本書は、たった一つのシンプルなケーススタディを紐解きながら、組織の複雑な問題に対するアプローチとして生成的変革を紹介しています。
そのプロセスは、ハイフェッツでおなじみの適応課題の特定→パーパス(生成的イメージ)の策定→ステークホルダーの生成的会話への参加→主体的イノベーションの促進(小さな実験=探索プロジェクト)→成功と失敗からの学び→成功した探索プロジェクトの拡大と定着というものです。
本書の素晴らしいところは、ケーススタディをひとつに絞っていることにより、簡潔でありながら具体性が高く、短い読書時間で各ステップの要点を理解できるところです。組織図(!)と、登場人物の会話(一部)、そこから組織開発コンサルタントが何を察知するか(!)も含めて書かれているので、大変実践的だと感じました。
特に感動的なのは第二章のパーパスの策定シーンです。適応課題の問いを、意思決定層の偉い人たちではなく、関係するスタッフが心から取り組みたいと思えるパーパス(生成的イメージ)に置き換えるというお題のディスカッションでしたが、会話の流れがとてもリアルでしたし、最終案が出た=センスメイキングの瞬間に鳥肌が立ちました。(最終案をコンサルタントではなくクライアントが発しているのがミソですよね。)
また、第3章のステークホルダーを生成的会話に参加させるイベントの紹介パートでは、具体的なプログラムや扱う問いと各パートの時間配分(!)、さらに会場の使い方や話す内容におけるポイント(!)、さらにさらに対話を邪魔しないランチの形式(!)まで書かれており、こうした場の設計を行う身としてはありがたい限りでした。
さらに、第4章には上記のようなハレの場(非日常)のイベントから、ケ(日常)のプロジェクトへとつなげるプロセスも描かれています。プロジェクトを追ってサポートする「トラッカー」をアサインしたり、複雑な問題を対処可能な問題へと噛み砕いていく追加イベントの開催をしたりといった内容です。イベントの名称を組織に合わせて変更したり、開催場所の検討をしたり(倉庫に焦点を当てたセッションは倉庫で開催する)といったディテールに至るまで表現されておりとても好感が持てました。開催場所については、ハレの場は執務スペースから離れて実施するのが定石だからこそ、こうしたそれぞれの組織に合わせた開発手法も紹介されるのが良いですね。
読んでいて、やはり経営層や人事が定義する課題は現場の誰も解きたい課題じゃないというところが一貫して重要な点だと感じます。現場が何に困っているのか深く聴き掘り下げる態度をいかに意思決定層の間でつくっていくか、が求められていますね。
……と第5章でハッピーエンドとなるところまで読んで、「そんなすんなり組織開発が進むケースがあるかああああ!!!登場人物間の関係性がそもそと悪くないからうまくいってるけど現実はそれほど甘かないぞおおお」と突如反感を持ったものの、最後のパートで困難なケースについての特徴と対処法についても軽く触れられていたのでよかったです。
小一時間あれば読めます。組織の問題に向き合うすべての人におすすめです。