▫️RevOpsの4つの役割
・オペレーションマネジメント
オペレーションマネジメントは、レベニュープロセスの最適化と効率化を実現します。プロセス設計・標準化によって、レベニュー組織の業務効率を向上させ、人材・時間・コストなどを効率的に配分し、最大の効果を発揮できるように支援します。KPI目標を設定し定期的に評価やフィードバックをして、リソースやパフォーマンスを管理・改善します。
・レベニューイネーブルメント
レベニューイネーブルメントは、収益向上のためにフィールド組織の能力を最大限に引き出します。GTM戦略やレベニュープロセスを踏まえて、レベニュー組織の各フィールド部門がシームレスに連携...続きを読む し顧客に価値提供できるように、トレーニングプログラムの開発、コーチング、コンテンツの提供・整備、テクノロジーの導入や利活用促進、インセンティブの設計などのトレーニングや育成全般を担います。また、フィールド組織が顧客とのコミュニケーションで活用できるコンテンツをGTM戦略と連動した形で作成・整備することで、一貫したメッセージで顧客に価値提供できます。フィールド組織が高い生産性で業務を遂行するための最適なテクノロジーの導入や活用支援、戦略上重要な活動に焦点を当てて行動できるようなインセンティブ設計をCRO(チーフレベニューオフィサー、最高レベニュー責任者、詳細は第2章1節)やファイナンス部門と連携して実施します。
・RevTechマネジメント
RevTechマネジメントは、フィールド組織が効果的に連携し、データを活用するためのテクノロジーの導入、統合、維持管理を担います。テクノロジーの導入においては、GTM戦略の実現に向けて効果的なテクノロジーを選定し、そのテクノロジーの能力を最大限発揮できるように構築やワークフローの自動化、他システムとの統合をします。自動化に適した領域や、新技術の活用領域を特定し、より効率的で合理的なオペレーションに進化させることも期待されています。
・データマネジメント・インサイト
データマネジメント・インサイトは、CROやフィールド組織にビジネス判断をサポートする情報を収集し提供します。各部門や顧客から収集したデータを整理し一元的に管理し、定量的な分析と定性的な分析の両方を行い、トレンドやパターンを見つけ出します。分析結果をレポートとしてまとめ、各関係者に戦略や施策を提案し、データにもとづく意思決定を促します。
これについては、第8章のレベニューリーダーズインタビューでOpenprise(オープンプライズ)のCEOであるエド・キング氏もデータのバイアスについて興味深い話をしています。それぞれのフィールド部門配下のオペレーション部門では、所属する部門に忖度したデータを提示していることが多く、そのバイアスがかかったデータを正として経営判断は実施できません。各部門の主張としては正しく見えても、レベニュープロセス全体を通して見ると正しいものかわからないのです。例えば、マーケティング活動のデータを扱うMOpsでは、キャンペーンの効果を説明する際に、ある特定のキャンペーンの成功を際立たせるようなデータを提示したり、営業活動に関するデータを扱うSalesOpsでは、フォーキャスト(業績予測)を誇張して実際の状況よりも収益を大きく見込めるかのようなデータを提示してしまったりします。
俯瞰してレベニュープロセス全体を捉えるのに必要な経験を持っているCMOやRevOpsはCROに適任であると著者は考えます。顧客を知り、全体視点で捉え、短期的視点と中長期的視点でデータを読み解き戦略的に考えられれば、必ずしも営業部門での成功体験が必須であるわけではないということです。フォーブスのインタピューの中でラタネ・コナント氏は次のように語っています。
「6senseと同規模以上の企業での経験があり、営業、ポストセールス、顧客、パートナー、プロフェッショナルサービスを熟知し、サービス組織を構築できる人を見つける必要があった。(中略)でも、最終的に取締役会が私を支持したのは、私が誰よりも顧客のことを理解しているからだと思う」
CROへのキャリアパスは一律ではありませんが、レベニュー組織の各分野での豊富な経験、戦略的思考、リーダーシップ、変化への適応力や革新性、テクノロジーやデジタルのリテラシー、そして顧客中心に考えられるマインドセットなどバランス良く兼ね備えているCROは組織全体の持続的な収益成長を牽引できるでしょう。
■アカウントベースドレベニュー(ABR)戦略
BtoBビジネスに関わる方であれば、すでにアカウントベースドマーケティング(ABM)に取り組んでいる、あるいは所属している会社としてはすでに取り組んでいると思います。ABMは、特定のアカウント(企業や組織)をターゲットにしたマーケティング戦略です。マーケティングと営業が連携し、特定の戦略的アカウントに対して、その企業のニーズにあったメッセージングでパーソナライズされたマーケティングキャンペーンを実施します。特に新規顧客の獲得や、特定の大手顧客の関心を引くことが目的です。
