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「一月六日 フーセツ 全身硬ッテ力ナシ…」。 凍える指先で綴られた手帳の文字は、行動記録から、やがて静かに死を待つ者の遺書へと変わってゆく。迫り来る自らの死を冷静に見つめた最後の文章は、読む者の心をつかんで離さぬことだろう。 この壮絶な遺書のみがクローズアップされがちな同書だが、本書では山岳史研究家の遠藤甲太氏が解説を加え、人間・松濤明の素顔と、氏の登攀史上の業績を明らかにする。松濤明の残した記録の数々を、新しい視点で読み直すための絶好の書の文庫版の電子化しました。
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Posted by ブクログ
叙情的ではあるが感傷的ではない。パリッとした記録としての文章もあれば、分析的、感情的な一面もあり人間味に溢れる。 詩人ではないけれど雄弁な言葉を持つ登山家であり、その語彙力と表現力は随一。 山を登らない人間にもその凄みが伝わるのではないか。 死の間際のメモはどこまでも生命に溢れており逆説的かもしれな...続きを読むいが死が生を生たらしめているのではないかと感じざるを得ない。
山岳用語がたくさん出てきて、岩登りをやらない自分にはわからない言葉ばかりだったけど、それが問題にならないほどの筆力と意志の強さに惹きつけられて一気読み。 加藤文太郎と同じ北鎌尾根で遭難したのを知らずに読んでいて、「何トカ湯俣マデト思フモ」というところで「孤高の人」の最後のシーンが蘇ってきた。 風雪の...続きを読む中でしたためられた手記の最後は、借りたお金の覚え書きで終わっていた。雪山で死ぬつもりは毛頭ないけども、果たしてこんな境地で最期を迎えられるだろうか。
学生と社会人の、登山への考え方の違いを論じた部分(p443/563 S23.7)が印象的だった。 自分で働いて(稼いでから)山に行く人間は、初めから権利の概念が強い。汽車賃だって、、、みな俺が稼いだものだ。わずかな暇を盗んで山に行くのは俺自身の努力でかちえた当然の権利だ。・・・どうしても享楽的にな...続きを読むる。・・・楽しいということが第一になる。 (順番は逆だが)学生で親の脛を齧って山に行く奴は、山に行けば行くほど良心がとがめる。・・・せめて遊びに終わらないようにと考え、やり甲斐のある登り方、文化的意義のある登山をしようと努力する。そこに登山の進歩が生まれる。・・・(以上引用)とあった。 自分の登山も、社会人の考え方にたがわず金に物言わせてとりあえず、一日で縦走するために手段を選ばない、、というところが無きにしも非ずであり、また、仕事でも、とにかく金に物を言わせてなんとかする、、、ということが行われがちであったことに気付かされ、自分が登山で何を求めているのか、仕事で何がやりたかったのか、またそれができているのか?など、自分を見つめなおすきっかけを与えてくれた。 本書は、最後の遺書の部分があまりに有名な様だが、途中、途中で会誌などによせている寄稿文も私は多く気に入った。昭和初期の文化人というか、自由に理想を想い、観念を述べた文章が私にお気に入りとなった。
松濤明の名著が文庫で復活。 学生時代にどれだけ、この本を捜し歩いたことだろう。 戦前、戦後時代の登山記録だが今の次代に見ても凄い記録を数々うちたてた天才クライマーだと思う。 いつかは彼の歩いた道を追ってみたい。
遭難を美化できないが、文学的なセンスが彼の真っ直ぐな生涯を際立たせ、最後は涙なしでは読み進められない。
まず、「しょうとう あきら」だと思ってた。登山界の伝説みたいな岳人の名は「まつなみ あきら」。遭難死した時、若干26歳10ヶ月。 とは思えないレベルの文章力と山行の両立ぐあい、と、それらしい若い情熱。 学生登山と社会人登山の流れや、極地法への疑問など、昭和初期の開拓の空気や、その上に立った松濤の先進...続きを読む的な思想がよくわかり、読みものとしてもまとまっている。 本人の筆による山行報告とコラムがいい。それに付随する解説も助かる。最期となった「風雪のビヴァーク」部分の考察はまさに「後進の参考となる」内容。グラム単位で重量計算し、事前に荷上げし、緻密に緻密に練り上げた山行でも、計画通りに進められない状況に陥った時、引き返すタイミングを間違えば、気づいた時には手遅れとなっている…。という遭難本はいくつもあるが、帰らぬ人となった本人による文章の迫力が追随を許さない。 その厳しさを胸に、いつか自分が同じ場所に立つ日がきたら…。岩のようすにトポ、コースタイムや食糧までを書き込んだ、この偉大な先人の山行記録に、こっそり重ね合わせてみたい (…多分夏だけど) ものです。
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