象徴的な現象が表出されることになるのだった 「尋ね人の時間」は88年の芥川賞で ノル森と同時期の作品なんだが手や口を使う描写は無しだ 作者の新井満はのちに 老いと死をテーマにした歌唱作品をいくつか発表してブレイクする
1988年上半期芥川賞受賞作。それぞれの場面は鮮明でありながら、統体としては夢の連鎖であるかのような印象を受ける。月子のイメージなどはことにそうだ。また、それはあえてそのように書いているのだが、登場人物同志の関係性も極めて儚く、主人公は敢えて孤独を選ぶ。ただ、主人公の神島をあえて性的不能に設定するの...続きを読むは、そうした構図と、物語の構想が顕わ過ぎて感心しない。なお、選考委員の吉行淳之介も指摘しているが、神島のもとを去っていった妻のカオルが新たに選んだ男は、「文学」の対極にあるようで、たしかに笑ってしまいそうだ。
誰がつくったのか知らないけどそれは神様からの試練だという人もいるかもしれないけど。その世代にはその世代がちゃんと受け入れていかなきゃいけないものがあるってこと。問題をクリアする知性とか経験とか相当タフになってきたはずなのに。なかなか越えさせてくれない。自分はどこへいってしまったのか。ちょっと読むのは...続きを読むやすぎたかも。
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