著者の経歴が異色。
「帰国事業」によって、北朝鮮に「帰国」した在日であり、北朝鮮においてはハイクラスに属する朝鮮労働党の幹部であり、そして脱北して現在は韓国に住むという三つの顔を持つ著者が、新聞の連載のために書いた記事をまとめたものがこの新書である。
北朝鮮で生まれ育ったわけではないため、北朝鮮首脳
...続きを読む部による「洗脳」に冷静な目を向け、時には失望をあらわにしながらも、それでも北朝鮮社会で生活していると(「領袖の温情」なにどに対して)感極まって泣いてしまう、といったことがあると複雑な心境を説明したりもしている。
朝鮮労働党の幹部であったという肩書きからみてわかるように、著者の北朝鮮においての地位は非常に高いものであり(ただし、日本でも差別された「在日」である彼が、「帰国」した先の北朝鮮でも差別をされたということは書かれている)一般的な北朝鮮社会についてどれだけ現実感をもって理解しているのか、ということはわからない。しかし、どの社会でも差別をされてきた著者の庶民に寄り添おうとする姿勢は真摯なものである。
学術的な本ではないが、北朝鮮社会をかいま見ることができ、また読みやすく興味深い良書である。