ABRは、ABMのコンセプトを拡張し、収益を最大化するために、マーケティング、営業、カスタマーサクセス、プロダクトチームが一体となって特定のアカウントに対する戦略を展開するアブローチです。マーケティングのみならず、営業、カスタマーサクセス、プロダクトチームなど、複数の部門が協力してアカウントに対して協働します。長期的な顧客関係の構築を重視し、新規顧客の獲得から、契約の更新、アップセルやクロスセルなど、顧客ライフサイクル全体を通じて収益の最大化を目指します。
つまり、組織のデジタル化に伴いさまざまな部署において収集、分析、加工、保存するデータが膨大になり、必要に駆られてさまざまなオペレーションチームが生まれる中、組織全体でオペレーション体制を整える重要性が明確となり、これら組織全体の流れをBigOps(Big Operations)と呼ぶようになったのです(図3-1)。そして各オべレーションを支える多くのテクノロジーが誕生し続けています。
事実、テクノロジーツールの発展が著しいマーケティング領域では2024年現在、1万4106のテクノロジーが存在する※と言われています。顧客とのタッチポイントの多くがデジタルに移った今、これらのツールを使いこなすことはもちろん、抽出したデータを通して顧客を理解する必要性が高まっています。そして収益創出に責任を持つ部門では特に密接に連携しながらデータを適切に管理、保管、活用する仕組みをつくり、顧客理解および収益創出のためのオペレーションモデルが必要となり、レベニュー組織とRevOpsが誕生したのです。
従来CDPはデータを格納するストレージ機能がついていました。しかしこれでは図3-7のようにデータウェアハウスとCDPは2つのSource of Truth (SOT)が存在する状態になってしまいます。さらにCDP内のデータを介さなければ、他のアプリケーションとの連携やデータ連携ができない状態でした。
しかし、近年注目されるコンポーザブルCDP(Composable Customer Data Platform)は違った仕様を持っています。コンポーザブルCDPは、既存のクラウドデータウェアハウスを活用した状態で、データ収集やストレージ、データモデリングといった各コンポーネントを最適なツールで組み立て可能な状態にできます。これにより、SSOTはデータウェアハウスに統合され、必要なアプリケーションとの連携が非常に簡単な状態を作り上げます。データウェアハウスからCRMや広告システムといったような各種アプリケーションに統合する際はHightouchのような製品を使い、データを簡単に連携するリバースETLの機能を使うケースも多いです(図3-8)。つまり、既存のデータウェアハウスに蓄積されたデータの分散を防ぎ、統合を維持したまま、必要なアプリケーションにデータを連携できるのです。
このような背景からレベニュー組織では図3-9のように部門を横断したCDWやCDPを置き、それぞれの部署で中心的に使われているアプリケーションを直接つなげたり、ETLを介してデータを一元管理したりすること、そして縦割り組織用にデザインされたパッケージツールをそのまま使うのではなく、部門横断的に必要な機能を集め、いわゆるコンポーザブルアーキテクチャのアプローチをとる動きが欧米で見られています。特に、急速に変化するテクノロジーランドスケープに柔軟に対応できるよう、コンポーザブルアーキテクチャへと移行する組織は増加しており、注目が集まっています。
興味深いことに、ガートナーが企業のデジタルIQを調べた調査では、デジタルを活用できている上位の企業、GeniusとGifted企業はそのほかに比べてCDWにデータを保管しているケースが多く、CDWとCDPを併用していることがわかります(図3-10)。
別に新しい取り組みではない、と思う方もいらっしゃるかもしれません。事実、これまでも多くの企業でIT部門が主導になりマスターデータ管理やデータウェアハウスプロジェクトを行ってきましたし、正直なところ、目的はこれと大きく違うところはありません。
唯一の違いはこれまでこれらのプロジェクトにおいてレベニュー組織が主導権を持っていなかったことです。よりビジネスに直結した形でシステムを構築することに注目が集まっているのです。また、IT部門が推進してきたプロジェクトの多くはこれまで、活用前のデータ段階で停滞してしまっています。データの統合を行ううえではデータの品質管理が大変重要ですが、これを行わなかったためにせっかくシステムを構築しても使い物にならなかったり、根本的なアプローチが間違っていたりする浄することにケースが大変多いのです。
また、このコンポーザビリティの高いシステムの構築方法が正解かどうかはまだ議論の余地があります。マネジメントプロセスの設計方法、セキュリティとコンプライアンスのリスク、複数のベンダーが入ることによる脆弱性の増加、テクノロジーベンダー間で、誰が問題のオーナーなのかが不明になるリスクなど、課題もあるため、安易にコンボーザビリティを高めるだけではいけません。
このようなさまざまな理由から、部門横断的に顧客像を可視化できるようなデータ基盤を構築することに成功した企業はまだ多くありません。レベニュー組織が急速に成長を続けている今、これからも注目されることでしょう。
▫️レベニューオペレーティングモデル
Go-To-Market戦略
