『The NVIDIA Way エヌヴィディアの流儀』を読み終え、率直に感じたのは「表面的な成功物語ではなく、逆境と信念の積み重ねがここまでの企業を築いた」という重みである。以前に読んだ『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』に比べれば、本書の厚みとリアリティは桁違いだ。やはり創業者ジェンスン・フアンをはじめ、多くの関係者の肉声を拾い上げているだけに、企業の内側に流れるダイナミズムがこれでもかと伝わってくる。
印象に残ったのは、NVIDIAが「GPU」というカテゴリそのものを発明した過程である。単なる半導体メーカーではなく、GeForce3やCUDAを通じて「プログラム可能な...続きを読む コンピューティングの未来」を描き出した姿勢は、2020年代のAI爆発につながる布石だった。10年以上前の挑戦が今日の成功を導いている事実に、戦略とは「長期の信念の持続」であると痛感させられる。
また、GPUの用途をゲームにとどめず、バイオテクノロジーや医療へと拡張していった点も象徴的だ。ロス・ウォーカー教授との協働によって、AMBERのGPU版が登場し、世界中の研究者が自宅で最先端のシミュレーションを走らせることが可能になった。このエピソードは、技術が産業や社会に波及していく瞬間、つまりイノベーションを鮮やかに描き出しており、「NVIDIAはゲーム企業」などという短絡的なレッテルを鮮やかに打ち破る。
人材戦略もまた過激なほどに徹底している。買収できないならその会社から人を引き抜く、そこにいても負けるだけなのだから勝ち組に入れと説得する、そして入社した人材には株式付与で強力に報いる。その結果、離職率はわずか3%。「使命こそが究極のボス」というジェンスンの言葉どおり、組織は計画表ではなくビジョンと実利の両輪で動いている。多くの日本企業が「定年まで安定」や「横並びの報酬」にとらわれている姿と比較すると、発想のスケールと合理性の違いに驚かされる。
とりわけ心に残ったのは、ジェンスン自身の生き方である。成功への近道はなく、むしろ困難な道を選ぶことを信条とし、逆境を最高の教師とする姿勢。株式を「自分の血液同然」と語る成長への執念。これらは単なる経営者の名言ではなく、NVIDIAそのものの文化を形づくっている。
本書を通じて私が得た最大の気づきは、「テクノロジー企業の本質はハードではなく信念にある」ということだ。GPUの発明、CUDAの推進、AIへの果敢な賭け・・・どれも短期的には無謀に見えながら、結果として世界の産業構造を変える決定打となった。企業が未来を切り拓くとは、こういうことなのだろう。
『The NVIDIA Way』は、単なる企業研究を超えて、「不確実な時代に何を信じて突き進むべきか」を考えるための一冊だと感じた。読み終えて、自分自身のキャリアにおいても「困難な道を選ぶ勇気」を持てるかどうか、問われているような気がした。