■はじめに
岡田彰布の阪神監督第二次政権〈2023〜2024年〉を追ったドキュメントと知り、真っ先に頭をよぎったのが『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』〈鈴木 忠平 著〉だった。
岡田と落合。2004〜2008年、両者率いるタイガースとドラゴンズは、セ・リーグの覇権を激しく争った。投手を中心とした守りの野球、センターラインの固定、中継ぎ・抑えの整備、1点差をものにする采配など、野球観も極めて似ている。
本書の著者 デイリースポーツ紙の西岡誠は、オリックス監督時代から15年間「岡田番」を務めた記者。それなら、まだ知らない岡田彰布に出会えるのではないか。そして「落合本」を超える面白さはあるのか。
そんな期待を抱き、ページを開いた。
■内容
「なぜ阪神監督への再登板まで15年を要したのか」「なぜ2024年の退任会見を行わなかったのか」…長年岡田を取材してきた著者だからこそ聞ける問いから、本書は始まる。
岡田か就任するや打ち出した改革は明快だった。
ポジションの固定、ボール球に手を出さないために四球の査定ポイントのアップをフロントにかけ合い、村上頌樹を見出し、大山悠輔を4番に据え続け、木浪聖也を復活させ、中野拓夢をセカンドへ。時に佐藤輝明には二軍降格も辞さず、厳しく野球へ向き合う姿勢を求めた。
選手やコーチの証言を交えながら、その卓越した観察眼と勝負師としての貌が浮かび上がる。
そして就任1年目でリーグ優勝、38年ぶりの日本一。翌年も巨人と最後まで優勝を争ったが、わずか3勝差で連覇を逃し、球団から契延長の申し出がないまま退任。
■感想
勝っても負けても試合後の監督談話を読むのが楽しみなんて、ファン歴54年になるが初めての経験。とにかく岡田の2年間は興味深かった。
“岡田のおっかけ”をしていたこともあって、本書の内容は既に知っているものも多く、「あっ、これは知らなんだ!」という話は、残念ながらさほどなかった。
ちなみに僕が最も知りたかったのは、なぜ球団が契約延長を申し出ず、早々に藤川球児招聘へ踏み切ったのか。まぁ、これは超秘密裡な人事案件。敏腕記者でも踏み込めない領域。棺桶まで持っていく話と見なしましょう。
でも改めて思う。岡田彰布は、間違いなく稀代の監督のひとりだった。膨大な野球体験に裏打ちされた確かな記憶をもとに、戦力を縦横に動かし試合の流れを読む。
「あゝ、この手で来たか!」テレビの前で何度唸ったことか。せめてあと数年、ユニフォーム姿を見ていたかったと今でも思ってる。
■最後に
さて「落合本」と比べてどうだったのか。
落合は多くを語らない。ゆえに謎に包まれた「孤高の指揮官」へ記者が少しずつ近づいていくこと自体がドキュメントの背骨になり、物語に昇華。
方や岡田は真逆。レトリック無し・主語なしの独特の岡田話法で、試合や選手について実によく喋る。記者にもファンにも既に「岡田彰布像」が出来上がっている。
だからどちらに軍配を上げるという見立てはそもそも間違ってました。
本書を読み終えて強く残ったのは、むしろ阪神タイガースの監督という仕事の過酷さだった。
では、岡田彰布は阪神に何を遺したのか。僕は、この言葉に集約されると思う。
『普通でええんよ』
無駄な四球を出さない。ボール球に手を出さない。キャッチボールを大事にする。ファインプレーはいらない。目の前のアウトを確実に取る。
特別なことではない。極めて当たり前のことを、当たり前にやり続ける。簡単そうに見えて、それが一番難しい。
38年ぶりの日本一を成し遂げた指揮官が遺した、
「普通でええんよ」。シンプルなれど、深淵。
タイガースが常勝球団とあり続けるためにも、受け継がれていくべき言葉であると感じた藤川球児は「凡事徹底」という言葉に置き換えたと…僕は見ている。