RevOpsはビジネス目標達成に向けて、GTM戦略の立案、レベニューの組織デザインやステークホルダー管理、リソースの優先度の決定、それにもとづいたレベニューモデルの構築を行います。多くの組織でこれらの意思決定は各部門のリーダーの意見も聞きながら、CROが中心となって行います。これらはレベニュー組織全体で方向性や戦略を確認するための「RevOpsプレイブック」として文書化されてレベニュー組織に共有されることが多く、必要に応じて随時アップデートがかけられます。
■オペレーションマネジメント
・プロセス
RevOpsはレベニュープロセス全体のデザイン、管理、運用、そしてそのパフォーマンスに責任を負っています。そのためマーケティング、営業、カスタマーサクセスを通した一貫の流れの中で評価するべき中間指標やマイルストーン(MQLやSQL、商談ステージなど)の定義決めやそれらの間でハンドオフする際のSLAの策定や管理といったレベニュープロセス全体に責任を持ちます。
・ワークフロー
これらの複雑で大量のプロセスをスムーズに動かすためには自動化されたワークフローや一部マニュアルのワークフローを設計する必要があります。これらの作成や管理・運用、そしてワークフロー間の停滞がないかなどを確認することもRevOpsの費任となります。
■レベニューイネーブルメント
レベニュー組織のフィールド部門が戦略を実現し、高い生産性で顧客に価値提供するために、システムとプロセスのトレーニングや育成、コンテンツの提供、イネーブルメントテクノロジーの選定や活用促進、インセンティブ設計を実施します。
■RevTechマネジメント
レベニュー組織全体の業務効率化を実現し、スムーズにプロセスを進めるためのテクノロジースタックのデザインや構築、管理、運用を行います。組織の規模によってはすべてのツールをRevOpsで管理するケースもあれば、横軸でパフォーマンスを計測できるような基盤(データ、ワークフロー、分析・レポーティングなど)のみをRevOpsで整え、その上にのせる各部門で使うポイントソリューションは各部門で管理するケースもあります。
▫️RevOpsが見ていくデータ
・RevOps
RevOpsはマーケティング、営業、カスタマーサービスを統合し、全体の収益性を最大化することを目指します。そのため、次の指標をトラッキングします。
●総売上(Total Revenue): 企業全体のレベニューを測定する
●顧客獲得コスト (Customer Acquisition Cost, CAC): 新しい顧客を獲得するためにかかる平均コスト
●ライフタイムバリュー (Customer Lifetime Value, CLTV): 1人の顧客から生涯にわたって得られる平均収益
●売上成長率(Revenue Growth Rate): 特定の期間における収益の増加率
● マーケティング効率比 (Marketing Efficiency Ratio, MER): 獲得した新規収益に対するマーケティング費用の比率
●セールスサイクルの長さ (Sales Cycle Length) : リードが最初に接触してから契約が 成立するまでの平均期間
●クロスセル・アップセル率(Cross-Sell and Upsell Rate) : 既存の顧客に対する追加販売や上位製品の販売率
●チャーン率(Churn Rate):一定期間内に契約を解約する顧客の割合
• MOps
MOps はマーケティング活動の効果と効率を測定するため、次の指標などをトラッキングします。
●リードジェネレーション (Lead Generation): 獲得したリードの数と質
●リードコンバージョン率 (Lead Conversion Rate) : リードが実際に顧客になる割合
●マーケティングROー (Return on Investment): マーケティング活動に対する投資収益率
●マーケティング貢献割合 (Marketing Influence) : 商談や受注に対するマーケティング貢献の割合
●Webサイトトラフィック (Website Traffic): Webサイトへの訪問者数
●エンゲージメント率 (Engagement Rate): コンテンツやキャンペーンに対するオーディエンスの反応
●キャンペーン効果 (Campaign Effectiveness) : 各キャンペーンの成功度を示す指標 (例:クリック率、開封率、コンバージョン率)
• SalesOps
Sales Ops はセールスプロセスの効率化とパフォーマンス向上を目指し、次の指標をトラッキングします。
●セールスパイプラインの価値(Sales Pipeline Value): 現在のセールスパイプラインにある全ての商談の合計価値
●パイプラインのカバレッジ(Sales Pipeline Coverage): 目標に対するパイプラインの割合
●パイプライン進行率(Pipeline Velocity): セールスパイプラインがどれくらい早く進むかを示す指標
●フォーキャスト精度 (Forecast Accuracy): 収益予測の精度を測定し、予算策定や戦略計画の信頼性を評価するための指標
●目標達成率(Quota Attainment): 営業が設定された目標を達成する割合
●受注率(Win Rate): 提案した商談のうち、成約に至った割合
●営業活動量(Sales Activity Volume): ㄇール数、ミーティング数、デモ実施数などの営業活動量
●成約までのリードタイム (Lead Time to Close): リードがセールスファネルを通過するのにかかる時間
• CSOps
CSOps は顧客満足度と維持率の向上を目指し、次の指標をトラッキングします。
●顧客満足度(Customer Satisfaction, CSAT) : 顧客の満足度を測る指標
●ネットブロモータースコア (Net Promoter Score, NPS): 顧客がどれだけその企業を他人に推薦するかの指標
●リテンション率(Retention Rate) : 顧客が契約を継続する割合
●拡張レート(Expansion Rate): 既存顧客が新しい製品やサービスを追加購入する割合
●サポートチケットの解決時間 (Support Ticket Resolution Time):顧客サポートチケットが解決されるまでの平均時間
●顾客健全度スコア (Customer Health Score): 顧客がどれだけ企業のサービスを活用しているかを示す総合指標
▫️レベニューイネーブルメントとは
セールスイネーブルメントは、日本でも徐々に浸透してきている考え方で、営業部門の生産性を向上し、より多くの取引を成立させるために必要なリソースを提供する戦略的なアプローチやそれを担う部門を指します。必要なリソースには、トレーニングやコーチング、コンテンツ、ツール、プロセスの整備が含まれます。
セールスイネーブルメントは営業組織に焦点をあてた取り組みである一方、レベニューイネーブルメントはレベニュープロセス全体の生産性向上を目的としています。つまり、営業に対して実施しているイネーブルメントを個別の部門に対して同様に実施するというサイロ化された取り組みの延長線上ではありません。レベニュー組織の全部門のポジションの採用、オンボーディング、継続的なトレーニングやコーチング、役割ごとに必要なサポートを提供します。ただし、すべてのレベニュー組織に均等にリソースを割り当てるのではなく、GTM戦略を踏まえて実施する必要があり、顧客と直接対峙する部門の中でもレベニューインパクトの大きいエリアに焦点をあてるなど適切なリソースの配分の検討は必要です。
ガートナーによると「2026年までにイネーブルメント部門の60%が、顧客と接しレベニューを生み出すすべての役割をイネーブルメントするミッションを負う」と言われています。顧客の購買行動が営業からの情報収集に高い比重で依存していた時代から進化し、購買プロセスが複雑化する現代において、営業部門だけを支援していても売上拡大への貢献という本来のミッションを果たすことが難しくなっているためです。実際に、営業や営業マネージャー、インサイドセールスに加えて、カスタマーサクセス、パートナーセールスやマーケティングなど他のレベニュー組織への支援も開始しているイネーブルメント部門も増えてきています。
RevOpsが取り組むプロセスやテクノロジーの最適化を浸透させ定着に導くためにもレベニューイネーブルメントは重要であり、欧米ではこのイネーブルメントの組織をRevOps配下に設置することが一般的になりつつあります。仮に部門が違ったとしても、同じ目的を持つこの2つの役割が戦略と連動して協力できる組織体制であることが重要です。RevOpsの目的である持続的成長を実現していくためには、レベニューイネーブルメントは組織の収益を最大化するために不可欠な要素です。
■入力が不正確だと正しい判断はできない
マーケティングアトリビューション、フォーキャストマネジメント、顧客エンゲージメントツールなど、世の中にはすばらしいサービスが増えてきています。
しかし、大きな組織でよく見られる大きな誤りの1つは、高価なツールを導入さえすれば既存のテクノロジーに統合され、これまで自社で得ていた情報よりも優れた情報を出力してくれると思い込むことです。実際にこれを実現するには、データの重複排除、統合、関連オブジェクトの紐づけなど、データ管理ツールに十分投資し、関連するすべてのツール間でデータが完全に統合されている必要があります。これには多くの時間とスキルが必要ですが、正しいインサイトを得るためには必要不可欠です。広告費やWebの行動データなど、企業と個人のデータを関連付ける方法が備わっていないマーケティング分析ツールを利用すると(特に高価なものを使っていれば)結果的にコストが無駄になります。
また、CRMの活用度も重要です。システムが使いにくかったり(検証ルールが多すぎたり、フィールドが散在していたり、プロセスフローが不便だったり)、管理職がCRMの利用を徹底していなかったり、報酬体系にCRMの利用を求める要素がなかったりすると、CRMの利用率は低くなります。機械学習を活用した高価な売上フォーキャストツールを導入しても、営業部門がCRMに正しくデータを入力しなければ価値を発揮しません。