インスタグラムでたまたま著者(厳密には、彼女が経営するチャイと焼き菓子の店”mimiLotus”のアカウント)の投稿が流れてきて知ったのだが、このたび第5刷目の重版が決定したらしい。
初版が昨年の12月…レシピ+エッセイ本というジャンルを考えると、これはかなりの大躍進ではないだろうか。
全然詳しくないけど、チャイはカフェにあるとつい頼んでしまうドリンクで、いつ飲んでも飽きない。
プラス、大好きな旅エッセイときたもんだから、それはもう読む前から期待大だった。
その期待は裏切られることなく、「大満足」というかたちで成就された。第一に、著者の経歴がえらく興味深い…!
引きこもりがちだった中学時代、ご両親が親戚のいるネパールへの旅を推奨され、そこでチャイと出会う。全てを包み込んでくれるような味わいに魅了され、自分も誰かに提供したいと紅茶屋になり、現在ネパールやインドでもチャイをふるまう活動を展開されている。
「本場のドリンクを外国人がアレンジして提供する」という度胸が、まず真似できない。「優しい一杯を誰かに作りたい」という志一つで、ここまでのアクションを起こせるものなのか?
彼女の旅路を辿ってみると、チャイ作りにハプニングが起きても「ピンチはチャンス」と捉えているようで、どちらかと言えば楽しげだ。旅の中でアイデアを手繰り寄せながら、少しずつオリジナル・チャイ(ほうじ茶風や七味唐辛子入り等!)を開発していく…。
現地の人たちは、彼女の揺るぎない度胸もチャイと一緒に買っていたのかも。
アイデアと言えば、道中の風景をチャイに落としこむ技術にも度肝を抜かれたな。
デリーですれ違ったサリーの女性が残した残像と香りをチャイで再現するとか、天才!?一朝一夕ではいかなかったのだろうけど、これが本来の旅の仕方なのかなとさえ思えてくる。
小田実氏の『何でも見てやろう』じゃないけど、「アイデアを手繰り寄せる」では収まらず、吸収までしちゃってるもん…。
「こうして旅をしてチャイを作って、ずっと出会いの喜びを忘れないことは正しいよ。君のチャイはエクダムミトチャ(最高においしい)だ」(P 44)
チャイといえば豊富なスパイスの種類を連想するが、本場では何と贅沢品に値するという。
つまりスパイス入りは、おもてなしの時にのみ作る特別なものなんだとか。だから日本人の著者が、人里離れた山に暮らす人々に、マサラ(ヒンディー語でスパイスミックス)チャイをふるまう…なんて不思議な光景も本書では垣間見られた。
その基本のマサラチャイをベースに、幾つものアレンジレシピがここで共有されている。
「吹きこぼれる直前で火を止める」など、正直、鍋のそばに張りついていないと失敗しそうなレシピが多かった。茶葉やスパイス集めはもちろん、牛乳も「低温殺菌牛乳」(恥ずかしながら初耳)の方が本場に近い仕上がりになったり…と、こだわりの強さも伝わってくる。
「エクダムミトチャ」への道は、私にはあの旅路同様険しいかもしれない。だから自分で作る前に、著者お手製の一杯を味わいに長野県まで行きたいと思っている笑