「前項でも登場した『 DIE WITH ZERO』では、資産のピークを「金額」で決めるのではなく「時期」で決めるべきだと主張しています。その時期とは、健康状態を示す「生物学的年齢」です。健康状態は人により異なるため、資産を減らし始める年齢も異なりますが、おおむね実年齢で 45歳 ~ 60歳からは資産を減らしていくべきとしています。「金額」を目標にしてしまうと、「たとえ何年かかってもその金額を目指すべき」という意味合いが込められてしまいます。人生を楽しむには、お金だけでなく健康と時間も必要です。お金は増えれば増えるほど複利の力でもっと増やしやすくなります。けれども、「時間」は有限です。「健康」も努力して保つことはできますが、基本的にはどんどん衰えていくものです。目標額まであともう少しを貯めるために、リタイアを 5年先に延ばしたとして、それにより年齢を重ねて体力が衰えたら、たとえお金があっても、そのお金を使ってできることが限られてしまいます。つまり、人生の幸福度を上げる機会を逸することになるのです。」
「1697年にオーストラリアで「黒い白鳥」が発見されるまで、人々は白鳥といえばすべて白いものだと信じて疑っていませんでした。白色以外の白鳥を見た経験のある人は誰もおらず、学者たちも白以外の白鳥がいる証拠などないと信じていました。はじめて黒い白鳥が発見されたとき、鳥類学者や専門家は驚いたことでしょう。そしてそのような「ブラック・スワン」は、金融の世界や拡張化された現代のあらゆる場所に発生しうるのです。 ナシーム・ニコラス・タレブ氏の『ブラック・スワン[上][下]』(以降『ブラック・スワン』)によれば、ブラック・スワンとは次のようなものです。 ① 異常であること(過去に予兆はなく、普通に考えられる範囲の外側にあること) ② とても大きな衝撃があること ③ 異常であるにもかかわらず、私たち人間は生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて筋道をつけたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること」