■肩書だけが偉くなってしまい仕事振りの伴わない部長クラス以上の管理職を「大課長」と呼ぶ。この言葉は10年ほど前から人事コンサルティング業界で使われ始めた。部長以上の管理職が課長と同じような仕事を続けている状態や、それによって引き起こされる、様々な会社の機能不全を指す。
■役割の4象限マトリクス
長期
↑
(部長・本部長の役割)
│
戦略策定│組織設計
コト←──────┼──────→ヒト
業務推進│チームビルディング
│
(課長の役割)
↓
短期
■部長や本部長が「大課長」になってしまう理由
①自分の役割を正しく認識していない
②管理職業務のケイパビリティがない
③管理職業務をやりたくない
■部長・本部長が本来の役割を担うためのスキルは、ポータブルスキルやソフトスキルとも呼ばれる範囲も多分に含まれる。業種や職種を超えて活かせる汎用性の高い力であり、全体俯瞰力、情報分析力、仮説設計力、論点整理力、関係性構築力などがそれに該当する。
職種スキルは経験とともにアップするが、ポータブルスキルは勝手に身に付かない。逆に言えば、このスキルを十分に備えていれば職種として経験したことがない部署の管理職でも一定の成果を出していけるはず。
この力が不足していることが、「管理職業務のケイパビリティがない」という問題につながっている。ポータブルスキルは終身雇用の中で既存の事業を繰り返して専門性を高める時代には、あまり必要とされてこなかった可能性がある。
どの会社でも活躍できる人が共通して備えているものこそが、このポータブルスキルである。
■ポータブルスキルは汎用性の高い力
行動(コンピテンシー)▶ 成果(定量/定性)
職種・専門性 ・特定の職種・業務で必要とされる固有の知識や技術
ポータブルスキル ・どの業務でも必要とされるビジネススキル
全体俯瞰力、情報分析力、仮説設計力、論点整理力、
関係性構築力など
マインド・志向性 ・積極性、協力性、学び続ける姿勢、当事者意識など
性格/基礎能力 ・対人面、課題解決面に関する性格的特性
言語的能力、数量的能力など
■働き方改革もあって、若手一般社員の労働時間を増やすことも難しくなっている。従来なら彼らに任せていた細々とした仕事を、管理職が巻き取らなければならないという問題も発生している。課長のプレイング要素が非常に強くなってしまっている状況をフォローするため、部長・本部長も現場に出ざるを得なくなっている。課長だけでは手が足りない部分を部長・本部長がハンズオンで取り組んだり、難度の高いプレイング要素を含む案件をになったりしている。
■現代の日本で「大課長」が激増していることの一員に、既に様々な業界で指摘されている、「論功行賞人事」がある。時代そぐわないこの昇進ステップはもはや「大課長」量産システムとしての機能さえ持っている。
■組織のトッププレイヤーが評価されて管理職階層に上がっていくということは、それ自体が会社の制度に問題があることを示していると言える。組織内でマネジメントの役割定義がなされておらず、それぞれの役割に合わせた適切な評価や人材登用ができていないのだろう。そのため、傍目にも分かりやすい活躍をする人たちを任用するしかなくなっている。
■企業文化の問題① 行き過ぎた「報・連・相」
「報連相」自体が目的化してしまい、その効果や方法が精査されずに放置されると、ここにもまた問題が生じてくる。
■企業文化の問題② 挑戦を嫌う「切腹文化」
業務上の問題が起きた時、多くの組織で最初に聞かれるのは「誰の責任なんだ」という言葉。「誰」の特定が終わると、次は「どう責任を取らせるのか」という議論が出てくる。ここから降格、異動、謝罪の仕方などの検討が始まる。
なぜ、失敗の責任を取らせる「切腹文化」が問題なのか。この結末からは組織として全く学びを得ることができないからだ。事業で起きた問題を「誰か」という個人の問題に矮小化し、その人に責任を取らせることで幕引きとしてしまっては、「なぜそうなったのか」「どうしたら防げたのか」という貴重な情報を得ることができない。「今回の失敗から何を学んだのか」が一番重要な問いになる。責任追及だけが進んでしまえば、組織の経験として次に活かすことができず、他のメンバーには、「不慣れなことはするものではない」「挑戦にはリスクしかない」といったマイナスのメッセージを発信してしまうことにもなる。
■組織の直接的な実務を担う「現場」を重視し、そこで得られる情報や判断を尊重するのは大切なことで、その意味での「現場主義」を無理に変える必要はない。しかし、メンバーも課長も部長も全員が同じ視点で同じ対策を議論していては、組織の進化が遅れてしまう。現場で起こっていることを軸にしながら、メンバー・課長・部長がそれぞれ違う役割を果たすことが重要。
特に課長から部長になるときには、「現場の具体的な事象に、一つ一つ対策を立てる」というポジンションに変わる。これまでは現場にいち早く向かいスピーディーな対策を行うことで認められてきたのだから同じ行動で解決したくなるかもしれない。その欲求をぐっと抑えて部長と強いてこれまでとは違う解決法を探る。──これがアンラーニング。
■「大課長」度チェックリスト
①定量的な分析力が弱く、感覚や定性情報のみの現状把握をもとに、事業/部の将来を描く(又は事業の未来を描いていない)
②将来のありたい姿が曖昧な中、過去から現在の延長線上で、事業/部の将来を描く(又は事業の未来を描いていない)
③本当にやるべきことを絞らずに、「あれもこれも」と、やることを増やす指示を出す
④具体的な戦略の仮説を持たず、日々の業務推進のみを行っている
⑤短期的な数値目標のみを追いかけており、顧客価値やサービスの価値を向上をおろそかにしている
⑥上司に対して提言ができず、上の方針をそのまま現場に下ろしている
⑦自ら意思決定することを避け、上長に判断を仰いだり、判断を先送りしたりする
⑧部下と施策に対する方法論などで見解が異なった場合に、十分な対話をせず、自分の意向を押し通す
⑨本来課長がすべき業務を行ったり、現場がなすべき実務に口を出したりする
⑩縦割り意識が強く、自身が管轄する部しか見ていない
⑪判断軸や説明が不十分な中、感覚的な判断で人員配置や業務の割り振りを行う
⑫組織全体での育成やリソース最適の視点が弱く、「仕事ができる部下」のみに仕事を集中させている
⑬属人的な業務をそのままにし、マニュアル化・汎用化に取り組んでいない
⑭人材育成に関心を持たず、部下任せにしている
⑮厳しい評価やフィードバックをすべきことから逃げてしまい、人材育成が進まない
⑯聞こえの良いことしか言わず、部下の行動に変化を起こせない