一般向けとしては新書2冊でややボリューミーなアメリカの社会史。政治との連関で追いつつも、主にマイノリティの位置付けを追う。保守からリベラルまでエリートたちがこぞって批判するトランプとは何者なのか。彼が壊すかもしれないものは何なのか。本書はそのヒントをあたえてくれると思う。(この観点でいえば下巻で足り...続きを読むる)
公民権運動から保革対立激化に至る歴史を新書にしては詳細に叙述する。その白眉はその歴史から到達する20世紀末の「文化戦争」の記述である。アメリカには、WASP(伝統的白人)のアメリカとサラダボウルと例えられるアメリカがある。1980年以降激化した「文化戦争」(中絶、信教、人種などをめぐる保革の対立の激化)は、アメリカの位置付けをめぐる大きな揺れを生み出し、それは本書で指摘されるように事あるごとに噴出してきた。関係ないような事件にまで絡められる事もあった。本書は2002年巻だが、ブッシュ・オバマ期を通じて大きく揺れ、2016年に至る。
最後の方にこんな記述がある。
文化多元主義と多文化主義は、いずれも異質な人種・民族集団の文化を尊重するが、前者は一つの統合されたアメリカ社会における多様性を尊重するのに対し、後者では各人種・民族集団の文化がまず尊重され、一つのアメリカ社会としての統合はほとんど問題にされないう。この意味で、多文化主義は統一国家としてのアメリカという前提をひっくり返したものと言っても過言ではない。p156
進歩派ないしリベラル派が進めてきた人種や性の平等、人間の差異に対する寛容さなどの価値観は、広く社会に浸透していった。保守派はこう言った価値観を建前上は受け入れながらも抵抗を続けている。それは、多くの場合リベラルな勢力が強い大学のキャンパスでよく見られる。p177
トランプが壊そうとしているのは、そもそもの「異質な人種・民族集団の文化を尊重」する姿勢であり、その「建前」なのであろう。クルーズはトランプを放送コードを絡めて批判しているが、共和党の超保守派ですら守った最低限のレベルなのである。
トランプは”Make America Great again”と言い、クリントンはケネディの言を引いて"America is great, and we can do great things if we do them together." と批判する。見ている時代は同じなはずなのになんとも不思議な話である。
その意味でトランプが壊そうとしているものの正体を知る一冊であると言える。