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中国は経済成長率が目標を下回るなど減速が著しいが、世界における重みは着実に増し、日本の最大の貿易相手国でもある。だが、深まる一方の「中国依存」に対する不安も急速に高まっている。脱「中国依存」は可能なのか。本書は各種の統計データに基づき、中国経済の正しい見方を提示する。あわせて「共同富裕」や不動産バブルなど習近平政権下の経済政策・経済問題を検討し、今後を展望するとともに、日本の取るべき指針を示す。
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Posted by ブクログ
経済的に深く結びついた日本と中国で、最近「デカップリング」という話をよく耳にします。 それについて小生は、「ホントにできるのかな?」と常々思っていましたので、本書を手に取りました。 本書は一般書と言うよりも、ほとんど専門書に近いと感じました。あまりにもデータが多く、内容が精緻なので、読むのが大変なの...続きを読むです。 まず、冒頭に著者が、イメージする姿として、世界の工場である中国といえども、日米を排除したサプライチェーンを構築することはできないと始まっています。 そして、著者は執筆の動機として、以下の言葉をつづります。 「日本は、中国の隣から引っ越すことができず、相互依存関係はますます強まる。であれば、好きか嫌いかという感情をいったん脇に置いて、中国経済に向き合う必要がある」 納得し、共感できる言葉だと思いました。 本書は、米国がトランプ政権時から、「脱」中国依存を発言し、実行しているにもかかわらず、現実には、それが進んでいないことを、具体的な数字で指摘しています。 そして、脱「中国依存」が進まない理由として、次を概念を取り上げています。 「GVC」(グローバル・バリュー・チェーン)の中心がアジアにあるというのです。 「GVC」とは、複数国にまたがって配置された生産工程の間で、財やサービスが完成されるまでに生み出される「付加価値の連鎖」を表す言葉です。 この、「付加価値」という概念が必要となったのは、現在のグローバル貿易の中で、最終商品が、一国の中で完結されなくなっている製造業の実態があるのだろうと思います。 もう一つ「付加価値の連鎖」について調べてみると、「付加価値輸出という新しい視点が必要になった背景には、現実世界での生産工程レベルでの国際分業の進展がある」とあります。 上記をよむと、以前の国際貿易は、商品の「取引額」を見ればわかっていたのですが、現在の商品は、世界中から原料を集めて、加工し、組み立てを行い、最終商品化されています。 その実態を的確にとらえるには、その時点その時点の「付加価値」を調べなければわからなくなっているということだと思います。 本書は、データを基にして、その「GVC」(グローバル・バリュー・チェーンがアジアにあると言いきります。 2018年の世界の製造業の、付加価値輸出に占めるアジア全体の割合は、38.3%に達すると言っています。 アジアは間違いなく製造業の集積地なのだというのです。 また、脱「中国依存」が進まないもう一つの理由として、本書は「ロックイン効果」を上げています。 「ロックイン効果」とは 「ロックイン効果とは、経済学用語のひとつである。例えば、消費者があるメーカーの商品を購入した場合に、商品を買い換える場合にも引き続いて同じメーカーの商品を購入するようになり顧客との関係が維持される効果をいう」 本書は、この「ロックイン効果」により、近接性が高まることで、財・サービス市場やアイデアへのアクセスも良くなるなどの効果もあると言っています。 そして、脱「中国」依存を進めることの「コストの増加」です。企業競争を高めるための「在庫」を絞る「ジャストインタイム」を見直なければならなくなります。 既に「GVC」(グローバル・バリュー・チェーン)が完成しているアジアから、別の場所に移転する脱「中国依存」は、このように困難さがあると、本書は書いているのです。 そして、本書によると、中国の貿易依存度は2006年に64.5%でしたが、2020年には34.5%と30ポイントも低下していると言います。 貿易依存度が高いと、国家を運営するための需要を満たすには貿易に頼らなければならなくなります。 その貿易依存度が、中国では近年著しく低下し「内製化」が進んでいるというのです。 「内製化」の進展は、脱「中国依存」の動きを打ち消します。 これを著者は、世界の製造業は、以前にも増して、中国を震源とするサプライチェーン寸断のリスクに対して脆弱になったと言っているのです。。 本書は、米中対立の今後について、内製化が進んでいるにもかかわらず、中国の「自立・自強」は実現不可能であるために、対立が急速に悪化する可能性は低いとしています。 著者は、この「自立・自強」の進展度合いを調べるために、国際収収支の知的財産権貿易から「顕示比較優位指数(RCA)」を算出して、中国の競争力の高低を調べています。 そして、習近平政権が目指す「地財強国」への道のりは遠いと結論を出しています。 スマホの例を引いても、一つの製品を作るためのサプライチェーンは、長く複雑化しています。 貿易依存度の低下は、中国にとって「自立・自強」の進展を意味しないばかり、サプライチェーン寸断のリスクは高くなっているとしています。 著者は、以下のように断言しています。 「『GVC』(グローバル・バリュー・チェーン)が発達した今日、相互依存関係にある国の貿易戦争においてどちらか一方だけが勝者となることはない」 著者は、完全なデカップリングは難しいと考察しているのです。 また、中国の所得格差は、世界的に見ても大きい部類に入るそうです。格差の指標である「ジニ係数」は、2019年で0.465と高いのです。 中国は、世界の中でも格差の大きい国なのだというのです。 経済が高成長していて、人々の階級上昇が実現しているうちは問題が表面化しませんが、経済が停滞するようになると、たちまち社会不安が起きてきます。 「共同富裕」というスローガンは、その背景の下に出されてきたのでしょう。 本書は、その政策の内実を詳細に検証しています。 2020年の中国全体の上位2割の高所得階層(第5五分位)の一人当たりの可処分所得は、下位2割に当たる低所得層(第1五分位)の10.2倍とあります。 日本の、同じ格差の数値は、2.6倍にすぎないので、中国の格差の大きさがわかるとしています。 ただ、この格差を低下させる政策には、不動産税や日本では相続税に当たる遺産税の導入なども、話しは出ていますが、進んでいないようです。 やはり、既得権益層が多数いるところに切り込む改革は、権威主義的な政治制度においても、なかなか困難なことがわかります。 そして、本書は、日本の現状を考えるにあたって「国際収支発展段階説」を取り上げています。 「国際収支発展段階説」は、1950年代にクローサーやキンドルバーガーによって提唱された説だそうです。 この説の骨子は、ライフサイクルに応じて家計の収入、借入、資産が変化するように、国も発展段階、とりわけ輸出産業の競争力よって国際収支構造が変化していくというものです。 その変化は、以下のように変わるとされています。 「未成熟債務国」→「成熟債務国」→「債務返済国」→「未成熟債権国」→「成熟債権国」→「債権取崩国」 本書では、この説に沿って日本の現段階を確認すると、日本は「未成熟債権国」から「成熟債権国」に移行しつつあると言えるとあります。 そして、今後も「成熟債権国」としての様相を強めていくとしています。「成熟債権国」の特徴は、対外純資産の規模が拡大するとともに、所得収支が拡大することにあります。 日本の2020年の対外純資産は3兆4421億㌦と、世界最大の「対外純資産国」であるとしています。 小生は、ここを読んで、日本の将来はまだまだ安心だと思いました。 小生が、本書を読み始めるときには、単に脱「中国依存」は可能なのかという点だけを知りたいと思っていましたが、本書は、その結論を単純に答える本ではありませんでした。 中国の製造業と世界の製造業の実態と、日本の占める位置や、それを取り巻く諸状況を網羅した本でした。 かなり、専門的な用語が出てきますので、もちろん全部を理解することはできませんでしたが、全体の風景をぼんやりと感じることはできたと思います。 本書のあとがきに、著者の印象言葉深いがありました。 「中国経済については、消化不良を感じるくらいがちょうどいい。これは安全保障を米国に依存しながらも、経済はその米国と対立関係にある中国に依存する日本人の宿命と考えるよりほかない」 そして、最後の以下のように語っています。 「中国経済を俯瞰できるようになったと感じる人がいれば、著者として望外の喜びである」 小生は、到底そこまではいきませんが、なんとなく奥行きを持ってこの経済問題を見ることができるようになったように感じました。 本書は、興味深い本です。ぜひ読むことをお勧めします
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脱「中国依存」は可能か 中国経済の虚実
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三浦有史
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